龍神咲磨の回顧録

白亜

文字の大きさ
上 下
7 / 19
第一章 龍神誕生編

第6話 お人好し

しおりを挟む


咲磨はその話を静かに聞いていた。先程のような動揺はもう感じなかった。


咲磨はゆっくりと口を開く。


「すみません、それでも俺は土地神には、龍神にはなれません。」


《…………》


「俺にとってそっちの世界は関係のないことです。話に聞く限り、命を狙われるくらいだし………。そんなになってまで他人のために行動するほど俺はお人好しじゃありません。」

(それに大切な人だっているし。)


母さんや錬、颯など咲磨にとってかけがえのない人達だ。その人達と別れろって言われても絶対無理な話である。




天玲は少し悲しそうな顔をした。妙な罪悪感に駆られるが、自分の主張は間違ってないと思う。



《そう、ですよね。私こそすみません。妖の世界の事なのに人間に頼むのは間違っていますよね。》


天玲はそう言ってうなだれた。 



沈黙の時間が続く。


(何か落ち着かない。)


咲磨はソワソワと体を動かす。自分には珍しくきつい言い方したせいか、どうも相手の反応が怖い。なんか落ち込んでるオーラ半端ない。龍だし、土地神だからもっとすぐに立ち直るかと思ったのに。






我慢できなくなってついに話しかけてしまった。


「他にあてはいるんですか?」


天玲は下を向いてくぐもった声で言う。


《いたら500年もこの場所にとどまりません。》



「そうですよねー、って、えっ、ウソ500年?そんなにここにいるの!?」


(マジカ。龍だしそうなのか。でもそんな長い時間ずっとここにいたって、寂しくなかったのか?俺だったら途中で諦めてるぞ。)



《龍にとっての500年はそれほど長くありません。》


「そうなんだ。」



天玲の表情は下を向いてて見えない。しかし『それほど長くない』と言いながら、声は落ち込んでいた。単に、咲磨が土地神になるのを断ったからかもしれないが、それでもなぜかほっとけないと思った。


初めて会ったのにそんな気持ちになるなんて、不思議な感じだ。これが親和力が高いということなのだろうか。


「なあ、俺ときどきここに来てもいいか?」

タメ口になっていた。


《え……?》


「土地神になることはできないけどさ、一緒にさがすことはできると思うんだ。もう残り短いんだろ?それなら一人でさがすより良いと思うし。」

 
天玲は心底驚いた顔をしていた。



この状況を第三者が見るとこう思うだろう。めちゃくちゃお人好しじゃないか、と。困っている人がいたら見捨てることができないのが咲磨の性だ。


《私にとってはとても有難いことですが、どうしてそこまでしてくれるのですか?》


貴方にとっては関係ないことなのに、と目で訴えているのがわかった。


咲磨は顔をポリポリかいて困ったように言った。


「いや、俺にも罪悪感があるし。関係ないとか言っときながら、やっぱ気になるんだよ。一度首を突っ込んだんだ、最後まで責任取ってくれよ?」


《……ありがとうございます。》


天玲は潤んだ声で言った。


「じゃあさ、あんたのこともっと聞かせてくれよ。」


《私のことですか?》


「うん、なんでもいいんだ。一番嬉しかったこととかさ、聞きたいんだ。」



《そう、ですね。一番嬉しいと感じたことは、ーーーーーーーーーーーーーーー









体感ととしては何時間も経ったと思ったのに、時計を見るとまだ一時間しか経っていない。


二人はたくさん喋った。天玲にとってはこんなに打ち解けた人間は初めてなのだろう。はじめこそ緊張してたがすぐに咲磨と仲良くなった。



咲磨はずっと見上げていたせいで首が痛くなっていた。


それに気づいた天玲は、すぐに人化した。


その姿は美しく長い銀髪に蒼い瞳でところどころ鱗が見える中性的な美青年だ。


咲磨はその姿にどことなく親近感を覚えた。しかしさすが龍神。オーラが違う。


眩しすぎて目を細めると、天玲が少し悲しそうにする。


「お前、絶対その顔他のやつに見せるなよ。」


罪深すぎるから、と心の中で思っておく。


1時間しか経っていないのに、完全に親友のような間柄になっていた。





「じゃあそろそろ帰るよ。」


流石に家族が心配しそうだ。


《はい、またいつでも来てくださいね。》


天玲は穏やかに言った。


咲磨はまたあの白い蛇に案内してもらい、家に帰った。








自分の部屋で咲磨は今日のことを思い出していた。


(明日も行こう。)


次の土地神を見つけるためにたくさん話したい。
 
(なんか眠いや。)


色々ありすぎたせいでベッドに入った瞬間に咲磨は眠りに落ちた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

須加さんのお気に入り

月樹《つき》
キャラ文芸
執着系神様と平凡な生活をこよなく愛する神主見習いの女の子のお話。 丸岡瑠璃は京都の須加神社の宮司を務める祖母の跡を継ぐべく、大学の神道学科に通う女子大学生。幼少期のトラウマで、目立たない人生を歩もうとするが、生まれる前からストーカーの神様とオーラが見える系イケメンに巻き込まれ、平凡とは言えない日々を送る。何も無い日常が一番愛しい……

深淵界隈

おきをたしかに
キャラ文芸
普通に暮らしたい霊感女子咲菜子&彼女を嫁にしたい神様成分1/2のイケメンが、咲菜子を狙う霊や怪異に立ち向かう! 五歳の冬に山で神隠しに遭って以来、心霊や怪異など〝人ならざるもの〟が見える霊感女子になってしまった咲菜子。霊に関わるとろくな事がないので見えても聞こえても全力でスルーすることにしているが現実はそうもいかず、定職には就けず悩みを打ち明ける友達もいない。彼氏はいるもののヒモ男で疫病神でしかない。不運なのは全部霊のせいなの?それとも……? そんな咲菜子の前に昔山で命を救ってくれた自称神様(咲菜子好みのイケメン)が現れる。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...