龍神咲磨の回顧録

白亜

文字の大きさ
上 下
5 / 19
第一章 龍神誕生編

第4話 声の正体

しおりを挟む


咲磨は、その足で龍鳴山へ向かった。

龍鳴山は薄暗く物騒なところで、地元の人間もほとんど近づかない。そしてあまり知られてないが、奥に進むと滝が流れている、らしい……。というのも、奥すぎて誰も近づかないせいで、本当かどうかわからないからだ。



咲磨は家の近くということもあって、なんとなくだが地形がわかる。



龍鳴山の山道に到着した。咲磨はとりあえず、知っている場所まで進んでいく。そこには小さい祠があるのだ。

咲磨はふわふわする頭をなんとか踏ん張って歩いていく。


カラスの声が奇妙に響き、山は静けさを保っていた。

(いくらなんでも静かすぎる。)


普通はここまでならない。咲磨の心にだんだんと不安が押し寄せてきた。何度も引き返したい衝動に駆られる。


それでも進んでいくこと約20分、咲磨の知っている祠が見えた。


そこには小さな蛇がいた。



咲磨は一瞬その姿に目を奪われた。というのも、その蛇は雪のように真っ白で、ラピスラズリのように青い瞳をしていたからだ。


(めっちゃきれい。)


蛇は咲磨を目に留めたかと思うと、そろそろと進みだし、こちらを振り返った。


(ついてこいってことか。)


咲磨は蛇に誘われるまま先へ進んでいく。
途中から道はなくなり、だんだん険しくなってくる。

咲磨は必死で蛇の後を追う。時々振り返ってくれるので、迷うことはなかった。


どれくらい時間がたっただろうか。まだ空は夕暮れている。ということはそんなに経ってはいないのだろう。


蛇は急に止まった。咲磨は息も絶え絶えになる。


その場所には一際大きい岩があった。咲磨の身長よりも大きい。なのにツルッとしていてどこか不思議な感じだ。




咲磨は飛び込んできた光景に目を疑った。



そこにあったのは、否、いたのは、純白の龍だった。

美しい蒼の瞳をしていて、なんの穢れも知らないかのような、雪よりももっと儚く、それでいて神々しい姿だった。



「俺、夢でも見てるのか?」


そうだ。そうに違いない。そもそも龍がいるなんてありえない。これが夢でないなら、一体何だというのか。


《いいえ、夢ではありません。》


純白の龍が言う。


「喋った!?」


《良かった、来てくれて……。》



現実ではありえないこの状況に困惑していたが、ふとその声に覚えがあるように感じた。


「あの、もしかして夢の中で聞こえた声の正体ですか……?」


そう、それは最近何度も見るあの不思議な夢の声だ。


《はい。私の名は白龍双玉そうぎょくあお天玲てんれいといいます。この辺り一帯を土地神として管理しておりました。》



「???ごめん、名前もそうだけど全然わからない。」


《あっすみません、そうですよね。白龍は名前のとおりです。双玉というのは、龍の命であり、この土地の宝玉です。私は2つの宝玉の中の1つ 、蒼の玉を身に宿しています。天玲は私本来の名前です。》


「はあ。」

咲磨はとりあえず相槌をうつ。


「それで、どうして俺にあんな夢を見せたんですか?」



《単刀直入に言います。どうか私の後継者となって土地神になって欲しいのです。》



「はあ!?」


(意味がわからない!俺が土地神?ムリムリムリ。なんで俺が?)



《困惑するのもわかります。しかし、どうかお願い致します。》


天玲が頭を垂れる。


咲磨はそれに慌てたが、ふと疑問に思った。

「どうして俺なんですか?貴方がいるじゃないですか。」



龍は悲しげに笑った。



《私はもう死んだ存在です。》


「え……」




それから天玲は静かに語り始めた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

須加さんのお気に入り

月樹《つき》
キャラ文芸
執着系神様と平凡な生活をこよなく愛する神主見習いの女の子のお話。 丸岡瑠璃は京都の須加神社の宮司を務める祖母の跡を継ぐべく、大学の神道学科に通う女子大学生。幼少期のトラウマで、目立たない人生を歩もうとするが、生まれる前からストーカーの神様とオーラが見える系イケメンに巻き込まれ、平凡とは言えない日々を送る。何も無い日常が一番愛しい……

深淵界隈

おきをたしかに
キャラ文芸
普通に暮らしたい霊感女子咲菜子&彼女を嫁にしたい神様成分1/2のイケメンが、咲菜子を狙う霊や怪異に立ち向かう! 五歳の冬に山で神隠しに遭って以来、心霊や怪異など〝人ならざるもの〟が見える霊感女子になってしまった咲菜子。霊に関わるとろくな事がないので見えても聞こえても全力でスルーすることにしているが現実はそうもいかず、定職には就けず悩みを打ち明ける友達もいない。彼氏はいるもののヒモ男で疫病神でしかない。不運なのは全部霊のせいなの?それとも……? そんな咲菜子の前に昔山で命を救ってくれた自称神様(咲菜子好みのイケメン)が現れる。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...