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第一章 龍神誕生編
第4話 声の正体
しおりを挟む咲磨は、その足で龍鳴山へ向かった。
龍鳴山は薄暗く物騒なところで、地元の人間もほとんど近づかない。そしてあまり知られてないが、奥に進むと滝が流れている、らしい……。というのも、奥すぎて誰も近づかないせいで、本当かどうかわからないからだ。
咲磨は家の近くということもあって、なんとなくだが地形がわかる。
龍鳴山の山道に到着した。咲磨はとりあえず、知っている場所まで進んでいく。そこには小さい祠があるのだ。
咲磨はふわふわする頭をなんとか踏ん張って歩いていく。
カラスの声が奇妙に響き、山は静けさを保っていた。
(いくらなんでも静かすぎる。)
普通はここまでならない。咲磨の心にだんだんと不安が押し寄せてきた。何度も引き返したい衝動に駆られる。
それでも進んでいくこと約20分、咲磨の知っている祠が見えた。
そこには小さな蛇がいた。
咲磨は一瞬その姿に目を奪われた。というのも、その蛇は雪のように真っ白で、ラピスラズリのように青い瞳をしていたからだ。
(めっちゃきれい。)
蛇は咲磨を目に留めたかと思うと、そろそろと進みだし、こちらを振り返った。
(ついてこいってことか。)
咲磨は蛇に誘われるまま先へ進んでいく。
途中から道はなくなり、だんだん険しくなってくる。
咲磨は必死で蛇の後を追う。時々振り返ってくれるので、迷うことはなかった。
どれくらい時間がたっただろうか。まだ空は夕暮れている。ということはそんなに経ってはいないのだろう。
蛇は急に止まった。咲磨は息も絶え絶えになる。
その場所には一際大きい岩があった。咲磨の身長よりも大きい。なのにツルッとしていてどこか不思議な感じだ。
咲磨は飛び込んできた光景に目を疑った。
そこにあったのは、否、いたのは、純白の龍だった。
美しい蒼の瞳をしていて、なんの穢れも知らないかのような、雪よりももっと儚く、それでいて神々しい姿だった。
「俺、夢でも見てるのか?」
そうだ。そうに違いない。そもそも龍がいるなんてありえない。これが夢でないなら、一体何だというのか。
《いいえ、夢ではありません。》
純白の龍が言う。
「喋った!?」
《良かった、来てくれて……。》
現実ではありえないこの状況に困惑していたが、ふとその声に覚えがあるように感じた。
「あの、もしかして夢の中で聞こえた声の正体ですか……?」
そう、それは最近何度も見るあの不思議な夢の声だ。
《はい。私の名は白龍双玉の蒼、天玲といいます。この辺り一帯を土地神として管理しておりました。》
「???ごめん、名前もそうだけど全然わからない。」
《あっすみません、そうですよね。白龍は名前のとおりです。双玉というのは、龍の命であり、この土地の宝玉です。私は2つの宝玉の中の1つ 、蒼の玉を身に宿しています。天玲は私本来の名前です。》
「はあ。」
咲磨はとりあえず相槌をうつ。
「それで、どうして俺にあんな夢を見せたんですか?」
《単刀直入に言います。どうか私の後継者となって土地神になって欲しいのです。》
「はあ!?」
(意味がわからない!俺が土地神?ムリムリムリ。なんで俺が?)
《困惑するのもわかります。しかし、どうかお願い致します。》
天玲が頭を垂れる。
咲磨はそれに慌てたが、ふと疑問に思った。
「どうして俺なんですか?貴方がいるじゃないですか。」
龍は悲しげに笑った。
《私はもう死んだ存在です。》
「え……」
それから天玲は静かに語り始めた。
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