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第一章 龍神誕生編
第2話 何気ない日常
しおりを挟むはっと目が覚めると見慣れた天井、匂い、間違いなく自分の部屋だ。着ているTシャツには大きく「水宮咲磨」と書かれている。自分の名前だ。中学の時、友達から誕プレとしてもらったのだ。
(また同じ夢だ)
これで何度目だろう。
霊的ななにかに関係しているのだろうか。咲磨はすぐに頭を振る。
(俺の考えすぎか)
咲磨はその辺のことを全く信じていない。
何気なく時計を見ると、午前8時を過ぎている。
(やばい!学校遅れる!)
咲磨はめっぽう朝に弱い。起きられないのではなく、アラームに気づかないのだ。
急いで制服に着替えて階段を下りる。朝食を食べている時間はなさそうだ。
リビングには母の結子がいた。
「母さん!なんで起こしてくれなかったんだよ!」
「何度も起こしたわよ。はいこれお弁当。朝ごはん食べれなさそうだからおにぎり作っといたわ。向こうで食べなさい。」
こういうところは我が母ながらよくできていると思う。
「あれ、錬は?」
錬とは3歳下の弟である。遅刻グセのある兄と違って、眉目秀麗・文武両道の完璧人間だ。まだ中1なのに高校数学をマスターしてる。
咲磨も勉強とスポーツはそこそこできるが、弟と比べると見劣りしてしまう。しかもただ歩いているだけだと、女と間違われるのだ。この前なんか都会へ出たときにナンパにあった。そこそこ美形なので間違えた奴からは「女だったら良かったのに」と言われる始末だ。
それ故咲磨に向かって女みたいと言うのは禁句だ。
「もうとっくに行ったわよ。どこぞのお寝坊さんと違ってね。」
ぐうの音も出ず咲磨は弁当を鞄に詰め込む。
「んじゃ、行ってきます!」
「いってらっしゃい」
これが水宮家の日常である。
咲磨は走りながらおにぎりを頬張る。これを見た友達は器用なことだと呆れるが、器用なことこそ咲磨の自己アピールポイントだと言えるだろう。
咲磨が住んでいる町は自然豊かだ。いたるところに山や川がある。咲磨の家の近くにも龍鳴山という山がある。人口は3000人程度。その割には子供の人口が多い。どこにでもあるような田舎町である。
それ故中学校を卒業した人は皆地元集中なのか、町の高校へ進学する。一応2校あるが、距離が近いため、よくある卒業式に泣くというイベントはこの町では起こらない。付近を山で囲われているため、外からくる人はほとんどいない。そのためこの町の高校は受けたら絶対合格する幻の高校だと言われている。
咲磨は一応その高校でも偏差値の高い方を選んでいる。家から2kmくらいなので、健康のためと徒歩で通っている。
しかし今はそれが祟って、教室に着いたのは予鈴のチャイムがなった後だった。
「水宮アウト~」
担任の野田先生が言う。野田先生は女の人だが、いわゆるサバサバ系で男女ともに人気がある。
「水宮、君これで何回目だい?」
「いや~努力はしてるんですよ。」
「入学してまだ一ヶ月も経ってないぞ。流石に今回は減点するからな」
「そっそれは勘弁してください。何でもします!はい!」
「ほう?そうか。では放課後の教室掃除をしてもらおうか。」
「合点です!」
クラスがどっと笑う。このようなやり取りは日常茶飯事だ。
咲磨は遅刻グセがあるだけで、授業は真面目に受ける。その姿勢からなんだかんだ行って先生は可愛がってくれるのだ。
4時間目の授業が終わり、昼休憩にはいった。この時間咲磨は、隣のクラスにいる幼馴染兼親友の夏木颯と弁当を食べる。
「咲磨ー、お前また寝坊したらしいな。」
「いや、俺もそろそろやばいなって思ってはいるんだよ。」
「お前、病院で一回診てもらったらどうだ?」
颯が少し真面目に声音で言う。
「大げさだなぁ。大丈夫だよ、死ぬわけでもあるまいし。」
「んじゃ俺が毎日お前の家に行ってインターホン鳴らしに行くぞ。それでも駄目だったら住み込みだー!」
「げぇ、それは勘弁。インターホン鳴らしに来るほうでヨロ。」
「仕方ねえな。」
このような光景を周りは生暖かく見ている。知り合いだらけの中だからこそだろう。
「そういえば咲磨、お前ペアワークのテーマ決まったのか?てか相手誰なんだ?」
この学校ではペアで1年を通して一つのことを調べる授業があるのだ。
「ん?あいつだよ。いま机で突っ伏しているやつ。名前は綾峯大和。」
「へぇ、見ない顔だな」
「田舎とはいえ子供の人口多いからな。見たことないやつくらいいるだろ。」
そうなんだけど、と颯は綾峯の方をチラチラと見る。気になるのだろうか。誰であってもウェルカムな颯が珍しい。
「颯、俺今日掃除あるから部活遅れるわ」
「おう、そうか。先生からは俺が言っとくぜ。」
「サンキュ」
咲磨と颯はともにバドミントン部に所属している。特に意味はなかったが、マネージャーがめちゃくちゃ美人だったからだ。この年の男子なんてそんなものである。
咲磨は今日の晩ごはんなんだろう、としょうもないことを考えながら、最後に残った好物のハンバーグを食べた。
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