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第0話 懐古
しおりを挟む「咲磨様、何をなさっているんですか?」
「ん?ああ、回顧録を作ろうと思って」
自分が妖になって一体何年経っただろうか。千年過ぎたところまでは覚えている。
ここまで来ると過去に何があったかだんだんと忘れてくる……というのは嘘で、妖になると記憶力が良くなるのか、随分昔のことでも鮮明に思い出される。それでも毎日日記はつけていた。日記帳の山があちこちにできているのが最近の悩みだ。
(一度ちゃんと整理しなきゃだし)
咲磨は遠い目でその山を見る。
もしも明日地球が滅んだとしても、妖たちは何事もなく生き続けるだろう。
妖が住む世界と人間が住む世界は似て非なるのだ。そんなとき自分は昔人間だった、あの地にいた、そう思えるように……というらしくないことも考えているが内緒だ。
「そうだ!灰、颯を呼んできてくれ。」
「颯様をですか?」
「おう。久しぶりに二人で昔を語りたいと思ってな。回顧録もそのほうが捗りそうだ。と言っても俺が書くのは回顧録なんて大層なものじゃないけどな。」
「承知いたしました、颯様を呼んでまいります。」
灰はそう言って席を立つ。
「本当、いろんなことがあったよな。」
と咲磨は独り言をつぶやく。
(まさか人間から妖になるとは……。人生何が起こるかわからないものだ。
……さて颯が来る前に少し進めておくか。)
咲磨は何も書いていないまっさらな本の表紙に達筆に書く。
龍神咲磨の回顧録
ーーーーこれはかつて人間であった水宮咲磨が、龍と成り様々なことを経験し成長していく過去を書いた物語であるーーー
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