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学校開始!

新たな出会い

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 真新しい制服に身を包み、洗面所で髪型を整える。
 今日は、待ちに待った入学式だ。心臓の鼓動がどんどん早くなっていくのが分かる。

「雪都、準備は出来たー?」
「う、うん」

 母さんに呼ばれて、玄関に向かった。両親共に正服に身を包み、いつもと雰囲気が違う。
 碧さんは先程仕事も出かけてしまってもういない。少し残念そうに家を出て行った碧さんの顔を思い出す。
 回想から現実に戻ると、貴志さんが僕の方をじーっと見つめていた。

「雪都くんにもっと似合う髪型があると思うんだけどなぁ」

 そう呟く貴志さんに背中を押されて、一緒に洗面所に戻る。貴志さんがかっこよく整えてくれた。

「ありがとうございます、貴志さん!」
「いえいえ」

 そんなやり取りをしているうちに入学式に行く時間になったので、三人で一緒に家を出るのだった。

♦︎

「わぁ……凄い」

 僕が今日から通う学校──景光けいこう高校は昨年立て直したらしく、外観は綺麗だ。
 
「こんなに綺麗な学校に通うだな、雪都くんは」
「ふふ、でしょう?」

 前に学校説明会で来たことがあるお母さんは、何故か得意げな表情を浮かべた。
 
「あの人がお父さんかな。イケメンー」
「お母さんも美人だよなー。あの家族、凄え」

 なんだか視線を集めている気がする。いや、気がするではなくて確実に集めている。 
 居心地の悪さを感じながら、両親の方を向いた。

「じゃあ、僕自分の教室に行くね」
「初めが肝心だからな、雪都くん!」
「頑張ってね、雪都」

 笑顔で応援してくれる両親に手を振り、自分の教室に向かう。
 先程貰ったクラス表を眺めながら歩いていたせいか、誰かとぶつかってしまった。

「ごめんなさい! よそ見をしていて……」
「痛」

 慌てて起き上がり、ぶつかった男の子の方を見た。
 あれ、この顔どこかで──と、頭の中にある記憶が開きかけた、その時だった。

「どこ見て歩いてんだよ!」

 チッと舌打ちを残し、その男の子は去ってしまった。
 その男の子の姿を見送りながら、僕はその場にしばらく立ち尽くすのだった。

♦︎

 え……なんで。そう漏れたかけた言葉をなんとか飲み込んだ。
 前の席に、先程ぶつかってしまった男の子が座っていた。
 彼に気づかれないように静かに座る。ほっと一息を吐いたその時だった。

「よォ、さっきぶりだな」

 正面の方を見ると、男の子が僕に向かい満面の笑みを浮かべていた。にやりとした、悪魔のように黒さが滲んだ笑みである。
 
「さ、さっきぶりですね。先程はすいませんでした……」
「こんなぼやっとした奴が碧の弟なんだよ」
「え、」
 
 なんでそのことを、と言おうとしたが、言葉が途切れてしまった。丁度、先生が来たのだ。
 先生が軽く自己紹介したあと、僕らの番になった。
 あ行の苗字から順番に自己紹介していき、僕の前の男の子の番になる。

高橋たかはしかえでっす。よろしく」

 高橋くんは面倒くさそうに告げたあと、自分の番が終わったとばかりに自分の席に着いた。
 先生に促され、震える拳を握り締め、立ち上がる。

「高嶺雪都です。好きな教科は国語です。よろしくお願いします」

 つっかえつつも、なんとか自己紹介を終える。やはり、何度経験しても人から注目を集めるのは苦手だ。
 ほっと一息吐いていると、「なぁ」と前の方から声がかかった。

「なんであんたが弟なの」
「え、」
「あんたが碧さんのお気に入りなんて気に入らない」
「お気に入り……?」

 お気に入り、という言葉に違和感を覚えた。確かに、僕は碧さんの弟だ。でも、お気に入りって一体なんだろうか。
 
 疑問に思ったことをぶつけようとしたら、チャイムが鳴ってしまった。どうやらこのまま入学式に行くらしい。 
 出席番号に並ぶ時に、またもや高橋くんがぼそりと僕に囁いてきた。

「お前に現実を見してやる。明日、八時に星川駅前集合な」

 それだけ告げると、満足したのか前を向いてしまった。
 その後も何度か声をかけるが、応答しではくれなかった。

 ぼんやりとしたまま入学式を終えて、家に帰る。碧さんはまだ仕事をしているらしく、帰るのは日付を回るだろうとのことだった。

 彼のことについて色々聞きたいことはあったけど、帰りが遅くなるのならば仕方がない。疲れているであろう碧さんに質問するのも申し訳ないし。先程、高橋くんについて知っているのかとLINEも送ったし、大丈夫だろう。
 不安が残りつつ、眠りにつくのだった。

 

 
 
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