死神×少女

桜咲かな

文字の大きさ
上 下
60 / 62
第11話『生命となる願い』

(4)

しおりを挟む
グリアは、亜矢のすぐ近くまで歩み寄る。
亜矢はグリアの瞳に焦点を合わせたまま、引き下がる事なく見上げる。
抵抗や拒絶の心は全く起こらない。見ず知らずの人なのに、なんでなのか?
グリアは、自分の胸元に手の平を添えた。

「だが、あんたの記憶はココにある」

グリアは『魂の器』の儀式の後に一度、亜矢の魂をその身に取り込んだ。
だから、その魂と共に亜矢の記憶もグリアの中にあるのだ。

「返しにきてやったぜ、記憶を」

グリアは胸に添えたその片手で、今度は亜矢の頬に触れた。
もう片方の手で、亜矢の腰を引き寄せ、近付ける。
亜矢の体は簡単に引き寄せられた。拒絶の意志は感じられない。

「あ……や、やめて……何す………」

亜矢は口でこそ拒否するが、拘束されている訳でもないのに身動きが出来ない。

「『口移し』いや、『口付け』か?ま、どっちでもいいが」

亜矢はその言葉に反応し、至近距離ながらもグリアを睨み返す。
だが、僅かに紅潮した頬と亜矢の鼓動が、余計に男を煽っている事に気付かない。

「いや………」

亜矢は瞳を閉じた。
拒みたい訳じゃない。どこかの潜在意識が、認めたくないと信号を送っているのだ。
彼を受け入れるという事は、この唇が触れるという事は、つまり―――?

「相変わらず素直じゃねえなあ?」

2人が触れる瞬間、亜矢の口から最後に小さく零れた言葉。


「………グリア……」


その言葉を聞いたグリアは一瞬目を見開いたが、もう止められはしない。

重なった唇、注がれる記憶。
受け止める少女、甦る記憶。

その口付けの途中、いつの間にか亜矢の閉じた瞼の端から、涙が流れていた。
2人が離れた後、亜矢は小さく息を吐いたが、いつもの彼女らしくグリアを突き放そうとしない。

今、やっと全てを思い出した。

とは言っても、あの時に自分の魂をグリアに注ぎ、倒れた後の空白時間の記憶はないが。

「グリア………生きてる………」

亜矢は、グリアの存在を確認するようにじっと見上げる。

「ああ?生きてるぜ。あんたもな」

何が起こったのか、亜矢には分からない。
『魂の器』の儀式の後に、自分は死んで、グリアは永遠の命を手に入れた、と。
その結末の後、何が起こったのか。どうして今、自分は生きているのか。
だが、確かな事実は、今もこうして、グリアも亜矢も生きて存在している事。
2人が生きる上で縛るものは、もう何もないと思えた。

「良かった…ぁ……」

亜矢はポロポロと涙を流し、グリアの体を自らの両腕で抱き締める。
今までにない亜矢の行動にグリアは意表を突かれるが、すぐに気を取り直して亜矢の顔を上に向かせ、指先でそっと涙を拭ってやる。

「言っただろ?あんたを生かしてやる、と」
「うん……ありがとう」

普段は面と向かって言えないような言葉が、今は不思議なくらい素直に出てくる。

「やっと……あなたが誰なのか分かったよ」
「ああ、記憶を戻したからな」
「そうじゃない、あなたの正体。あなたは死神じゃなかったわ」

命も、記憶も取り戻してくれた人。奪うのは、魂でなく唇と心だけ。
正直、彼の正体は何であるかは、もう問題ではない。

「残念だが、オレ様は死神だぜ」
「じゃあ、ヘタレな死神」

そんな今の亜矢にさえ、少なからずグリアは惹き付けられるものを感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小助くんの小さなぼうけん

ケンタシノリ
児童書・童話
 ある山おくで生まれた小助くんは、まだ1才になったばかりの赤ちゃんの男の子です。お母さんに大事にそだてられた小助くんは、森の中にいるたくさんの動物たちと楽しくあそんだりしてすごしますが……。 ※子ども向けの創作昔話です。この作品で使う漢字は、小学2年生までに習う漢字のみを使っています。 ※この作品には、おねしょネタ・おならネタ・うんこネタがしばしば登場します。作品をご覧の際には十分ご注意ください。 ※この作品は、小説家になろう、pixiv(ピクシブ文芸)及びエブリスタにも掲載しています。

昨日の敵は今日のパパ!

波湖 真
児童書・童話
アンジュは、途方に暮れていた。 画家のママは行方不明で、慣れない街に一人になってしまったのだ。 迷子になって助けてくれたのは騎士団のおじさんだった。 親切なおじさんに面倒を見てもらっているうちに、何故かこの国の公爵様の娘にされてしまった。 私、そんなの困ります!! アンジュの気持ちを取り残したまま、公爵家に引き取られ、そこで会ったのは超不機嫌で冷たく、意地悪な人だったのだ。 家にも帰れず、公爵様には嫌われて、泣きたいのをグッと我慢する。 そう、画家のママが戻って来るまでは、ここで頑張るしかない! アンジュは、なんとか公爵家で生きていけるのか? どうせなら楽しく過ごしたい! そんな元気でちゃっかりした女の子の物語が始まります。

先祖返りの姫王子

春紫苑
児童書・童話
「第一回きずな児童書大賞参加作品」 小国フェルドナレンに王族として生まれたトニトルスとミコーは、双子の兄妹であり、人と獣人の混血種族。 人で生まれたトニトルスは、先祖返りのため狼で生まれた妹のミコーをとても愛し、可愛がっていた。 平和に暮らしていたある日、国王夫妻が不慮の事故により他界。 トニトルスは王位を継承する準備に追われていたのだけれど、馬車での移動中に襲撃を受け――。 決死の逃亡劇は、二人を離れ離れにしてしまった。 命からがら逃げ延びた兄王子と、王宮に残され、兄の替え玉にされた妹姫が、互いのために必死で挑む国の奪還物語。

sweet!!

仔犬
BL
バイトに趣味と毎日を楽しく過ごしすぎてる3人が超絶美形不良に溺愛されるお話です。 「バイトが楽しすぎる……」 「唯のせいで羞恥心がなくなっちゃって」 「……いや、俺が媚び売れるとでも思ってんの?」

【柴犬?】の無双から始まる、冒険者科女子高生の日常はかなりおかしいらしい。

加藤伊織
ファンタジー
累計150万PV突破。へっぽこ+もふもふ+腹黒学園ファンタジー。 毎日7時更新。サンバ仮面、ダメステアイドル、【柴犬?】いいえ、一番おかしいのは主人公! これは、ダンジョンが当たり前にある世界の中で、冒険者科在籍なのにダンジョン一辺倒ではない女子高生の、かなーりおかしい日常を描いています。 県立高校冒険者科の女子高生・柳川柚香(やながわ ゆずか)は友人と訪れたダンジョンで首輪を付けていない柴犬に出会う。 誰かが連れてきたペットの首輪が抜けてしまったのだろうと思った柚香は、ダンジョン配信をしながら柴犬を保護しようとするが、「おいで」と声を掛けて舐められた瞬間にジョブ【テイマー】と従魔【個体α】を得たというアナウンスが流れた。 柴犬はめちゃくちゃ可愛い! でもこれ本当に柴犬なの? でも柴犬にしか見えないし! そして種族を見たらなんと【柴犬?】って! なんでそこにハテナが付いてるの!? ヤマトと名付けた【柴犬?】は超絶力持ちで柚香を引きずるし、魔物の魔石も食べちゃうなかなかの【?】っぷり。 見ている分には楽しいけれど、やってる本人は大変なダンジョン配信は盛り上がりを見せ、なんと一晩で50万再生というとんでもない事態を引き起こす。 アイドルを助けたり謎のサンバ仮面が現れたり、柚香の周囲はトラブルだらけ。(原因として本人含む) しかも柚香は、そもそも冒険者になりたくて冒険者科に入ったのではなかったのです! そこからもう周囲に突っ込まれていたり! 過激な多方面オタクで若俳沼のママ、驚きの過去を持ってたパパ、そしてダメステータスすぎてブートキャンプさせられる口の悪いリアル癒やし系アイドル(♂)に個性の強すぎるクラスメイトや先輩たち。 ひよっこテイマーの日常は、時々ダン配、日々特訓。友達の配信にも駆り出されるし、何故かアイドル活動までやっちゃったり!? 悩みがあれば雑談配信で相談もします。だって、「三人寄れば文殊の知恵」だからね! 夏休みには合宿もあるし、体育祭も文化祭も大騒ぎ。青春は、爆発だー! 我が道を行くつよつよ【柴犬?】、本当はアイドルしたくない俳優志望のアイドルたちと共に、「50万再生の豪運シンデレラガール・ゆ~か」は今日も全力で突っ走ります! この作品は、他サイトでも連載しております。 ※イメージ画像にAI生成画像を使用しております。

玲奈と、境ノ森町の魔法使い ―ワクワクはドラゴンと不思議を添えて―

杵島 灯
児童書・童話
“境ノ森町(さかいのもりまち)”に引っ越してきた小学五年生の女の子、彗崎(はくさき) 玲奈(れな)は、いきなりすごいワクワクに出会う。 なんと『夜空をホウキで飛ぶ男の子』と『小さなドラゴン』を見てしまったのだ。 ホウキで空を飛ぶ人間も、ドラゴンも、玲奈は今まで見たことがない。 しかもその男の子を玲奈は転校初日に同じクラスで見つけてしまった。 名前は、宝城(たからぎ) ヒスイ。 正体は、魔法使い!? 「オレの役目は『ちがう世界から入り込んできた悪い魔法使いたち』を、元の世界へ送り返すことなんだ」 「キュー! キュキュ!」 「……オレと、ドラゴンのキューイの役目は」 「キュ!」 普通なら見えないはずの『魔法使いたち』が見えちゃう玲奈は、ヒスイのお手伝いをすることに! 元気な女の子とちょっぴりひねくれた男の子、そして意外と可愛いドラゴンの物語。 イラスト:銀タ篇様

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

いい先生とは・・・

未来教育花恋堂
児童書・童話
いい先生についての評論

処理中です...