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第10話『最後の選択』
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2人の視線が、近付いていく。
相変わらず、目の前の死神の顔は、くやしいくらい綺麗で。
「今日は今までになく素直だな?オレ様に惚れたか?」
この至近距離でも、相変わらずな死神。いつもの彼だった。
「…………バカ」
それでも、いつも死神は唇を重ねるその瞬間だけは、真剣な眼をしていたから。
その時の彼は、その一瞬だけは、信じられる気がしたから。
心臓が高鳴る。不安?期待?それとも、もっと別の感情?
唇が触れる瞬間、グリアはそんな不安に震える亜矢の片手に、そっと触れた。
「…………!?」
亜矢がその感触に驚いた。
グリアは、亜矢の手を自らの手で包んだ。
言葉はなくても、優しく包むグリアの手から、心が伝わる。
『オレ様を信じろ』と。
ーーそうだ、いつもそうだった。
グリアは、いつも言葉で伝えてくる人ではなかった。
こうやって、触れる事によって伝わってくるものが、何よりもグリアの心。
深く重ねた唇が、熱かった。
これは、『命の力』の熱さだろうか?
熱に引き込まれ、全ての感覚を失いそうな錯覚を起こした時、2人はようやく離れた。
亜矢は頬を紅潮させ、自分の胸に手を当てた。
「なに……これ?熱い………!」
心臓が、何か大きな力に満たされ、燃えているように熱い。
「これで、『魂の器』の完成だ。あんたの心臓は完全に甦った」
グリアが淡々として言うが、亜矢は不安な表情を浮かべてグリアを見る。
「死神………」
『魂の器』が完成した今、早く亜矢の魂を食べなければ、グリアの方が消滅してしまう。
だが、魂を喰われる事は、人間にとって『死』。
最後の選択の時が来た。
それなのに、グリアは落ち着いた様子でいる。どうするつもりだろうか。
その時だった。
「やっと、『魂の器』が完成したね」
2人だけが存在するはずのこの空間に、もう1つの声が響いてきた。
亜矢が、白い霧の向こうからこちらに近付いてくる影に気付き、目をこらす。
グリアは口を閉ざしたまま、目を細め、その鋭い視線でその影を捕らえる。
ゆっくりとした歩みで2人の前に姿を現したのは………
「うそっ……リョウくんっ!?」
そのリョウの姿を見た時、亜矢は今までにない衝撃を受けた。
リョウの背中には、深黒の色に染まった二対の羽根。
亜矢はリョウの羽根を見るのは初めてだったが、純白という天使の羽根のイメージからは想像も出来ない、その闇色の翼に恐怖を感じた。
そして、リョウの手には………長く鋭い刃を持つ『黒い鎌』が握られていた。
グリアの持つ『死神の鎌』の白い刃と対をなすような、黒の刃。
それは、天使が持つに相応しくない、邪悪な闇を纏った武器。
「亜矢ちゃんの魂は、ボクが狩る」
そう言うリョウの眼には、光も感情も宿っていない。
ただ、目の前の獲物に切り掛かろうとしているだけに見える。
「な、なんで………?一体どうしたの、リョウくん!?」
自分に向けられた刃。リョウの異常な言動に、亜矢の全身が震え出す。
「ちっ、ようやく本性を現しやがったか…リョウ!!」
グリアが舌打ちをした後、ギリっと歯を鳴らした。
グリアはすでに、以前からリョウの異変に気付いていた。
こうなる事を、予測していたのだ。
相変わらず、目の前の死神の顔は、くやしいくらい綺麗で。
「今日は今までになく素直だな?オレ様に惚れたか?」
この至近距離でも、相変わらずな死神。いつもの彼だった。
「…………バカ」
それでも、いつも死神は唇を重ねるその瞬間だけは、真剣な眼をしていたから。
その時の彼は、その一瞬だけは、信じられる気がしたから。
心臓が高鳴る。不安?期待?それとも、もっと別の感情?
唇が触れる瞬間、グリアはそんな不安に震える亜矢の片手に、そっと触れた。
「…………!?」
亜矢がその感触に驚いた。
グリアは、亜矢の手を自らの手で包んだ。
言葉はなくても、優しく包むグリアの手から、心が伝わる。
『オレ様を信じろ』と。
ーーそうだ、いつもそうだった。
グリアは、いつも言葉で伝えてくる人ではなかった。
こうやって、触れる事によって伝わってくるものが、何よりもグリアの心。
深く重ねた唇が、熱かった。
これは、『命の力』の熱さだろうか?
熱に引き込まれ、全ての感覚を失いそうな錯覚を起こした時、2人はようやく離れた。
亜矢は頬を紅潮させ、自分の胸に手を当てた。
「なに……これ?熱い………!」
心臓が、何か大きな力に満たされ、燃えているように熱い。
「これで、『魂の器』の完成だ。あんたの心臓は完全に甦った」
グリアが淡々として言うが、亜矢は不安な表情を浮かべてグリアを見る。
「死神………」
『魂の器』が完成した今、早く亜矢の魂を食べなければ、グリアの方が消滅してしまう。
だが、魂を喰われる事は、人間にとって『死』。
最後の選択の時が来た。
それなのに、グリアは落ち着いた様子でいる。どうするつもりだろうか。
その時だった。
「やっと、『魂の器』が完成したね」
2人だけが存在するはずのこの空間に、もう1つの声が響いてきた。
亜矢が、白い霧の向こうからこちらに近付いてくる影に気付き、目をこらす。
グリアは口を閉ざしたまま、目を細め、その鋭い視線でその影を捕らえる。
ゆっくりとした歩みで2人の前に姿を現したのは………
「うそっ……リョウくんっ!?」
そのリョウの姿を見た時、亜矢は今までにない衝撃を受けた。
リョウの背中には、深黒の色に染まった二対の羽根。
亜矢はリョウの羽根を見るのは初めてだったが、純白という天使の羽根のイメージからは想像も出来ない、その闇色の翼に恐怖を感じた。
そして、リョウの手には………長く鋭い刃を持つ『黒い鎌』が握られていた。
グリアの持つ『死神の鎌』の白い刃と対をなすような、黒の刃。
それは、天使が持つに相応しくない、邪悪な闇を纏った武器。
「亜矢ちゃんの魂は、ボクが狩る」
そう言うリョウの眼には、光も感情も宿っていない。
ただ、目の前の獲物に切り掛かろうとしているだけに見える。
「な、なんで………?一体どうしたの、リョウくん!?」
自分に向けられた刃。リョウの異常な言動に、亜矢の全身が震え出す。
「ちっ、ようやく本性を現しやがったか…リョウ!!」
グリアが舌打ちをした後、ギリっと歯を鳴らした。
グリアはすでに、以前からリョウの異変に気付いていた。
こうなる事を、予測していたのだ。
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