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第8話『大魔王襲来(後)』
(6)
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亜矢は玄関を出た。
すると目の前には、腕を組み、壁に寄り掛かっている死神の姿があった。
じっとただ、こちらを見ている。
「ずっとここで待ってたの?」
亜矢が静かに歩を進めながら、グリアの正面へと近付く。
「いや?そろそろ来る頃だろうと思ってよ」
さすが死神である。何でこうも、亜矢の心を読んでしまうのか。
亜矢がグリアの正面に立つと、ようやくグリアは腕を解いて亜矢を見下ろす。
亜矢はどこか視線を泳がせ、何か照れているのか、目を合わせずに言う。
「………その、今日は………一緒に来てくれて……」
亜矢が助けを求めて学校に行き、オランに迫られていた時に救ってくれた事。
何も言わずに、学校をサボって一緒に家まで来てくれた事。
今日は色々ありすぎて正面から言えなかったが。
「死神……」
亜矢は少しだけ顔を上げる。
グリアは一切の表情もなく、一方的に紡がれる亜矢の言葉を受けている。
「ありが………」
そこまで亜矢が言いかけた時。
フっと、亜矢の全身から力が抜けていった。
亜矢の視界に映る全てが、色を無くしていく。
倒れかけた亜矢を、反射的にグリアは両腕で支える。
「亜矢っ!?」
すでに、亜矢に意識はない。生命力が消えかかっているのが分かる。
(しまった、オレとした事がっ………!!)
すでに、前に『口移し』をした時から24時間が経とうとしていたのだ。
今までなら、命が切れかかると何らかの前兆が亜矢に起こっていた。
だが、今回は色々な事がありすぎて、亜矢の体がその前兆すらも認識する余裕が無かったのだろう。
だから今、こんな極限の状態になるまで気付かなかった。
「チッ………!」
グリアは場所も構わず、亜矢の体を支えながらその唇に自らを口付ける。
果たして、間に合うだろうか?
命が完全に切れてしまってから口移しをしても、意味がない。手遅れなのだ。
亜矢の唇からは何の反応も感じられないが、グリアは命の力を注ぎ続けた。
亜矢を抱き支える腕に、自然と力がこもる。
やがて、亜矢の瞼がゆっくりと開かれた。
うっすらと開かれた瞼から覗く瞳に、グリアの瞳の色が映る。
それに反応して、グリアは唇を離す。
しばらく、鼻が触れそうなその距離でお互いの顔を見合わせていたが。
亜矢の身体を引き離したのは、グリアの方からだった。
「死…神………?」
亜矢はただ呆然と、目の前の死神を見返すしかなかった。
グリアの眼は怖いくらい冷たく、まるで相手を射抜くようなもの。
「都合のいい時だけ、オレ様を頼るんじゃねえ」
グリアの口から出たのは、思ってもいなかった言葉で。
亜矢は思わず息を止める。
今までにない彼の言葉。その腕からも、瞳からも冷たく引き離され。
「あ、あたし……」
何も返せない。
「てめえが死にそうになって、何が人助けだよ?」
グリアの言葉の意味が分からなくもない。でも、心では理解できない。
亜矢はいつも、自分の事よりも他人の事を優先する。
例え、自分の命が尽きる危険にあろうとも。
それでいて、いつも『口移し』に抵抗するのである。
この前の美保の時だって、今回の事だって。
亜矢は結局、自分の命を落としかけた。
誰かを救おうとしたばかりに、自分の事が見えなくなった。
言い換えれば、グリアの言葉は『自分の命を大切にしろ』という意味なのだろう。
それは、魂を狩る『死神』らしくない台詞ではあるが。
だが、亜矢の命だからこそ。
亜矢だからこそ、グリアにとってはその言葉に意味がある。
すると目の前には、腕を組み、壁に寄り掛かっている死神の姿があった。
じっとただ、こちらを見ている。
「ずっとここで待ってたの?」
亜矢が静かに歩を進めながら、グリアの正面へと近付く。
「いや?そろそろ来る頃だろうと思ってよ」
さすが死神である。何でこうも、亜矢の心を読んでしまうのか。
亜矢がグリアの正面に立つと、ようやくグリアは腕を解いて亜矢を見下ろす。
亜矢はどこか視線を泳がせ、何か照れているのか、目を合わせずに言う。
「………その、今日は………一緒に来てくれて……」
亜矢が助けを求めて学校に行き、オランに迫られていた時に救ってくれた事。
何も言わずに、学校をサボって一緒に家まで来てくれた事。
今日は色々ありすぎて正面から言えなかったが。
「死神……」
亜矢は少しだけ顔を上げる。
グリアは一切の表情もなく、一方的に紡がれる亜矢の言葉を受けている。
「ありが………」
そこまで亜矢が言いかけた時。
フっと、亜矢の全身から力が抜けていった。
亜矢の視界に映る全てが、色を無くしていく。
倒れかけた亜矢を、反射的にグリアは両腕で支える。
「亜矢っ!?」
すでに、亜矢に意識はない。生命力が消えかかっているのが分かる。
(しまった、オレとした事がっ………!!)
すでに、前に『口移し』をした時から24時間が経とうとしていたのだ。
今までなら、命が切れかかると何らかの前兆が亜矢に起こっていた。
だが、今回は色々な事がありすぎて、亜矢の体がその前兆すらも認識する余裕が無かったのだろう。
だから今、こんな極限の状態になるまで気付かなかった。
「チッ………!」
グリアは場所も構わず、亜矢の体を支えながらその唇に自らを口付ける。
果たして、間に合うだろうか?
命が完全に切れてしまってから口移しをしても、意味がない。手遅れなのだ。
亜矢の唇からは何の反応も感じられないが、グリアは命の力を注ぎ続けた。
亜矢を抱き支える腕に、自然と力がこもる。
やがて、亜矢の瞼がゆっくりと開かれた。
うっすらと開かれた瞼から覗く瞳に、グリアの瞳の色が映る。
それに反応して、グリアは唇を離す。
しばらく、鼻が触れそうなその距離でお互いの顔を見合わせていたが。
亜矢の身体を引き離したのは、グリアの方からだった。
「死…神………?」
亜矢はただ呆然と、目の前の死神を見返すしかなかった。
グリアの眼は怖いくらい冷たく、まるで相手を射抜くようなもの。
「都合のいい時だけ、オレ様を頼るんじゃねえ」
グリアの口から出たのは、思ってもいなかった言葉で。
亜矢は思わず息を止める。
今までにない彼の言葉。その腕からも、瞳からも冷たく引き離され。
「あ、あたし……」
何も返せない。
「てめえが死にそうになって、何が人助けだよ?」
グリアの言葉の意味が分からなくもない。でも、心では理解できない。
亜矢はいつも、自分の事よりも他人の事を優先する。
例え、自分の命が尽きる危険にあろうとも。
それでいて、いつも『口移し』に抵抗するのである。
この前の美保の時だって、今回の事だって。
亜矢は結局、自分の命を落としかけた。
誰かを救おうとしたばかりに、自分の事が見えなくなった。
言い換えれば、グリアの言葉は『自分の命を大切にしろ』という意味なのだろう。
それは、魂を狩る『死神』らしくない台詞ではあるが。
だが、亜矢の命だからこそ。
亜矢だからこそ、グリアにとってはその言葉に意味がある。
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