26 / 62
第5話『小悪魔召喚』
(4)
しおりを挟む
コランが両手を前に出すと、ポンっという音と共に、その手の中に刃先が三つに分かれた長い槍が出現した。
死神の『鎌』に対し、この『槍』こそが悪魔の武器(アイテム)なのだろう。
コランが子供な事もあり、大人の丈ほどある長い槍を持った姿はどこかアンバランスで、迫力というよりは愛嬌を感じる。
コランはその槍の刃先を亜矢に向けた。
「いくぞっ、『死者蘇生』!!……えいっ!!」
その掛け声と共に、槍の先にエネルギーが光の球となって発生し、放たれた。
だが。
「そんな事したら………ダメだよ!!」
リョウが叫ぶ。その時にはすでに遅かった。
コランの放ったエネルギーは亜矢に届く事なく、その場に留まっている。
発動する事のないそのエネルギーは雷のようなものを纏い、増幅し続け、今にも破裂しそうだった。
「えっ!?な、なんだこれっ…!?」
コランは槍を構えたまま自分の放ったエネルギーを抑えきれなくなり、吹き飛ばされそうになる自分の身体を支えようと必死に両足で踏ん張る。
「コランくんっ!?」
何が起こったのかも分からずに亜矢は叫ぶが、どうする事も出来ない。
「ちぃっ……あのバカがっ!!」
グリアは、その手に死神の鎌を出現させると、素早く構えた。
そして、大きく鎌を振ると、そのエネルギーの球体の中心から斬り裂いた。
「………消えなぁっ!!」
グリアがその腕に力をこめる。そうしているうちに球体はいくつもの光の筋となり、やがて空中へ分散して飛び散っていった。
コランは呆然と正面に視線を向けたままの状態で膝からガクっと力が抜け、床に座りこんだ。
「コランくんっ!大丈夫!?」
亜矢がコランの元へと駆け寄り、その小さな体を抱く。
コランは瞼を半分閉じ、弱々しく亜矢の顔を見返す。
「失敗…しちゃった…。アヤの願い、叶えられなかった………」
「コランくん…!」
亜矢が目を潤ませていると、背後からグリアの声が響く。
「『魂の器』が禁忌の儀式って知ってんだろ?それに反発しようとする力は全て弾き返される。悪魔のガキにどうこう出来るモンじゃねえよ、バカが」
いつも以上に冷たい言い回しに、亜矢は振り向く事なく顔を伏せた。
「亜矢ちゃんの気持ちは分かるよ。でも、ちょっとそれは無理があったね」
リョウは優しい口調で言うが、どこかその言葉に重みがある。
「なんか…疲れた…。アヤの傍は居心地いい……な………」
コランは力の入らない腕で亜矢の身体にギュっと抱きつくと、小さく微笑んだ。
そしてそのまま、瞳を閉じると小さな呼吸を繰り返す。
「あ、あれ…?コランくん、寝ちゃったわ」
リョウが亜矢の側に寄り、ニッコリと微笑む。
「無理な力を放出したせいで疲れたんだよ。悪魔は、こうやって睡眠しながらすぐ側にいる人間の生命力を吸収して自己回復するんだ」
「そ、そうなの……」
その、小悪魔の無邪気な寝顔を眺めつつも、素直に笑えない亜矢だった。
つまり今、コランは亜矢の生命力を吸収しつつ、眠っているのだ。
特別な心臓を持つ亜矢にはそれに対して何の影響も受けないが、普通の人間ならそれは死に至る行為なのだ。
『亜矢の傍が居心地いい』とコランが言ったのは、人並み以上の生命力を持つ亜矢だったからだろう。
「おい、亜矢。ちょっと来い」
グリアが亜矢の腕を掴み、軽く引張った。
亜矢は顔だけをグリアの方に向け、彼に無言で返す。
思ったよりも真剣味を帯びた彼の瞳。
グリアはどうやら、亜矢と二人で話をしたいらしい。彼の視線からそう悟った。
だが、亜矢は彼女らしくなく瞳をそらし、困惑の表情を浮かべた。
「………でも………」
亜矢は自分の膝元で眠るコランを見つめながら、思った。
自分が無理なお願いをしたせいで、コランはこんな目に合ってしまった。
結局、自分の事しか考えていないのは………自分自身だった。
「大丈夫だよ、亜矢ちゃん」
リョウの穏やかな口調に、亜矢は静かに顔を上げる。
「コランくんをベッドに寝かせておいてあげればいいんだよね?大丈夫、任せて」
それは、亜矢の心を見抜いているのか、気遣いなのか。
「ありがとう。……お願いするわ」
心の底からそう思い、亜矢はそっとコランの体をリョウに預けた。
そうして、グリアと亜矢は部屋を出て行った。
死神の『鎌』に対し、この『槍』こそが悪魔の武器(アイテム)なのだろう。
コランが子供な事もあり、大人の丈ほどある長い槍を持った姿はどこかアンバランスで、迫力というよりは愛嬌を感じる。
コランはその槍の刃先を亜矢に向けた。
「いくぞっ、『死者蘇生』!!……えいっ!!」
その掛け声と共に、槍の先にエネルギーが光の球となって発生し、放たれた。
だが。
「そんな事したら………ダメだよ!!」
リョウが叫ぶ。その時にはすでに遅かった。
コランの放ったエネルギーは亜矢に届く事なく、その場に留まっている。
発動する事のないそのエネルギーは雷のようなものを纏い、増幅し続け、今にも破裂しそうだった。
「えっ!?な、なんだこれっ…!?」
コランは槍を構えたまま自分の放ったエネルギーを抑えきれなくなり、吹き飛ばされそうになる自分の身体を支えようと必死に両足で踏ん張る。
「コランくんっ!?」
何が起こったのかも分からずに亜矢は叫ぶが、どうする事も出来ない。
「ちぃっ……あのバカがっ!!」
グリアは、その手に死神の鎌を出現させると、素早く構えた。
そして、大きく鎌を振ると、そのエネルギーの球体の中心から斬り裂いた。
「………消えなぁっ!!」
グリアがその腕に力をこめる。そうしているうちに球体はいくつもの光の筋となり、やがて空中へ分散して飛び散っていった。
コランは呆然と正面に視線を向けたままの状態で膝からガクっと力が抜け、床に座りこんだ。
「コランくんっ!大丈夫!?」
亜矢がコランの元へと駆け寄り、その小さな体を抱く。
コランは瞼を半分閉じ、弱々しく亜矢の顔を見返す。
「失敗…しちゃった…。アヤの願い、叶えられなかった………」
「コランくん…!」
亜矢が目を潤ませていると、背後からグリアの声が響く。
「『魂の器』が禁忌の儀式って知ってんだろ?それに反発しようとする力は全て弾き返される。悪魔のガキにどうこう出来るモンじゃねえよ、バカが」
いつも以上に冷たい言い回しに、亜矢は振り向く事なく顔を伏せた。
「亜矢ちゃんの気持ちは分かるよ。でも、ちょっとそれは無理があったね」
リョウは優しい口調で言うが、どこかその言葉に重みがある。
「なんか…疲れた…。アヤの傍は居心地いい……な………」
コランは力の入らない腕で亜矢の身体にギュっと抱きつくと、小さく微笑んだ。
そしてそのまま、瞳を閉じると小さな呼吸を繰り返す。
「あ、あれ…?コランくん、寝ちゃったわ」
リョウが亜矢の側に寄り、ニッコリと微笑む。
「無理な力を放出したせいで疲れたんだよ。悪魔は、こうやって睡眠しながらすぐ側にいる人間の生命力を吸収して自己回復するんだ」
「そ、そうなの……」
その、小悪魔の無邪気な寝顔を眺めつつも、素直に笑えない亜矢だった。
つまり今、コランは亜矢の生命力を吸収しつつ、眠っているのだ。
特別な心臓を持つ亜矢にはそれに対して何の影響も受けないが、普通の人間ならそれは死に至る行為なのだ。
『亜矢の傍が居心地いい』とコランが言ったのは、人並み以上の生命力を持つ亜矢だったからだろう。
「おい、亜矢。ちょっと来い」
グリアが亜矢の腕を掴み、軽く引張った。
亜矢は顔だけをグリアの方に向け、彼に無言で返す。
思ったよりも真剣味を帯びた彼の瞳。
グリアはどうやら、亜矢と二人で話をしたいらしい。彼の視線からそう悟った。
だが、亜矢は彼女らしくなく瞳をそらし、困惑の表情を浮かべた。
「………でも………」
亜矢は自分の膝元で眠るコランを見つめながら、思った。
自分が無理なお願いをしたせいで、コランはこんな目に合ってしまった。
結局、自分の事しか考えていないのは………自分自身だった。
「大丈夫だよ、亜矢ちゃん」
リョウの穏やかな口調に、亜矢は静かに顔を上げる。
「コランくんをベッドに寝かせておいてあげればいいんだよね?大丈夫、任せて」
それは、亜矢の心を見抜いているのか、気遣いなのか。
「ありがとう。……お願いするわ」
心の底からそう思い、亜矢はそっとコランの体をリョウに預けた。
そうして、グリアと亜矢は部屋を出て行った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。
月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。
辺境の隅っこ暮らしが一転して、えらいこっちゃの毎日を送るハメに。
第三の天剣を手に北の地より帰還したチヨコ。
のんびりする暇もなく、今度は西へと向かうことになる。
新たな登場人物たちが絡んできて、チヨコの周囲はてんやわんや。
迷走するチヨコの明日はどっちだ!
天剣と少女の冒険譚。
剣の母シリーズ第三部、ここに開幕!
お次の舞台は、西の隣国。
平原と戦士の集う地にてチヨコを待つ、ひとつの出会い。
それはとても小さい波紋。
けれどもこの出会いが、後に世界をおおきく揺るがすことになる。
人の業が産み出した古代の遺物、蘇る災厄、燃える都……。
天剣という強大なチカラを預かる自身のあり方に悩みながらも、少しずつ前へと進むチヨコ。
旅路の果てに彼女は何を得るのか。
※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部と第二部
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」
からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。
あわせてどうぞ、ご賞味あれ。
われら名探偵部! どんな謎もヒラメキ解決☆
じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」奨励賞 受賞👑】
マユカは名探偵が大好きな女の子。隣りに住む幼なじみの隼人と一緒に同じ私立中学に入学し、「名探偵部」に入ろうとしたが、そんな部活はなかった。
なければ作ればいいじゃない!
「名探偵部」を作る条件として「謎解き」の試練を突破したり、「名探偵部」の活動として謎を解く、充実した日々。
だけど、急に隼人が怒り出して――。その理由がマユカにはわからない。
「どうして、隼人……」
猪突猛進・天真爛漫なマユカと、冷静で有能な苦労性の隼人が繰り広げる、楽しい謎解きとちょこっとラブ。
王子様の家庭教師
雨音
児童書・童話
同世代の少女に比べて、英語が堪能な柑奈。とある日、彼女は祖母の秘密【鍵】に触れたことで、異世界にトリップしてしまう。
そこではどうやら、英語が『神聖な言語』として、魔法の発動呪文に使われるらしい。
柑奈は英語の文法が浸透していないその世界で、王子様の家庭教師に就任することになるが――。
YouTuber犬『みたらし』の日常
雪月風花
児童書・童話
オレの名前は『みたらし』。
二歳の柴犬だ。
飼い主のパパさんは、YouTubeで一発当てることを夢見て、先月仕事を辞めた。
まぁいい。
オレには関係ない。
エサさえ貰えればそれでいい。
これは、そんなオレの話だ。
本作は、他小説投稿サイト『小説家になろう』『カクヨム』さんでも投稿している、いわゆる多重投稿作品となっております。
無断転載作品ではありませんので、ご注意ください。
両親大好きっ子平民聖女様は、モフモフ聖獣様と一緒に出稼ぎライフに勤しんでいます
井藤 美樹
児童書・童話
私の両親はお人好しなの。それも、超が付くほどのお人好し。
ここだけの話、生まれたての赤ちゃんよりもピュアな存在だと、私は内心思ってるほどなの。少なくとも、六歳の私よりもピュアなのは間違いないわ。
なので、すぐ人にだまされる。
でもね、そんな両親が大好きなの。とってもね。
だから、私が防波堤になるしかないよね、必然的に。生まれてくる妹弟のためにね。お姉ちゃん頑張ります。
でもまさか、こんなことになるなんて思いもしなかったよ。
こんな私が〈聖女〉なんて。絶対間違いだよね。教会の偉い人たちは間違いないって言ってるし、すっごく可愛いモフモフに懐かれるし、どうしよう。
えっ!? 聖女って給料が出るの!? なら、なります!! 頑張ります!!
両親大好きっ子平民聖女様と白いモフモフ聖獣様との出稼ぎライフ、ここに開幕です!!
【1章完】GREATEST BOONS ~幼なじみのほのぼのバディがクリエイトスキルで異世界に偉大なる恩恵をもたらします!~
丹斗大巴
児童書・童話
幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。
異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)とアイテムを生みだした! 彼らのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅するほのぼの異世界珍道中。
便利な「しおり」機能を使って読み進めることをお勧めします。さらに「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です! レーティング指定の描写はありませんが、万が一気になる方は、目次※マークをさけてご覧ください。
キミと踏み出す、最初の一歩。
青花美来
児童書・童話
中学に入学と同時に引っ越してきた千春は、あがり症ですぐ顔が真っ赤になることがコンプレックス。
そのせいで人とうまく話せず、学校では友だちもいない。
友だちの作り方に悩んでいたある日、ひょんなことから悪名高い川上くんに勉強を教えなければいけないことになった。
しかし彼はどうやら噂とは全然違うような気がして──?
人魚姫ティナリア
佐倉穂波
児童書・童話
海の国に住む人魚ティナリアは好奇心旺盛。
幼なじみのルイを巻き込んで、陸のお祭りへ出掛けました。
21話完結。
番外編あり。
【登場人物】
ティナリア……好奇心旺盛な人魚の女の子。
ルイ……ティナリアの幼なじみ。人魚の男の子。
ローズマリー……貴族の女の子。
ヒューリック……王子さま。
表紙はAIイラストアプリ「Spellai」で作成したものを編集して、文庫本の表紙みたいに作ってみました。
児童小説なので、出来るだけ分かりやすく、丁寧な文章を書くように心掛けていますが、長編の児童小説を書くのは初めてです。分かりにくい所があれば、遠慮なくご指摘ください。
小学生(高学年)~中学生の読者を想定して書いていますが、大人にも読んでもらいたい物語です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる