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第3話『天使降臨』
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目の前の道から、息を切らしたグリアが歩み寄ってくる。
走ってきたのであろう。
「何か嫌な予感がしたと思ったぜ。やはりてめえか、リョウ」
グリアはツカツカとリョウの側まで寄ると、亜矢の体を奪うようにして引き離した。
「グリア、亜矢ちゃんを早く!」
「んな事分かってんだよ!!」
グリアはリョウの目の前で亜矢に唇を重ねた。
気が立っていた為か、いつもらしくない、乱暴で荒々しい口移しだった。
命の注入が充分に終わっても離す事なく、重ねたままだ。
意識を取り戻したものの息苦しくなった亜矢は、ドンっとグリアを突き放した。
「ちょっと、苦しいわよっ…!」
グリアはその亜矢を見て、らしくない自分の行動に初めて我に返ったようだ。
「ちっ…こいつの心臓はオレ様が与えたものだ。てめえが構うんじゃねえよ」
「ボクにだって彼女の命を数時間延ばす事くらいは出来るけど…」
亜矢は、リョウとグリアの顔を交互に見ながら、訳が分からなくなった。
「ちょっと待って。二人はどういう関係で、リョウくんは何者なの?」
不機嫌なグリアはフイっと横を向いたが、リョウがニッコリと笑って亜矢の方を向いた。
「ボクは、天界から来た…人間の言葉で言う、『天使』かな」
「て、天使!?」
死神の次は、天使。
非現実的な事ばかりが続いているだけに、認めたくなくても心ではすぐに受け入れられてしまう所が悲しい。
「人の魂を狩ったと思えば、人の命を救ったりする。グリアの自分勝手な行動が、天界と冥界の秩序を乱してしまうんだよ」
「どうなろうと知った事か。てめえは、いつもオレ様の邪魔ばかりしやがって」
亜矢の心に、不安がよぎる。
天使のリョウは、自分を迎えに来たのだろうか?
本当はあの時の事故で死ぬはずだった亜矢。
グリアに仮の心臓をもらい、今もこうやって生き長らえている。
これは、許されない事なのか。人の歴史を変えてしまう事は、重罪なのか。
「ううん、今回はちょっと違うかな。亜矢ちゃんを生かした理由がボクにもちょっと分かったから」
少し表情を曇らせている亜矢に向かい、安心させるように笑いかける。
「そう言えば、美保よ!!死神、美保は見つけられたの!?」
するとグリアは頭を掻いた。
「見付けられねえよ」
「何それっ!?じゃあ、早く捜しに行くわよ!」
乗り気でないグリアはひきずられるようにして亜矢と共に走り出した。
リョウはそんな二人が去ると一人、クスっと笑った。
(あんなグリアは初めて見た。やっぱり亜矢ちゃんはすごいなあ)
リョウもゆっくりと歩き出す。
その時、前方から勢いよく走ってくる少女の姿に気付いた。
気が付いた時には遅かった。
少女は顔を伏せて前方を見ていなかったのか、速度を緩める事なく、やがてリョウと正面衝突した。
「きゃあっ」
「わっ」
ドサっと、少女が尻餅をつく。
今日はよく人とぶつかるなあ、とリョウは思いつつも、少女に手を伸ばす。
「大丈夫?」
だが、リョウの手を取るなり、少女はリョウの顔にボーッと見とれている。
リョウは「?」と思ったが、少女は立ち上がるなり、目を輝かせた。
「あの、私、美保って言います!あなたのお名前は何ですか!?フルネームで!!」
リョウは美保の勢いにたじろぐが、一瞬考えた。
「フルネーム?う~ん……そうだなぁ……。天使リョウだよ」
とっさに思い付いた、何の捻りもない名前ではあったが、美保は気にする様子はない。
「天使……リョウくん……」
美保は、頬を赤らめながらリョウを見つめていた。
結局、美保を見つけられず、次の日の学校。
亜矢はグリアと共に美保の元に向かった。
「ホラ、死神!」
亜矢が肘でつつくと、ようやくグリアが口を開いた。
「その……昨日は悪かったな。だが、オレは…」
美保はキョトンとグリアを見上げていたが、やがてニッコリと笑った。
「ううん、その事ならいいの!美保、運命の人を見つけちゃったから!」
「はあ!?」
グリアと亜矢は同時に気の抜けた声を出したが、その時、先生が教室に入ってきた。
「今日は転校生を紹介する」
そして、皆の前に現われた水色の髪の少年。
「天使リョウです、よろしく」
その天使の笑顔にクラス中の女子が騒いだが、
別の意味で心の叫びを上げてる人が三人。
(て、天使の人が何で!?)
驚く亜矢。
(まさか、あの人が同じクラスになるなんてラッキー☆やっぱ運命だわ!)
胸を躍らせる美保。
(あいつ…どういうつもりだっ!?)
殺気にも似た視線を送るグリア。
こうして、亜矢のクラスにまた新しいクラスメイトが増えた。
…………人間以外の。
走ってきたのであろう。
「何か嫌な予感がしたと思ったぜ。やはりてめえか、リョウ」
グリアはツカツカとリョウの側まで寄ると、亜矢の体を奪うようにして引き離した。
「グリア、亜矢ちゃんを早く!」
「んな事分かってんだよ!!」
グリアはリョウの目の前で亜矢に唇を重ねた。
気が立っていた為か、いつもらしくない、乱暴で荒々しい口移しだった。
命の注入が充分に終わっても離す事なく、重ねたままだ。
意識を取り戻したものの息苦しくなった亜矢は、ドンっとグリアを突き放した。
「ちょっと、苦しいわよっ…!」
グリアはその亜矢を見て、らしくない自分の行動に初めて我に返ったようだ。
「ちっ…こいつの心臓はオレ様が与えたものだ。てめえが構うんじゃねえよ」
「ボクにだって彼女の命を数時間延ばす事くらいは出来るけど…」
亜矢は、リョウとグリアの顔を交互に見ながら、訳が分からなくなった。
「ちょっと待って。二人はどういう関係で、リョウくんは何者なの?」
不機嫌なグリアはフイっと横を向いたが、リョウがニッコリと笑って亜矢の方を向いた。
「ボクは、天界から来た…人間の言葉で言う、『天使』かな」
「て、天使!?」
死神の次は、天使。
非現実的な事ばかりが続いているだけに、認めたくなくても心ではすぐに受け入れられてしまう所が悲しい。
「人の魂を狩ったと思えば、人の命を救ったりする。グリアの自分勝手な行動が、天界と冥界の秩序を乱してしまうんだよ」
「どうなろうと知った事か。てめえは、いつもオレ様の邪魔ばかりしやがって」
亜矢の心に、不安がよぎる。
天使のリョウは、自分を迎えに来たのだろうか?
本当はあの時の事故で死ぬはずだった亜矢。
グリアに仮の心臓をもらい、今もこうやって生き長らえている。
これは、許されない事なのか。人の歴史を変えてしまう事は、重罪なのか。
「ううん、今回はちょっと違うかな。亜矢ちゃんを生かした理由がボクにもちょっと分かったから」
少し表情を曇らせている亜矢に向かい、安心させるように笑いかける。
「そう言えば、美保よ!!死神、美保は見つけられたの!?」
するとグリアは頭を掻いた。
「見付けられねえよ」
「何それっ!?じゃあ、早く捜しに行くわよ!」
乗り気でないグリアはひきずられるようにして亜矢と共に走り出した。
リョウはそんな二人が去ると一人、クスっと笑った。
(あんなグリアは初めて見た。やっぱり亜矢ちゃんはすごいなあ)
リョウもゆっくりと歩き出す。
その時、前方から勢いよく走ってくる少女の姿に気付いた。
気が付いた時には遅かった。
少女は顔を伏せて前方を見ていなかったのか、速度を緩める事なく、やがてリョウと正面衝突した。
「きゃあっ」
「わっ」
ドサっと、少女が尻餅をつく。
今日はよく人とぶつかるなあ、とリョウは思いつつも、少女に手を伸ばす。
「大丈夫?」
だが、リョウの手を取るなり、少女はリョウの顔にボーッと見とれている。
リョウは「?」と思ったが、少女は立ち上がるなり、目を輝かせた。
「あの、私、美保って言います!あなたのお名前は何ですか!?フルネームで!!」
リョウは美保の勢いにたじろぐが、一瞬考えた。
「フルネーム?う~ん……そうだなぁ……。天使リョウだよ」
とっさに思い付いた、何の捻りもない名前ではあったが、美保は気にする様子はない。
「天使……リョウくん……」
美保は、頬を赤らめながらリョウを見つめていた。
結局、美保を見つけられず、次の日の学校。
亜矢はグリアと共に美保の元に向かった。
「ホラ、死神!」
亜矢が肘でつつくと、ようやくグリアが口を開いた。
「その……昨日は悪かったな。だが、オレは…」
美保はキョトンとグリアを見上げていたが、やがてニッコリと笑った。
「ううん、その事ならいいの!美保、運命の人を見つけちゃったから!」
「はあ!?」
グリアと亜矢は同時に気の抜けた声を出したが、その時、先生が教室に入ってきた。
「今日は転校生を紹介する」
そして、皆の前に現われた水色の髪の少年。
「天使リョウです、よろしく」
その天使の笑顔にクラス中の女子が騒いだが、
別の意味で心の叫びを上げてる人が三人。
(て、天使の人が何で!?)
驚く亜矢。
(まさか、あの人が同じクラスになるなんてラッキー☆やっぱ運命だわ!)
胸を躍らせる美保。
(あいつ…どういうつもりだっ!?)
殺気にも似た視線を送るグリア。
こうして、亜矢のクラスにまた新しいクラスメイトが増えた。
…………人間以外の。
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