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第21話『魂の再会』
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その後、魔界でアヤメはディアとも再会を果たした。
かつてディアは、魔王と同じようにアヤメを『主』にして仕えていた。
ディアはアヤメを目の前にしても表情は崩さず、彼女がアヤメだという事を瞬時に感じ取った。
魔王と同じように感覚で理解した。それは魔獣であるディアの本能なのだろうか。
ただ静かにアヤメに一礼して、一言。
「お帰りなさいませ、アヤメ様。お待ちしておりました」
まるで外出から帰ってきた主人を出迎えるような、自然な流れだった。
そしてアヤメの左手を手に取ると、優しくそっと……手の甲に口付けた。
それは主に対する単なる礼儀なのか、忠誠の証か、それとも……
アヤメが魔界へ行ってから、数時間後。
天王もすでに天界へと帰り、部屋には亜矢とコランの二人だけ。
すると突然クローゼットの扉が開いて、中から魔王とアヤメが出てきた。
突然の事に亜矢はもちろん、コランも驚いた。
亜矢と全く同じ姿をした人…アヤメが、魔王と一緒に居るのだから。
「アヤが……二人!?」
コランは、亜矢とアヤメを何度も交互に見ては首を傾げた。
魔王は、コランに全てを打ち明けた。
自分がコランの父親であり、アヤメが母親である事。
亜矢がアヤメの生まれ変わりであるという真実も説明はしたが、どこまで理解できたかは分からない。
だが、思いのほか驚きはせずに、コランは素直に全てを受け入れた。
「兄ちゃんが、オレのお父さん……う~~ん、そうなのかぁ……」
「コランくん、大丈夫?」
亜矢は、考え込んでいるコランを心配した。
衝撃的な真実を一気に知らされて、混乱するのも無理はない。自分もそうだったからだ。
ようやくコランが顔を上げると、そこにはいつもの明るい笑顔があった。
「でも、やっぱり変わらない!兄ちゃんは兄ちゃんだ!!」
これが、コランなりの答えだった。真実を知っても『兄ちゃん』と呼び続けるのだろう。
今までも、魔王を兄として…いや、すでに父親のように頼り、甘え、慕っていた。
本当は兄以上の存在であると、心のどこかでは感じていたのかもしれない。
だから、真実を知っても驚きはしないし、心は何も変わらない。
「あぁ、いいぜ。好きにしな、弟……いや、息子」
魔王も、コランの答えを受け入れた。
大人の都合で真実を知らされずに『弟』として育てられてきたコランを咎める事はしない。
ここでようやく、待ちきれない様子で魔王の後ろにいたアヤメが、コランの前に歩み寄った。
膝を曲げてしゃがむと、コランと同じ目線の高さで優しく微笑んだ。少し涙を浮かべている。
「コラン、私がお母さんのアヤメなの。信じてくれる?」
コランは、ただキョトンとしてアヤメを見上げた。
(アヤにそっくりな、この姉ちゃんが、オレのお母さん……)
まだ実感のないコランの疑念を晴らすかのように、アヤメは両手を伸ばしてコランを優しく抱きしめた。
「大きくなったね。ずっと会いたかったよ……愛してる、コラン」
アヤメは、コランに今までの想いを全身で伝えた。アヤメの目から一筋の涙が流れる。
約400年前、寿命の短い人間であるアヤメは、コランがまだ赤ん坊の頃に寿命が尽きてしまったからだ。
コランが感じたアヤメの感触は、亜矢に感じていた『お母さんみたいな温もり』と同じだった。
とても温かくて、安心する。そして……懐かしい。
コランは今まで親がいなくとも、寂しいとは一度も思わなかった。
でも幼い心のどこかでは自然と、母という存在を求めていた。
だからこそコランは、アヤメの生まれ変わりである亜矢の元へと召喚されたのだ。
コランが亜矢に引き寄せられ、そして魔王を亜矢の元へと導いた。
コランという存在が繋げたもの…それは、まさに家族の絆。
亜矢に出会えて、今やっとアヤメに出会えて……寂しい心が満たされた。
「……お母さん………うっ…う……」
コランが、ルビーのような赤い瞳いっぱいに涙を浮かべ、ポロポロと大粒の涙をこぼした。
同時に、亜矢の目からも涙がこぼれ落ちた。
「コランくん、良かったねぇ~~……うぅ……」
「オイ、皆して泣いてんじゃねえよ」
取り残された魔王だけが、呆れ顔で見守っていた。
アヤメは魔王と共に、魔界へと帰った。
魔王はアヤメを昔と変わらず、妃として迎え入れる。
コランは亜矢を契約者にしている事もあり、今まで通り亜矢と暮らす事にした。
コラン自身が、そう望んだのだ。
明日になれば普段通り、魔王は教師として人間界の高校に通う。
そして、亜矢も……。
何も変わらない。変わった事は、ただ1つ。
『アヤメ』という存在が加わった、新たな日常が始まろうとしていた。
リョウには、天王から今回の件の真実と経緯を話すという。
これで真実を知らずにいるのは、グリアだけになった。
グリアにそれを伝える役目は、亜矢に委ねられた。
亜矢が、魔王の妃『アヤメ』の生まれ変わりだという真実と、今日までの経緯。
果たしてグリアは、その真実を知った時に何を感じて、どう受け止めるのか―――。
かつてディアは、魔王と同じようにアヤメを『主』にして仕えていた。
ディアはアヤメを目の前にしても表情は崩さず、彼女がアヤメだという事を瞬時に感じ取った。
魔王と同じように感覚で理解した。それは魔獣であるディアの本能なのだろうか。
ただ静かにアヤメに一礼して、一言。
「お帰りなさいませ、アヤメ様。お待ちしておりました」
まるで外出から帰ってきた主人を出迎えるような、自然な流れだった。
そしてアヤメの左手を手に取ると、優しくそっと……手の甲に口付けた。
それは主に対する単なる礼儀なのか、忠誠の証か、それとも……
アヤメが魔界へ行ってから、数時間後。
天王もすでに天界へと帰り、部屋には亜矢とコランの二人だけ。
すると突然クローゼットの扉が開いて、中から魔王とアヤメが出てきた。
突然の事に亜矢はもちろん、コランも驚いた。
亜矢と全く同じ姿をした人…アヤメが、魔王と一緒に居るのだから。
「アヤが……二人!?」
コランは、亜矢とアヤメを何度も交互に見ては首を傾げた。
魔王は、コランに全てを打ち明けた。
自分がコランの父親であり、アヤメが母親である事。
亜矢がアヤメの生まれ変わりであるという真実も説明はしたが、どこまで理解できたかは分からない。
だが、思いのほか驚きはせずに、コランは素直に全てを受け入れた。
「兄ちゃんが、オレのお父さん……う~~ん、そうなのかぁ……」
「コランくん、大丈夫?」
亜矢は、考え込んでいるコランを心配した。
衝撃的な真実を一気に知らされて、混乱するのも無理はない。自分もそうだったからだ。
ようやくコランが顔を上げると、そこにはいつもの明るい笑顔があった。
「でも、やっぱり変わらない!兄ちゃんは兄ちゃんだ!!」
これが、コランなりの答えだった。真実を知っても『兄ちゃん』と呼び続けるのだろう。
今までも、魔王を兄として…いや、すでに父親のように頼り、甘え、慕っていた。
本当は兄以上の存在であると、心のどこかでは感じていたのかもしれない。
だから、真実を知っても驚きはしないし、心は何も変わらない。
「あぁ、いいぜ。好きにしな、弟……いや、息子」
魔王も、コランの答えを受け入れた。
大人の都合で真実を知らされずに『弟』として育てられてきたコランを咎める事はしない。
ここでようやく、待ちきれない様子で魔王の後ろにいたアヤメが、コランの前に歩み寄った。
膝を曲げてしゃがむと、コランと同じ目線の高さで優しく微笑んだ。少し涙を浮かべている。
「コラン、私がお母さんのアヤメなの。信じてくれる?」
コランは、ただキョトンとしてアヤメを見上げた。
(アヤにそっくりな、この姉ちゃんが、オレのお母さん……)
まだ実感のないコランの疑念を晴らすかのように、アヤメは両手を伸ばしてコランを優しく抱きしめた。
「大きくなったね。ずっと会いたかったよ……愛してる、コラン」
アヤメは、コランに今までの想いを全身で伝えた。アヤメの目から一筋の涙が流れる。
約400年前、寿命の短い人間であるアヤメは、コランがまだ赤ん坊の頃に寿命が尽きてしまったからだ。
コランが感じたアヤメの感触は、亜矢に感じていた『お母さんみたいな温もり』と同じだった。
とても温かくて、安心する。そして……懐かしい。
コランは今まで親がいなくとも、寂しいとは一度も思わなかった。
でも幼い心のどこかでは自然と、母という存在を求めていた。
だからこそコランは、アヤメの生まれ変わりである亜矢の元へと召喚されたのだ。
コランが亜矢に引き寄せられ、そして魔王を亜矢の元へと導いた。
コランという存在が繋げたもの…それは、まさに家族の絆。
亜矢に出会えて、今やっとアヤメに出会えて……寂しい心が満たされた。
「……お母さん………うっ…う……」
コランが、ルビーのような赤い瞳いっぱいに涙を浮かべ、ポロポロと大粒の涙をこぼした。
同時に、亜矢の目からも涙がこぼれ落ちた。
「コランくん、良かったねぇ~~……うぅ……」
「オイ、皆して泣いてんじゃねえよ」
取り残された魔王だけが、呆れ顔で見守っていた。
アヤメは魔王と共に、魔界へと帰った。
魔王はアヤメを昔と変わらず、妃として迎え入れる。
コランは亜矢を契約者にしている事もあり、今まで通り亜矢と暮らす事にした。
コラン自身が、そう望んだのだ。
明日になれば普段通り、魔王は教師として人間界の高校に通う。
そして、亜矢も……。
何も変わらない。変わった事は、ただ1つ。
『アヤメ』という存在が加わった、新たな日常が始まろうとしていた。
リョウには、天王から今回の件の真実と経緯を話すという。
これで真実を知らずにいるのは、グリアだけになった。
グリアにそれを伝える役目は、亜矢に委ねられた。
亜矢が、魔王の妃『アヤメ』の生まれ変わりだという真実と、今日までの経緯。
果たしてグリアは、その真実を知った時に何を感じて、どう受け止めるのか―――。
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