死神×少女+2【続編】

桜咲かな

文字の大きさ
上 下
81 / 128
第21話『魂の再会』

(2)

しおりを挟む
その後、魔界でアヤメはディアとも再会を果たした。
かつてディアは、魔王と同じようにアヤメを『主』にして仕えていた。
ディアはアヤメを目の前にしても表情は崩さず、彼女がアヤメだという事を瞬時に感じ取った。
魔王と同じように感覚で理解した。それは魔獣であるディアの本能なのだろうか。
ただ静かにアヤメに一礼して、一言。

「お帰りなさいませ、アヤメ様。お待ちしておりました」

まるで外出から帰ってきた主人を出迎えるような、自然な流れだった。
そしてアヤメの左手を手に取ると、優しくそっと……手の甲に口付けた。
それは主に対する単なる礼儀なのか、忠誠の証か、それとも……






アヤメが魔界へ行ってから、数時間後。
天王もすでに天界へと帰り、部屋には亜矢とコランの二人だけ。
すると突然クローゼットの扉が開いて、中から魔王とアヤメが出てきた。
突然の事に亜矢はもちろん、コランも驚いた。
亜矢と全く同じ姿をした人…アヤメが、魔王と一緒に居るのだから。

「アヤが……二人!?」

コランは、亜矢とアヤメを何度も交互に見ては首を傾げた。



魔王は、コランに全てを打ち明けた。
自分がコランの父親であり、アヤメが母親である事。
亜矢がアヤメの生まれ変わりであるという真実も説明はしたが、どこまで理解できたかは分からない。
だが、思いのほか驚きはせずに、コランは素直に全てを受け入れた。

「兄ちゃんが、オレのお父さん……う~~ん、そうなのかぁ……」
「コランくん、大丈夫?」

亜矢は、考え込んでいるコランを心配した。
衝撃的な真実を一気に知らされて、混乱するのも無理はない。自分もそうだったからだ。
ようやくコランが顔を上げると、そこにはいつもの明るい笑顔があった。

「でも、やっぱり変わらない!兄ちゃんは兄ちゃんだ!!」

これが、コランなりの答えだった。真実を知っても『兄ちゃん』と呼び続けるのだろう。
今までも、魔王を兄として…いや、すでに父親のように頼り、甘え、慕っていた。
本当は兄以上の存在であると、心のどこかでは感じていたのかもしれない。
だから、真実を知っても驚きはしないし、心は何も変わらない。

「あぁ、いいぜ。好きにしな、弟……いや、息子」

魔王も、コランの答えを受け入れた。
大人の都合で真実を知らされずに『弟』として育てられてきたコランを咎める事はしない。
ここでようやく、待ちきれない様子で魔王の後ろにいたアヤメが、コランの前に歩み寄った。
膝を曲げてしゃがむと、コランと同じ目線の高さで優しく微笑んだ。少し涙を浮かべている。

「コラン、私がお母さんのアヤメなの。信じてくれる?」

コランは、ただキョトンとしてアヤメを見上げた。

(アヤにそっくりな、この姉ちゃんが、オレのお母さん……)

まだ実感のないコランの疑念を晴らすかのように、アヤメは両手を伸ばしてコランを優しく抱きしめた。

「大きくなったね。ずっと会いたかったよ……愛してる、コラン」

アヤメは、コランに今までの想いを全身で伝えた。アヤメの目から一筋の涙が流れる。
約400年前、寿命の短い人間であるアヤメは、コランがまだ赤ん坊の頃に寿命が尽きてしまったからだ。
コランが感じたアヤメの感触は、亜矢に感じていた『お母さんみたいな温もり』と同じだった。
とても温かくて、安心する。そして……懐かしい。
コランは今まで親がいなくとも、寂しいとは一度も思わなかった。
でも幼い心のどこかでは自然と、母という存在を求めていた。
だからこそコランは、アヤメの生まれ変わりである亜矢の元へと召喚されたのだ。
コランが亜矢に引き寄せられ、そして魔王を亜矢の元へと導いた。
コランという存在が繋げたもの…それは、まさに家族の絆。
亜矢に出会えて、今やっとアヤメに出会えて……寂しい心が満たされた。

「……お母さん………うっ…う……」

コランが、ルビーのような赤い瞳いっぱいに涙を浮かべ、ポロポロと大粒の涙をこぼした。
同時に、亜矢の目からも涙がこぼれ落ちた。

「コランくん、良かったねぇ~~……うぅ……」
「オイ、皆して泣いてんじゃねえよ」

取り残された魔王だけが、呆れ顔で見守っていた。




アヤメは魔王と共に、魔界へと帰った。
魔王はアヤメを昔と変わらず、妃として迎え入れる。
コランは亜矢を契約者にしている事もあり、今まで通り亜矢と暮らす事にした。
コラン自身が、そう望んだのだ。
明日になれば普段通り、魔王は教師として人間界の高校に通う。
そして、亜矢も……。
何も変わらない。変わった事は、ただ1つ。
『アヤメ』という存在が加わった、新たな日常が始まろうとしていた。



リョウには、天王から今回の件の真実と経緯を話すという。
これで真実を知らずにいるのは、グリアだけになった。
グリアにそれを伝える役目は、亜矢に委ねられた。
亜矢が、魔王の妃『アヤメ』の生まれ変わりだという真実と、今日までの経緯。
果たしてグリアは、その真実を知った時に何を感じて、どう受け止めるのか―――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

朝起きたら女体化してました

たいが
恋愛
主人公の早乙女駿、朝起きると体が... ⚠誤字脱字等、めちゃくちゃあります

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

裏路地古民家カフェでまったりしたい

雪那 由多
大衆娯楽
夜月燈火は亡き祖父の家をカフェに作り直して人生を再出発。 高校時代の友人と再会からの有無を言わさぬ魔王の指示で俺の意志一つなくリフォームは進んでいく。 あれ? 俺が思ったのとなんか違うけどでも俺が想像したよりいいカフェになってるんだけど予算内ならまあいいか? え?あまい? は?コーヒー不味い? インスタントしか飲んだ事ないから分かるわけないじゃん。 はい?!修行いって来い??? しかも棒を銜えて筋トレってどんな修行?! その甲斐あって人通りのない裏路地の古民家カフェは人はいないが穏やかな時間とコーヒーの香りと周囲の優しさに助けられ今日もオープンします。 第6回ライト文芸大賞で奨励賞を頂きました!ありがとうございました!

【ショートショート】雨のおはなし

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて

ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。

俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?

柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。  お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。  婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。  そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――  ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?

処理中です...