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第11話『魂の輪廻』
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ディアに付き添われ、亜矢は人間界の自分の部屋へと戻ってきた。
ディアがクローゼットの扉を開け、亜矢は部屋の床へと足を下ろす。
どこか、おぼつかない足取りの亜矢の身体を、ディアが優しく支えた。
「…亜矢サマ、今夜は安静にして下さい。今後、お体に何かあれば、すぐにお知らせ下さい」
聞こえてはいるが、亜矢は返事を返せない。
どこか、意識が自分の物ではなくなってしまったような、不思議な感覚だった。
………自分は、間違いなく、あの瞬間に、魔王を受け入れてしまった。
ディアはそんな亜矢を見て少々迷ったが決意して、ある事を告げた。
「『魂の輪廻』の儀式には、代償を伴います。魔王サマに代わって、私がそれをお伝えします……これは私の勝手な判断です」
「代償…?」
「はい。魔王サマは儀式の代償として、自身は転生する事が出来ません」
「!?」
「魔王サマは今世で亜矢サマと結ばれるしか道がないのです」
「そんな………」
こんな意識の中でも、亜矢は確かに衝撃を受けた。
何という過酷な代償なのだろうか。
だからこそ、魔王は亜矢が例え拒もうとも、強引な形になっても、アヤメの記憶を覚醒させる必要があった。
そうでもしなければ……現世の亜矢の心は、間違いなくあの死神に……奪われてしまうだろうから。
しかし、悪魔の寿命は何万年と、気が遠くなる程に長い。
例え人間の寿命が百年で尽きてしまっても、365年後に再び、魔王はアヤメの魂と結ばれる事が出来る。
魔王の寿命が尽きるまで、アヤメは何度でも転生を繰り返す。
それは寿命の短い人間にとっては、永遠の輪廻とも言える。
魔王が代償を払ってでもアヤメに『魂の輪廻』の儀式を行った理由が、確かにそこにある。
最後にディアは、こう言葉を添えた。
「私も、アヤメ様にお仕えしておりました。ずっと、貴方様をお待ちしておりました」
ディアが魔界に帰った後も、亜矢はクローゼットの前に座り込み、何を考える訳でもなく呆然としていた。
今はまだ、アヤメとしての記憶は何1つ取り戻してはいない。
自分は、確かに春野亜矢という人間だ。……ずっと、そうでありたい。そう思っていたい。
そうしていると、隣の部屋にいたコランが来て、亜矢が帰ってきていた事に気付くと、いつもの明るい笑顔を向けて走り寄る。
「アヤ、お帰り~!!なぁ、魔界は楽しかったのか?」
無邪気なコランを見て、何故か亜矢は心が苦しくなるのを感じた。
「ねえ、コランくんのお母さんって、どんな人?」
唐突な亜矢の問いかけに、純粋なコランは少しの疑問も持たずに答える。
「う~ん、お母さんも、お父さんも、オレが赤ちゃんの時に死んだって、兄ちゃんが言ってた。だから覚えてない!」
少しも悲しそうな顔をしないコランに、亜矢の心が締め付けられる。
人間の血が流れているとはいえ、寿命の長い悪魔の子供。
母親のアヤメは、コランがまだ赤ん坊の時に寿命が尽きてしまったのだろう。
ずっと魔王やコランと一緒に居たかっただろうに。コランの成長を見守りたかっただろうに。
今はまだ、客観的にアヤメの心を察する事が出来るが、それは遠い過去の自分自身の姿。
様々な想像や想いが頭を巡り、亜矢は言葉を返す事が出来ない。代わりに涙が溢れてくる。
「でも寂しくないぜ!オレには兄ちゃんも、ディアも、アヤもいる!!」
兄だと信じて疑わないその人が、自分の父親だという事も知らずに。
亜矢は、自分のすぐ目の前で見上げる笑顔のコランに向かって、手を伸ばした。
「コランくん………おいで」
そして、亜矢の腕の中に収まってしまう程に小さなコランの身体を、そっと抱きしめた。
突然、コランが愛しくて抱きしめたい感情に襲われた。それは何故なのだろうか。
その肌、髪、瞳の色さえも。コランがまるで、魔王の生き写しのようにも見えた。
抱きしめられたコランは、嬉しそうだ。
「えへへー♪アヤ、大好きー!!」
コランは、ただ無邪気に抱き返してくる。
『魂の輪廻』の儀式が完成した今、魔王を一度でも受け入れてしまった今―――
例え望まなくとも、亜矢はこの先、徐々に前世の記憶を取り戻していく事になる。
その時―――
亜矢の中のアヤメが覚醒してしまった時―――
間違いなく亜矢は、当たり前のように………魔王を選んでしまうだろう。
死神に与えられ、蘇った亜矢の心臓と記憶。
魔王に転生させられ、輪廻を繰り返すアヤメの魂と記憶。
一人の少女が、たった1つの心と身体で抱えるのは、皮肉とも取れる、過酷な運命の巡り合わせだった。
ディアがクローゼットの扉を開け、亜矢は部屋の床へと足を下ろす。
どこか、おぼつかない足取りの亜矢の身体を、ディアが優しく支えた。
「…亜矢サマ、今夜は安静にして下さい。今後、お体に何かあれば、すぐにお知らせ下さい」
聞こえてはいるが、亜矢は返事を返せない。
どこか、意識が自分の物ではなくなってしまったような、不思議な感覚だった。
………自分は、間違いなく、あの瞬間に、魔王を受け入れてしまった。
ディアはそんな亜矢を見て少々迷ったが決意して、ある事を告げた。
「『魂の輪廻』の儀式には、代償を伴います。魔王サマに代わって、私がそれをお伝えします……これは私の勝手な判断です」
「代償…?」
「はい。魔王サマは儀式の代償として、自身は転生する事が出来ません」
「!?」
「魔王サマは今世で亜矢サマと結ばれるしか道がないのです」
「そんな………」
こんな意識の中でも、亜矢は確かに衝撃を受けた。
何という過酷な代償なのだろうか。
だからこそ、魔王は亜矢が例え拒もうとも、強引な形になっても、アヤメの記憶を覚醒させる必要があった。
そうでもしなければ……現世の亜矢の心は、間違いなくあの死神に……奪われてしまうだろうから。
しかし、悪魔の寿命は何万年と、気が遠くなる程に長い。
例え人間の寿命が百年で尽きてしまっても、365年後に再び、魔王はアヤメの魂と結ばれる事が出来る。
魔王の寿命が尽きるまで、アヤメは何度でも転生を繰り返す。
それは寿命の短い人間にとっては、永遠の輪廻とも言える。
魔王が代償を払ってでもアヤメに『魂の輪廻』の儀式を行った理由が、確かにそこにある。
最後にディアは、こう言葉を添えた。
「私も、アヤメ様にお仕えしておりました。ずっと、貴方様をお待ちしておりました」
ディアが魔界に帰った後も、亜矢はクローゼットの前に座り込み、何を考える訳でもなく呆然としていた。
今はまだ、アヤメとしての記憶は何1つ取り戻してはいない。
自分は、確かに春野亜矢という人間だ。……ずっと、そうでありたい。そう思っていたい。
そうしていると、隣の部屋にいたコランが来て、亜矢が帰ってきていた事に気付くと、いつもの明るい笑顔を向けて走り寄る。
「アヤ、お帰り~!!なぁ、魔界は楽しかったのか?」
無邪気なコランを見て、何故か亜矢は心が苦しくなるのを感じた。
「ねえ、コランくんのお母さんって、どんな人?」
唐突な亜矢の問いかけに、純粋なコランは少しの疑問も持たずに答える。
「う~ん、お母さんも、お父さんも、オレが赤ちゃんの時に死んだって、兄ちゃんが言ってた。だから覚えてない!」
少しも悲しそうな顔をしないコランに、亜矢の心が締め付けられる。
人間の血が流れているとはいえ、寿命の長い悪魔の子供。
母親のアヤメは、コランがまだ赤ん坊の時に寿命が尽きてしまったのだろう。
ずっと魔王やコランと一緒に居たかっただろうに。コランの成長を見守りたかっただろうに。
今はまだ、客観的にアヤメの心を察する事が出来るが、それは遠い過去の自分自身の姿。
様々な想像や想いが頭を巡り、亜矢は言葉を返す事が出来ない。代わりに涙が溢れてくる。
「でも寂しくないぜ!オレには兄ちゃんも、ディアも、アヤもいる!!」
兄だと信じて疑わないその人が、自分の父親だという事も知らずに。
亜矢は、自分のすぐ目の前で見上げる笑顔のコランに向かって、手を伸ばした。
「コランくん………おいで」
そして、亜矢の腕の中に収まってしまう程に小さなコランの身体を、そっと抱きしめた。
突然、コランが愛しくて抱きしめたい感情に襲われた。それは何故なのだろうか。
その肌、髪、瞳の色さえも。コランがまるで、魔王の生き写しのようにも見えた。
抱きしめられたコランは、嬉しそうだ。
「えへへー♪アヤ、大好きー!!」
コランは、ただ無邪気に抱き返してくる。
『魂の輪廻』の儀式が完成した今、魔王を一度でも受け入れてしまった今―――
例え望まなくとも、亜矢はこの先、徐々に前世の記憶を取り戻していく事になる。
その時―――
亜矢の中のアヤメが覚醒してしまった時―――
間違いなく亜矢は、当たり前のように………魔王を選んでしまうだろう。
死神に与えられ、蘇った亜矢の心臓と記憶。
魔王に転生させられ、輪廻を繰り返すアヤメの魂と記憶。
一人の少女が、たった1つの心と身体で抱えるのは、皮肉とも取れる、過酷な運命の巡り合わせだった。
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