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第10話『解放された想い』
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眠れぬ夜を過ごした、次の日。
人知れず過酷な道を歩み、どんなに過酷な終着点に辿り着いたとしても。
夜が明ければ、いつもの朝、いつもの日常が訪れる。
大切な人を失った者達にとっては、それは無情とも言える夜明けであった。
その日、リョウは高校に登校しなかった。
どんなに頑張って普通に授業を受けても、普通に学校で過ごそうと思っていても。
日常の中で、今ここにない彼の存在を思い出す度に、亜矢の心は耐えきれない程に痛んだ。
グリアも今日ばかりは口数が少なく、いつものように、ふざけて絡んで来る事もない。
悲しんだ所で、リョウが帰ってくる訳ではない。
そう……誰一人が欠けても、それは『日常』ではなくなっていたのだ。
「今日、リョウくんお休みなのね~。心配だけど、お見舞いに行くのも迷惑だろうし…」
亜矢の親友・美保が、休み時間に何気なく亜矢に向かって呟いた言葉。
美保はリョウに憧れている為に、心底、心配そうにしている。
しかし、亜矢は何も返さない。
何も知らない美保は、いつもの明るい調子で続ける。
「明日は元気になって来るといいなぁ~」
「…うん、そうね…」
やっと、その一言だけで小さく相槌を打った。
明日を信じて疑わない美保と、明日こそはと信じて願う亜矢。
その想いは、同じはずなのに。
なんとか学校での1日を過ごし終え、帰り道。
重い足取りで、一人でその道を歩いていた亜矢は、ふと思い出した。
(この道って…)
何気なく歩いている、この見慣れたいつもの帰り道。
そうだ。ここは、リョウと初めて出会った場所だ。
確かあの時は、前方にグリアに似た後ろ姿があって、追いかけて話しかけたら人違いで…
それが、リョウとの出会いだった。
懐かしく思って顔を上げて、あの時のように前方に視線を向けた時。
(…………!?)
遠い視線の先に、人影があった。
グリアに似た、後ろ姿。
それは、あの日の出会いをそのまま再現したかのような映像となって、亜矢の瞳に映し出された。
亜矢の瞳が開かれる。
何かを思うより先に、そのシルエットに向かって、駆け出していた。
「リョウ……くんっ……!?」
今、確かに彼がいる。
亜矢が必死に走って追いかけるが、そんなに遠い距離ではないのに、何故か彼の背中に追いつけない。
まるで亜矢を導くかのように、その人影は一瞬、消えたかと思えば、さらに亜矢の前方遠くへ、ふわりと移動していく。
気付けば、自宅マンションの前まで来ていた。
リョウの影は、マンションの階段を上り、屋上に向かって移動していく。
亜矢も追いかけて、息を切らしながら、必死に階段を駆け上る。
どの道、屋上は行き止まりだ。
激しい呼吸で肩を揺らしながら、亜矢がその広い屋上のスペースに辿り着いた時。
亜矢を待っていたかのように、穏やかな顔で。
ただ静かに佇む、『彼』の姿があった。
亜矢が、静かに歩み寄る。
「リョウ……くん……………」
そこに、確かにリョウがいた。
亜矢はリョウのすぐ目の前まで歩み寄ると、彼の存在を確かめるかのように、瞬きも忘れて目を見張る。
人知れず過酷な道を歩み、どんなに過酷な終着点に辿り着いたとしても。
夜が明ければ、いつもの朝、いつもの日常が訪れる。
大切な人を失った者達にとっては、それは無情とも言える夜明けであった。
その日、リョウは高校に登校しなかった。
どんなに頑張って普通に授業を受けても、普通に学校で過ごそうと思っていても。
日常の中で、今ここにない彼の存在を思い出す度に、亜矢の心は耐えきれない程に痛んだ。
グリアも今日ばかりは口数が少なく、いつものように、ふざけて絡んで来る事もない。
悲しんだ所で、リョウが帰ってくる訳ではない。
そう……誰一人が欠けても、それは『日常』ではなくなっていたのだ。
「今日、リョウくんお休みなのね~。心配だけど、お見舞いに行くのも迷惑だろうし…」
亜矢の親友・美保が、休み時間に何気なく亜矢に向かって呟いた言葉。
美保はリョウに憧れている為に、心底、心配そうにしている。
しかし、亜矢は何も返さない。
何も知らない美保は、いつもの明るい調子で続ける。
「明日は元気になって来るといいなぁ~」
「…うん、そうね…」
やっと、その一言だけで小さく相槌を打った。
明日を信じて疑わない美保と、明日こそはと信じて願う亜矢。
その想いは、同じはずなのに。
なんとか学校での1日を過ごし終え、帰り道。
重い足取りで、一人でその道を歩いていた亜矢は、ふと思い出した。
(この道って…)
何気なく歩いている、この見慣れたいつもの帰り道。
そうだ。ここは、リョウと初めて出会った場所だ。
確かあの時は、前方にグリアに似た後ろ姿があって、追いかけて話しかけたら人違いで…
それが、リョウとの出会いだった。
懐かしく思って顔を上げて、あの時のように前方に視線を向けた時。
(…………!?)
遠い視線の先に、人影があった。
グリアに似た、後ろ姿。
それは、あの日の出会いをそのまま再現したかのような映像となって、亜矢の瞳に映し出された。
亜矢の瞳が開かれる。
何かを思うより先に、そのシルエットに向かって、駆け出していた。
「リョウ……くんっ……!?」
今、確かに彼がいる。
亜矢が必死に走って追いかけるが、そんなに遠い距離ではないのに、何故か彼の背中に追いつけない。
まるで亜矢を導くかのように、その人影は一瞬、消えたかと思えば、さらに亜矢の前方遠くへ、ふわりと移動していく。
気付けば、自宅マンションの前まで来ていた。
リョウの影は、マンションの階段を上り、屋上に向かって移動していく。
亜矢も追いかけて、息を切らしながら、必死に階段を駆け上る。
どの道、屋上は行き止まりだ。
激しい呼吸で肩を揺らしながら、亜矢がその広い屋上のスペースに辿り着いた時。
亜矢を待っていたかのように、穏やかな顔で。
ただ静かに佇む、『彼』の姿があった。
亜矢が、静かに歩み寄る。
「リョウ……くん……………」
そこに、確かにリョウがいた。
亜矢はリョウのすぐ目の前まで歩み寄ると、彼の存在を確かめるかのように、瞬きも忘れて目を見張る。
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