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第7話『黒衣の堕天使』
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亜矢は一人、学校からの帰り道を歩く。
そうだ、自分はいつも誰かに頼っていた。
今、自分がこうして生きていられるのも、グリアからもらった命のおかげ。
そして、グリアとリョウとコランが力を融合し、その命を甦らせてくれたおかげ。
今度は、自分が彼らを助けたい。その為に、自分で動こう。
そう考えているうちに、ふと亜矢は行きつけの洋菓子店に立ち寄る事にした。
悩んだりして疲れた後には、甘い物が食べたくなる。
気分転換にもなるし、コランにおやつを買って行ってあげよう、と思い付いたのだ。
店に入り、正面すぐのショーケースを少し覗いて確認した後、亜矢は店員に向かって元気よく注文した。
「「シュークリーム、二つ下さい!」」
同時に、亜矢の隣に立っていた男性が、亜矢と全く同じ注文をした。
亜矢が横を向き、その男性と顔を見合わせた途端、驚きに声を上げた。
「……天真さん!?」
亜矢の隣でシュークリームを買っていたのは、天真だった。
亜矢は、天真の正体が天界の王だという事を知らない。
「やあ。こんな所で会うとは驚きだね」
天王は、相変わらずニッコリと愛想のいい笑顔を向けた。
この洋菓子店はテイクアウトも出来るが、同時にカフェにもなっている。
亜矢と天王は小さな席に向かい会って座り、一緒に食べる事にした。
「天真さんも、よくこのお店に来るんですか?」
「ああ。私は、シュークリームが好きなんでね」
「あたしも!ここのシュークリームって美味しいですよね!」
亜矢はシュークリームを一口食べると、その甘さと味を噛み締める。
「美味しい~!このカスタードクリームが最高!!」
ふと気付くと、目の前の天王が亜矢を見て笑っていた。
一人ではしゃいでしまい、恥ずかしくなって亜矢は赤くなった。
だが、気を取り直して言う。
「今度、新しく苺シュークリームが発売されるそうなんですよ」
「ああ、知っている。私も楽しみにしているんだよ」
「あ、やっぱりそうですか!?あたしも、発売日には3個買っちゃいます!!」
どうやら、亜矢と天王のお菓子の好みは同じようだ。
意外な共通点を見付けて会話が弾み、亜矢は今まで以上に天真に親しみを感じた。
今まで気持ちが沈んでいた分、その嬉しさで一段と盛り上がる。
「この前は、クッキーをありがとう。美味しかったよ」
天王のその言葉に、亜矢は少しだけ表情を曇らせた。
あのクッキーは、リョウと一緒に作ったものだ。
亜矢は思い出してしまったのだ。グリアとリョウの事を。
「急に元気がなくなったようだが、どうしたんだい?」
不思議そうにする天王に向かって、亜矢は思い切って打ち明けた。
「天真さんはマンションの大家さんだし、リョウくんと仲いいみたいだから気付いてるかもしれないですけど……死神とリョウくんが最近、仲が良くないんです」
天王は口を閉ざした。
グリアとリョウの絆を断ち切ったのは、天王なのだ。
だが、何も知らない亜矢に真実を語るつもりはない。
「まるで、縁を切ってしまったような感じなんです」
「……それで、春野さんはどうする?」
特に何かをアドバイスする訳でもなく、天王はそう問いかけた。
すると、亜矢は強い決意を秘めた瞳で、真直ぐ天王を見た。
正体を知られていないとは言え、こんな風に自分を見る者は初めてだ。
天王の中で、亜矢に対して今までとは違う『興味』が生まれ始めた。
「あたしは、二人に会って話をしようと思います。あの二人なら、心が離れても元の位置に戻す事が出来ると信じてます」
亜矢は、チラっと時計を見て立ち上がった。
「もうこんな時間!あたし、お先に失礼しますね」
家では、コランが亜矢の帰りを待っているのだ。
天王は亜矢を見上げると、笑いながら言う。
「春野さん……いや、亜矢さん。私は君に興味を持ったよ」
「……えっ!?」
その唐突な言葉の意味が理解出来なくて、亜矢はキョトンとした。
天王はニッコリと笑った。
「…いや。気にしなくていい」
「そ、それじゃあ…失礼します!」
亜矢は少し慌てて席を離れて、店から出ていった。
天王は席に座ったまま、相変わらず静かな眼をしていた。
だが、その瞳には珍しく、微かに疑問の色が浮かんでいる。
(運命とは、決して変えられぬ)
それが、天王の確信であり、信念である。
運命は全て自分の手の中にあり、それは誰にも拒めないものだと。
だが、亜矢は――あの少女は、この状況を変えてみせると言った。
運命を、変えてみせると。
天界の王である自分に向かって、力強い意志を見せた。
(魂の器・春野亜矢……面白いものだな)
今までは、亜矢の『魂』にしか興味がなかったはずなのに。
ふと、天王はまた、この場所で亜矢と向かい合って話したい……
理由は分からないが、そう思った。
そうだ、自分はいつも誰かに頼っていた。
今、自分がこうして生きていられるのも、グリアからもらった命のおかげ。
そして、グリアとリョウとコランが力を融合し、その命を甦らせてくれたおかげ。
今度は、自分が彼らを助けたい。その為に、自分で動こう。
そう考えているうちに、ふと亜矢は行きつけの洋菓子店に立ち寄る事にした。
悩んだりして疲れた後には、甘い物が食べたくなる。
気分転換にもなるし、コランにおやつを買って行ってあげよう、と思い付いたのだ。
店に入り、正面すぐのショーケースを少し覗いて確認した後、亜矢は店員に向かって元気よく注文した。
「「シュークリーム、二つ下さい!」」
同時に、亜矢の隣に立っていた男性が、亜矢と全く同じ注文をした。
亜矢が横を向き、その男性と顔を見合わせた途端、驚きに声を上げた。
「……天真さん!?」
亜矢の隣でシュークリームを買っていたのは、天真だった。
亜矢は、天真の正体が天界の王だという事を知らない。
「やあ。こんな所で会うとは驚きだね」
天王は、相変わらずニッコリと愛想のいい笑顔を向けた。
この洋菓子店はテイクアウトも出来るが、同時にカフェにもなっている。
亜矢と天王は小さな席に向かい会って座り、一緒に食べる事にした。
「天真さんも、よくこのお店に来るんですか?」
「ああ。私は、シュークリームが好きなんでね」
「あたしも!ここのシュークリームって美味しいですよね!」
亜矢はシュークリームを一口食べると、その甘さと味を噛み締める。
「美味しい~!このカスタードクリームが最高!!」
ふと気付くと、目の前の天王が亜矢を見て笑っていた。
一人ではしゃいでしまい、恥ずかしくなって亜矢は赤くなった。
だが、気を取り直して言う。
「今度、新しく苺シュークリームが発売されるそうなんですよ」
「ああ、知っている。私も楽しみにしているんだよ」
「あ、やっぱりそうですか!?あたしも、発売日には3個買っちゃいます!!」
どうやら、亜矢と天王のお菓子の好みは同じようだ。
意外な共通点を見付けて会話が弾み、亜矢は今まで以上に天真に親しみを感じた。
今まで気持ちが沈んでいた分、その嬉しさで一段と盛り上がる。
「この前は、クッキーをありがとう。美味しかったよ」
天王のその言葉に、亜矢は少しだけ表情を曇らせた。
あのクッキーは、リョウと一緒に作ったものだ。
亜矢は思い出してしまったのだ。グリアとリョウの事を。
「急に元気がなくなったようだが、どうしたんだい?」
不思議そうにする天王に向かって、亜矢は思い切って打ち明けた。
「天真さんはマンションの大家さんだし、リョウくんと仲いいみたいだから気付いてるかもしれないですけど……死神とリョウくんが最近、仲が良くないんです」
天王は口を閉ざした。
グリアとリョウの絆を断ち切ったのは、天王なのだ。
だが、何も知らない亜矢に真実を語るつもりはない。
「まるで、縁を切ってしまったような感じなんです」
「……それで、春野さんはどうする?」
特に何かをアドバイスする訳でもなく、天王はそう問いかけた。
すると、亜矢は強い決意を秘めた瞳で、真直ぐ天王を見た。
正体を知られていないとは言え、こんな風に自分を見る者は初めてだ。
天王の中で、亜矢に対して今までとは違う『興味』が生まれ始めた。
「あたしは、二人に会って話をしようと思います。あの二人なら、心が離れても元の位置に戻す事が出来ると信じてます」
亜矢は、チラっと時計を見て立ち上がった。
「もうこんな時間!あたし、お先に失礼しますね」
家では、コランが亜矢の帰りを待っているのだ。
天王は亜矢を見上げると、笑いながら言う。
「春野さん……いや、亜矢さん。私は君に興味を持ったよ」
「……えっ!?」
その唐突な言葉の意味が理解出来なくて、亜矢はキョトンとした。
天王はニッコリと笑った。
「…いや。気にしなくていい」
「そ、それじゃあ…失礼します!」
亜矢は少し慌てて席を離れて、店から出ていった。
天王は席に座ったまま、相変わらず静かな眼をしていた。
だが、その瞳には珍しく、微かに疑問の色が浮かんでいる。
(運命とは、決して変えられぬ)
それが、天王の確信であり、信念である。
運命は全て自分の手の中にあり、それは誰にも拒めないものだと。
だが、亜矢は――あの少女は、この状況を変えてみせると言った。
運命を、変えてみせると。
天界の王である自分に向かって、力強い意志を見せた。
(魂の器・春野亜矢……面白いものだな)
今までは、亜矢の『魂』にしか興味がなかったはずなのに。
ふと、天王はまた、この場所で亜矢と向かい合って話したい……
理由は分からないが、そう思った。
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