上 下
50 / 90
第8話『コランの決断と、ディアの決意』

(2)

しおりを挟む
……と、少し和んだところで、ここからが本題だ。
アイリは、魔獣界とエメラの目的について話した。
エメラが提示してきた『ディアを引き渡すか』『戦争か』の二択の決断だ。

「これは魔界にとって重要だし、私一人じゃ決められないから……」

そう言いながら、アイリは心配そうに隣の席のディアに視線を送る。
そう……誰よりも衝撃を受けて、事態を重く受け止めているのはディアなのだ。
ディアは瞬きも忘れて、どこか一点を見つめて深く考え込んでいる。
すると突然、コランが立ち上がって、机に両手を突いて身を乗り出した。

「これから、魔王であるオレの意見を述べる」

そう言ったコランの顔は真剣そのもので、普段の無邪気な子供っぽさは微塵も感じさせない。
まさに魔王の風格を見せていた。

「……『代理』魔王でしょ」
「レイト、うるさいぞ!」

こんな空気でも横からツッコミを入れてくるレイトに、コランもいつもの調子で言い返してしまう。
コホンと咳払いをして、コランは改めて発言をする。

「ディアは渡さない。戦争もしない。魔獣界が攻めてきたら、それは侵略だ。全力で防衛する」

コランの答えは、エメラが提示してきた二択の、どちらも選ばないものだった。
しかし、その答えはアイリが一番望んでいた答えでもある。
さらにコランは続ける。

「だって別に、エメラってヤツの二択に囚われる必要はないだろ?」

その場の誰もが、コランの堂々たる姿と言葉に注目する。

「オレたちが魔界を、魔獣が結界に頼らなくても安全に暮らせる世界にしていけばいい話じゃん」

いつもの子供っぽい口調に戻ってはいるが、そこには誰もが頷ける強い力がある。
選択肢は2つだけじゃない。可能性は無限にあると、前向きな希望を感じさせる。
それを聞いたアイリとレイトから感嘆の声が上がる。

「うん。そうだよね、さすがお兄ちゃんだよ。私も賛成する」
「王子も、たまにはいい事言うよね。感心したよ」
「おい!レイト、一言余計だぞ!」

しかし、ディアだけは口を閉ざしたままだ。
そんなディアに向かって、コランは堂々と命じる。

「ディアも魔獣界の事は気にするな。普段通りにしてろ。それでいいだろ、な?」

気にするなというのは無茶ぶりだが、強引なコランの押しにディアは頭を下げる。
ディアはコランとも絶対服従の契約を結んでいるのだ。

「はい、コラン様。承知致しました」

だが、その同意の言葉は……どこか重く感じられた。
魔界を、魔獣も安心して暮らせる世界にしていく。
言葉で言っても、それは簡単な事ではない。
実際、それが出来ないから、何百年も魔獣界は結界の中に隠されているのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「僕は絶対に、君をものにしてみせる」 挙式と新婚旅行を兼ねて訪れたハワイ。 まさか、その地に降り立った途端、 「オレ、この人と結婚するから!」 と心変わりした旦那から捨てられるとは思わない。 ホテルも追い出されビーチで途方に暮れていたら、 親切な日本人男性が声をかけてくれた。 彼は私の事情を聞き、 私のハワイでの思い出を最高のものに変えてくれた。 最後の夜。 別れた彼との思い出はここに置いていきたくて彼に抱いてもらった。 日本に帰って心機一転、やっていくんだと思ったんだけど……。 ハワイの彼の子を身籠もりました。 初見李依(27) 寝具メーカー事務 頑張り屋の努力家 人に頼らず自分だけでなんとかしようとする癖がある 自分より人の幸せを願うような人 × 和家悠将(36) ハイシェラントホテルグループ オーナー 押しが強くて俺様というより帝王 しかし気遣い上手で相手のことをよく考える 狙った獲物は逃がさない、ヤンデレ気味 身籠もったから愛されるのは、ありですか……?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

婚約破棄を喜んで受け入れてみた結果

宵闇 月
恋愛
ある日婚約者に婚約破棄を告げられたリリアナ。 喜んで受け入れてみたら… ※ 八話完結で書き終えてます。

処理中です...