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第1話『アイリの卒業と、ディアの求婚』
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魔王の私室では、魔王と王妃が、すでにソファに座って待っていた。
その横には、側近のディアも立っている。
魔王オランは、王子コランを、そのまま20代の大人にした容姿。
王妃アヤメは、王女アイリを、そのまま少しお姉さんにした容姿。
見た目が高校生くらいの子供二人を持つ両親としては若すぎる。
だが、寿命の長い悪魔である魔王は、すでに1万年は生きている。
アヤメは16世紀の日本人だが、禁忌の魔法により17歳の姿から変わらない。
「よぉ、コラン、アイリ。よく来たな。まぁ座れ」
そう言って、魔王は正面のソファに二人を座らせた。
その瞬間、アイリの胸元で光るペンダントが魔王の目に映った。
魔王はニヤリと笑って、ソファの隣に立つディアに視線を送った。
「クク……やるじゃねえか、ディア」
しかしディアは澄ました顔で、それに対しての反応を示さない。
魔王と王妃は、アイリとディアの関係も、コランと真菜の関係も、すでに認めている。
「それで父ちゃん、話って何だよ?」
コランの一言で、魔王は本題へと移る。
「あぁ。オレ様とアヤメは1年間、魔界を不在にする。留守は任せた」
突然の言葉に、アイリもコランも一瞬、呆然とする。
「え!?なんだよ、父ちゃんもお母さんも、どっか行くのか!?」
「そんな、パパもお母さんも、どこ行っちゃうの?」
兄妹揃って、似た反応をする二人であった。
だが魔王は、急に真剣な顔つきになって言い聞かせてくる。
「これは試練だ。1年間、コランが魔王となり、アイリと協力して魔界を治めろ」
魔王は、コランとアイリの高校卒業を機に、将来の予行練習とも言える『試練』を与えるつもりなのだ。
魔界では、同い年が同学年とは限らない。
コランとアイリ、そして真菜は同級生で、一緒に高校を卒業した。
ずっと魔王になる事を目指してきたコランは後先考えずに、やる気満々になる。
「うん、分かったよ父ちゃん!!オレ、立派な魔王になる!!」
「あぁ。1年間は、オレ様との連絡手段は一切ねぇからな。自力で何とかしろよ」
「大丈夫だぜ!なぁ、アイリ、オレたちで頑張ろうぜ!」
「え~~大丈夫かなぁ……」
魔王の無茶ぶりに対して、気弱なアイリは不安な返事をする。
別に、魔王と王妃が魔界から離れる必要はないのでは……とも思う。
すると魔王は、口を閉じたまま静かに待機しているディアに命じる。
「ディア。テメエは、アイリの側近として働け」
「はい、魔王サマ。承知致しました」
従順なディアは同意だけを口にして、魔王に一礼した。
しかし、ディアは本来、魔王の側近。魔王となるコランの側近に任命するのが筋のはず。
それに対しては、コランも不思議に思った。
「え?なら、オレの側近は?」
「心配いらねぇ、適任者を手配してある。明日、城に来るぜ」
どうやら魔王が手配したというコランの側近は、外部の者であるらしい。
その時、魔王の隣に座って、ずっと何かのパンフレットを読んでいた王妃アヤメが口を開いた。
「ふふ、異世界巡り、楽しみだなぁ~ねぇ、オラン?」
アヤメの言葉で、その場の誰もが悟った。
このラブラブ夫婦は、単に二人きりで異世界旅行がしたいだけなのだと……。
寿命の長い悪魔にとっての1年間とは、1ヶ月くらいの感覚なのだ。
その横には、側近のディアも立っている。
魔王オランは、王子コランを、そのまま20代の大人にした容姿。
王妃アヤメは、王女アイリを、そのまま少しお姉さんにした容姿。
見た目が高校生くらいの子供二人を持つ両親としては若すぎる。
だが、寿命の長い悪魔である魔王は、すでに1万年は生きている。
アヤメは16世紀の日本人だが、禁忌の魔法により17歳の姿から変わらない。
「よぉ、コラン、アイリ。よく来たな。まぁ座れ」
そう言って、魔王は正面のソファに二人を座らせた。
その瞬間、アイリの胸元で光るペンダントが魔王の目に映った。
魔王はニヤリと笑って、ソファの隣に立つディアに視線を送った。
「クク……やるじゃねえか、ディア」
しかしディアは澄ました顔で、それに対しての反応を示さない。
魔王と王妃は、アイリとディアの関係も、コランと真菜の関係も、すでに認めている。
「それで父ちゃん、話って何だよ?」
コランの一言で、魔王は本題へと移る。
「あぁ。オレ様とアヤメは1年間、魔界を不在にする。留守は任せた」
突然の言葉に、アイリもコランも一瞬、呆然とする。
「え!?なんだよ、父ちゃんもお母さんも、どっか行くのか!?」
「そんな、パパもお母さんも、どこ行っちゃうの?」
兄妹揃って、似た反応をする二人であった。
だが魔王は、急に真剣な顔つきになって言い聞かせてくる。
「これは試練だ。1年間、コランが魔王となり、アイリと協力して魔界を治めろ」
魔王は、コランとアイリの高校卒業を機に、将来の予行練習とも言える『試練』を与えるつもりなのだ。
魔界では、同い年が同学年とは限らない。
コランとアイリ、そして真菜は同級生で、一緒に高校を卒業した。
ずっと魔王になる事を目指してきたコランは後先考えずに、やる気満々になる。
「うん、分かったよ父ちゃん!!オレ、立派な魔王になる!!」
「あぁ。1年間は、オレ様との連絡手段は一切ねぇからな。自力で何とかしろよ」
「大丈夫だぜ!なぁ、アイリ、オレたちで頑張ろうぜ!」
「え~~大丈夫かなぁ……」
魔王の無茶ぶりに対して、気弱なアイリは不安な返事をする。
別に、魔王と王妃が魔界から離れる必要はないのでは……とも思う。
すると魔王は、口を閉じたまま静かに待機しているディアに命じる。
「ディア。テメエは、アイリの側近として働け」
「はい、魔王サマ。承知致しました」
従順なディアは同意だけを口にして、魔王に一礼した。
しかし、ディアは本来、魔王の側近。魔王となるコランの側近に任命するのが筋のはず。
それに対しては、コランも不思議に思った。
「え?なら、オレの側近は?」
「心配いらねぇ、適任者を手配してある。明日、城に来るぜ」
どうやら魔王が手配したというコランの側近は、外部の者であるらしい。
その時、魔王の隣に座って、ずっと何かのパンフレットを読んでいた王妃アヤメが口を開いた。
「ふふ、異世界巡り、楽しみだなぁ~ねぇ、オラン?」
アヤメの言葉で、その場の誰もが悟った。
このラブラブ夫婦は、単に二人きりで異世界旅行がしたいだけなのだと……。
寿命の長い悪魔にとっての1年間とは、1ヶ月くらいの感覚なのだ。
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