【完結】パラダイス

MIA

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〈3〉

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水野真衣は息を思い切り吸い込む。

(籠の鳥はこりごりよ。)

やっと自由に羽を広げて生きていける時代に転生したのに。
真衣は牢獄という籠に再び身を置くことになってしまった。

前世…『高尾太夫』
コードネーム…『吉原遊女の仙台高尾』

彼女は江戸で名を馳せた花魁であった。
正確には七代目。

高尾は代々才色兼備の最高遊女に引き継がれる称号。
その中で最も不幸に見舞われたであろう美女。
一番最初の人生では悲劇としか言えない最後を迎えた。

高尾太夫には惚れに惚れた男がいた。
心の底から愛してた男。
しかし、男には太夫ともなる遊女を買い受け出来る力はなかった。

彼女は店の稼ぎ頭。
道中を行えば、誰もが買ってみたいと憧れる。
安々と買えるわけがない。

そんな彼女が恋をした。
しかし恋をした遊女たちを待っているのは地獄の苦しみ。
惚れた男がいるのに、別の男と一夜を過ごす。
女も辛い、男も辛い。
足抜けすれば恐ろしい罰を与えられる。

幸せを掴むためには心中して、来世に託すしか道はない。
ましてや太夫にもなると、おいそれと心中することすらも叶わない。

惚れた男に見受けされれば一番だが、そんな事は極めて稀だった。

高尾太夫も例によって見受け話が出たのは惚れた男からではなかった。
しかし、遊女に決定権はない。
どんなに上り詰めても彼女は商品で、所詮は売られて買われた女なのだ。

ある日、突然。
高尾太夫は殺された。
それは自分を身請けしたはずの男の犯行だった。
その無念たるや否や。

そうして、高尾太夫は転生してからも愛を求め続けた。
気付けば牢獄の中。

真衣は現世において欲しい物を手当たり次第貪った。
自由に浮かれ、男たちに頼めば何でも叶う。

あれが欲しい。
あれが食べたい。
あれが気に入らない。
あれはいらない。

欲しいものは手元に。
いらないものはいらない。

男たちは彼女のために、ひとつ。またひとつと罪を重ねていく。
真衣を取り巻く人間が何人。
いや、何十人と命を落とした。

(あたしは悪くない。また籠の中に閉じ込められるのは絶対に嫌よ。何人殺したとしても。あたしは…羽が欲しいの。)

真衣は胸元のはだけた着物の裾をひるがえし、森へと歩みを進める。

欲しいものは欲しい。
それだけのために、戦う。



同じ頃。
堂本咲は、森の中に身を隠して様子を伺っていた。

咲は今回の『パラダイス』計画に憤慨している。

(これは正義からほど遠い悪しき愚業だ。私が正しい道へと導かねばならない。)

前世…『ジャンヌダルク』
コードネーム…『オルレアンの乙女』

彼女はフランスの危機を救った国民的ヒロインだ。
軍を率いてオルレアンを解放したジャンヌ。
その姿の勇敢さ、正義への情熱。
彼女はフランスにとって英雄であったはずなのに…。

ジャンヌが口にした言葉が、その人生を大きく狂わせる。
これは、神からのお告げである。と。

当時の時代の風潮は、魔女裁判が盛んに行われていた。
彼女の神がかった強さ、民衆を惹き付けて止まないカリスマ性。
フランスにとって、徐々に不安の種を育てていくことになる。
それは、恐れ。
ジャンヌはフランスの脅威となりつつあった。

彼女は魔女だと疑いがかかる。
しかし、神の声を聞いたという発言を否定することはなかった。
どんなに屈辱を与えられ、苦しい拷問を受けようとも、神を信じ続けた。

そして、最後は火あぶりの刑にかけられ命を落とす。

ジャンヌは死ぬまで自分の主張は曲げることがなかった。

壮絶な死を迎え、転生し、尚また戦いの地へと舞い戻った彼女。
今、心を支配しているのは正義への執念。

本間忠史。
藤森和葉。
この二人を野放しにしてはいけない。
悪しき人間はこの手で…。
そのためには勝ち残る必要がある。

(ここにいる奴らは全員悪だ。私は私の正義のために戦わなくてはいけない。それが宿命。)

咲は元々は黄色リング、すなわち有益使用者であった。
そのスキルは世のため人のために使用されていたのだ。

ただ。
彼女は恐ろしく潔癖だった。
異常なまでに正義を求め、そのやり方は徐々に激しく、過激になっていく。
悪に対しての執拗なまでの暴行。
咲は絶対に逃さない。

彼女の手によって死の淵まで追い詰められた人間は、ほとんどが口の聞けない状態となっている。
重症をおうか、精神の錯乱を引き起こすか。
良くて体の一部を失うくらいだろう。

(この計画を壊す。まずはここに放たれた犯罪者どもを制圧する。私の行動は正しいですよね?神様…。)

咲に神の声は聞こえない。

森にじっと潜み、神経を張り詰める。
その鋭い眼差しの先で何かが動いた。




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