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スクリーンに映し出されている十人の顔写真。
その上には『パラダイス計画』の文字。
「ご注目ください。彼らは『前世スキル悪用罪』により収容されている者たちです。写真の下には細かい犯罪名が記載されています。
今回の計画にはより重い犯罪歴をもつ彼らに実行していただきます。
なお、被害を出さないため実地場所は無人島で行うこと。
平等性を保つため二十歳のメンバーで統一いたしました。」
「藤森君!そろそろ本題に入ってくれないか。何なのだ、結局この『パラダイス計画』とは!我々は一体何を見せられる。
犯罪者とはいえ、これは人身御供を決めるための人体実験のようなものだぞ。
納得のいく話なんだろうな?」
当然の疑問ではある。
人体実験と言えば、その通りだろう。
だから彼らを『使う』のだ。
犯罪を犯し、このまま終身刑として牢獄に繋がれたままのはずだった。
強力な力を持つ彼らは、本来ならば死ぬまで外に出すべきではない。
ここに映る十人は、まさにそんな者たちである。
故に、初めての試みとして最適な人材。
「先ほどお話しした通り、これは特殊部隊の編成のための計画です。
ただし、当人。また世間には極秘で行います。
『パラダイス』に選ばれるのは一人。
ようするに、彼らにはその一人になるために…。
殺し合っていただきます。」
どよめく空気。
一気に緊張感が高まる会議室。
誰かがポツリと呟く。
「殺し合い?…そんなの、非人道的だ…。」
それに反応したのは和葉。
彼女はこれまでに一切の私情は見せず、極めて淡々と説明をしてきた。
しかし、突然怒りをあらわにする。
「何が…でしょうか?
彼らは非道な極悪犯罪者たちですよ?その被害人数に比べて、こちらはたったの九人の命。これで日本最強の武器が作れるのです。
彼らが犯してきた罪を見てください。どちらが非人道的ですか?
…あいつらは、自分のスキルを使い己の欲望を満たすだけの化け物たちだ。
そういう奴らのせいで我々スキル保有者は世間から白い目で見られる。
脅威、まさに危険な人間。そんな奴らは苦しんで…」
「藤森。やめろ。」
忠史が一言。
和葉は我に返る。
静まる周囲、凍った空気。
彼女の中のヒトラーが声を上げる。
かつてユダヤ人を恐れたように、優れた能力を持つ人種を過剰に敵視してしまう。
収容所とは、彼女にとっては当然の場所で、もっとも馴染みの深い所なのだった。
「…失礼しました。とにかく、この計画はここだけの話にしていただきたいのです。犯罪者たちは軍人ではない。あくまで一般人、だからこそ極秘で行うのです。
まずは今回の計画で一人を軍人として育てる。成功と見られた場合は、第二第三と計画を続行し、最終的に最強の部隊を作る。という訳です。」
「いや、ちょっと待ってくれ。その部隊を作るとしたら何も一人に絞ることはないだろう?そもそもそんな実験をする必要もない。立候補者を募れば良いじゃないか!」
「お忘れですか?彼らは犯罪者ですよ?立候補のその言葉は果たして信用できるのでしょうか。二人三人と同じ場所にいて安全だとでも?それこそ管理の範ちゅうを超えるリスクしかないですよ。それに…。収容所に入れられて、この国に恨みがないと思いますか?」
これには問いかけた方も納得するしかない。
誰だって命は惜しい。
「では、先に進みます。今回のルールです。」
再び切り替わるスクリーン。
『ルールについて』
・対象者は犯罪レベル最上級の者とする
・平等性を持たせるため、全員二十歳とする
・参加人数は十名とする
・関係者において今回の計画は極秘裏とする
・スキル発動のため、没収した媒介道具は返却とする
・衣服の選択は自由とする
・『パラダイス』に行けるのは勝ち残った一人とする
・それ以外の者に関しては死亡の確認がとれること
・会場は無人島をフィールドとし立ち入り禁止とする
・脱走者は即座に遠隔射撃にて射殺を実行する
「以上が内容となりますが、質問はありますか?」
一人が手を挙げる。
「これは実質生き残った一人以外を口封じのために全滅させる。と、取って良いのか?だとしたら、当人たちには何と言って参加させるんだ。」
「まさに仰ると通りです。この計画は外部に漏れないよう水面下で行います。なので、下手に生きて外に出られる訳にはいきません。
彼らは異常者です。本間のスキルでは定期的な演説が必要となるため、広大なフィールドに広がってしまうと確実性が確認できない。
なので、本人たちに納得していただきました。」
「していただきました?もう準備が整っていたのか?!」
「はい。彼らには殺し合いの承諾は取ってあります。ただし、勝ち残った時の『報酬』は少し脚色しましたが…。」
「脚色って…。まさか金か?」
「いいえ。彼らが今何よりも欲しいものは『自由』です。外に出れるのは本当ですが、実際は軍隊への強制参加。彼らは『パラダイス』を離れ小島で自由に暮らせる権利だと思っています。一生を暗い牢獄で終わらせる予定だったんです。それはそれは食いつきましたよ。」
「そんなの…。暴動が起こるに決まっている。やはり許可出来ない!」
和葉は目を細める。
「言ったでしょう。管理は怠らないと。軍事管理は適任者に長官を勤めていただくので問題ありません。それから…。」
和葉は目をやる。
忠史がすっと立ち上がり声を発する。
「私のスキルはね。少々難儀なところがありまして。一度洗脳したものを書き換えるには前の洗脳が切れる必要がある。一回の洗脳内容は一つのみ、といった縛りがあるんです。勝者には定期的な洗脳を行う予定です。では、なぜ今か。わかりますか?
このタイミングじゃなきゃ駄目だった。彼らと、あなたたちの洗脳が切れる。この時じゃないとね…。」
『これは必要なことなんです。パラダイスの許可を出しなさい。』
忠史が話終えると、ところどころから賛同の声が響き出す。
何て素晴らしい計画だ。すぐに実行しなさい。
日本も必要なシステムだと思っていたよ。
さすが本間君、行動が早い。
忠史はそんな彼らを気にもかけずスクリーンを戻す。
十人…。
彼らはこれから『自由』という喉から欲しいものをかけて殺し合う。
そうして手に入れる『パラダイス』。
あとは、死ぬまで日本の殺戮兵器となるための『楽園』。
(何、死んだら転生する。それだけだよ。前世記憶保持者という存在は…。)
その上には『パラダイス計画』の文字。
「ご注目ください。彼らは『前世スキル悪用罪』により収容されている者たちです。写真の下には細かい犯罪名が記載されています。
今回の計画にはより重い犯罪歴をもつ彼らに実行していただきます。
なお、被害を出さないため実地場所は無人島で行うこと。
平等性を保つため二十歳のメンバーで統一いたしました。」
「藤森君!そろそろ本題に入ってくれないか。何なのだ、結局この『パラダイス計画』とは!我々は一体何を見せられる。
犯罪者とはいえ、これは人身御供を決めるための人体実験のようなものだぞ。
納得のいく話なんだろうな?」
当然の疑問ではある。
人体実験と言えば、その通りだろう。
だから彼らを『使う』のだ。
犯罪を犯し、このまま終身刑として牢獄に繋がれたままのはずだった。
強力な力を持つ彼らは、本来ならば死ぬまで外に出すべきではない。
ここに映る十人は、まさにそんな者たちである。
故に、初めての試みとして最適な人材。
「先ほどお話しした通り、これは特殊部隊の編成のための計画です。
ただし、当人。また世間には極秘で行います。
『パラダイス』に選ばれるのは一人。
ようするに、彼らにはその一人になるために…。
殺し合っていただきます。」
どよめく空気。
一気に緊張感が高まる会議室。
誰かがポツリと呟く。
「殺し合い?…そんなの、非人道的だ…。」
それに反応したのは和葉。
彼女はこれまでに一切の私情は見せず、極めて淡々と説明をしてきた。
しかし、突然怒りをあらわにする。
「何が…でしょうか?
彼らは非道な極悪犯罪者たちですよ?その被害人数に比べて、こちらはたったの九人の命。これで日本最強の武器が作れるのです。
彼らが犯してきた罪を見てください。どちらが非人道的ですか?
…あいつらは、自分のスキルを使い己の欲望を満たすだけの化け物たちだ。
そういう奴らのせいで我々スキル保有者は世間から白い目で見られる。
脅威、まさに危険な人間。そんな奴らは苦しんで…」
「藤森。やめろ。」
忠史が一言。
和葉は我に返る。
静まる周囲、凍った空気。
彼女の中のヒトラーが声を上げる。
かつてユダヤ人を恐れたように、優れた能力を持つ人種を過剰に敵視してしまう。
収容所とは、彼女にとっては当然の場所で、もっとも馴染みの深い所なのだった。
「…失礼しました。とにかく、この計画はここだけの話にしていただきたいのです。犯罪者たちは軍人ではない。あくまで一般人、だからこそ極秘で行うのです。
まずは今回の計画で一人を軍人として育てる。成功と見られた場合は、第二第三と計画を続行し、最終的に最強の部隊を作る。という訳です。」
「いや、ちょっと待ってくれ。その部隊を作るとしたら何も一人に絞ることはないだろう?そもそもそんな実験をする必要もない。立候補者を募れば良いじゃないか!」
「お忘れですか?彼らは犯罪者ですよ?立候補のその言葉は果たして信用できるのでしょうか。二人三人と同じ場所にいて安全だとでも?それこそ管理の範ちゅうを超えるリスクしかないですよ。それに…。収容所に入れられて、この国に恨みがないと思いますか?」
これには問いかけた方も納得するしかない。
誰だって命は惜しい。
「では、先に進みます。今回のルールです。」
再び切り替わるスクリーン。
『ルールについて』
・対象者は犯罪レベル最上級の者とする
・平等性を持たせるため、全員二十歳とする
・参加人数は十名とする
・関係者において今回の計画は極秘裏とする
・スキル発動のため、没収した媒介道具は返却とする
・衣服の選択は自由とする
・『パラダイス』に行けるのは勝ち残った一人とする
・それ以外の者に関しては死亡の確認がとれること
・会場は無人島をフィールドとし立ち入り禁止とする
・脱走者は即座に遠隔射撃にて射殺を実行する
「以上が内容となりますが、質問はありますか?」
一人が手を挙げる。
「これは実質生き残った一人以外を口封じのために全滅させる。と、取って良いのか?だとしたら、当人たちには何と言って参加させるんだ。」
「まさに仰ると通りです。この計画は外部に漏れないよう水面下で行います。なので、下手に生きて外に出られる訳にはいきません。
彼らは異常者です。本間のスキルでは定期的な演説が必要となるため、広大なフィールドに広がってしまうと確実性が確認できない。
なので、本人たちに納得していただきました。」
「していただきました?もう準備が整っていたのか?!」
「はい。彼らには殺し合いの承諾は取ってあります。ただし、勝ち残った時の『報酬』は少し脚色しましたが…。」
「脚色って…。まさか金か?」
「いいえ。彼らが今何よりも欲しいものは『自由』です。外に出れるのは本当ですが、実際は軍隊への強制参加。彼らは『パラダイス』を離れ小島で自由に暮らせる権利だと思っています。一生を暗い牢獄で終わらせる予定だったんです。それはそれは食いつきましたよ。」
「そんなの…。暴動が起こるに決まっている。やはり許可出来ない!」
和葉は目を細める。
「言ったでしょう。管理は怠らないと。軍事管理は適任者に長官を勤めていただくので問題ありません。それから…。」
和葉は目をやる。
忠史がすっと立ち上がり声を発する。
「私のスキルはね。少々難儀なところがありまして。一度洗脳したものを書き換えるには前の洗脳が切れる必要がある。一回の洗脳内容は一つのみ、といった縛りがあるんです。勝者には定期的な洗脳を行う予定です。では、なぜ今か。わかりますか?
このタイミングじゃなきゃ駄目だった。彼らと、あなたたちの洗脳が切れる。この時じゃないとね…。」
『これは必要なことなんです。パラダイスの許可を出しなさい。』
忠史が話終えると、ところどころから賛同の声が響き出す。
何て素晴らしい計画だ。すぐに実行しなさい。
日本も必要なシステムだと思っていたよ。
さすが本間君、行動が早い。
忠史はそんな彼らを気にもかけずスクリーンを戻す。
十人…。
彼らはこれから『自由』という喉から欲しいものをかけて殺し合う。
そうして手に入れる『パラダイス』。
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