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覚悟は、決まった。
別れは面と向かっては出来なかった。
代わりに六郎は文を書く。
本当は何も言わずに去るべきだったか。
しかし、そうすべきではない。そう思ったのだ。
かといって、顔を見れば。
決まった心は揺らいでしまう。
覚えたての字で、拙い言葉で、思いの丈をこの文に載せる。
足りない分は本へと挟んだ。
木曽義仲。
その人の人生と今の自分の境遇は似ている。
惚れた男の生涯と同じ生き方が出来る、それは何という偶然だろう。
六郎は側に置いた荷物を見る。
Tシャツ。
明が自分に初めてくれたもの。
家族がいない自分たちは、毎日の生活の中で兄弟のように寄り添った。
六郎にとっての兄のような人。
義仲が命を匿われた先で出会った無二の存在。
兼平と兼光。
共に育ち、一生を駆け抜けていく彼らに明が重なる。
ー義仲、命を救われ木曽の地へ。ー
『すくってくれて ありがとう兄者』
辞典。
姫乃がくれたもの。
仕えるべき人を見つけられないままに、義仲を追い続けた六郎。
姫乃はそんな自分が、主だと心から思えた存在。
完璧なのに、完璧じゃない。
そんな姫乃の側で、あれこれと尽くす毎日は満たされていた。
義仲は兼遠を父と慕い、主として向き合う。
それを強く憧れる自分もいた。
ー義仲、出陣の刻。ー
『ひめ おつかいできて光栄でした』
六郎はそっと髪に触れる。
指先に感じるもの。
白いミサンガ。
巴衣がくれたもの。
六郎の初めての恋だった。
焦がれる想いも、手に入らないもどかしさも、愛しいと逆らえない気持ちも。
全部、全部、初めて。
一目見た瞬間に、もう始まっていた。
義仲が初めて巴を見たときにも感じただろうか。
幼馴染である二人。
幼少期から大人へと成長した巴。
戦場で鬼武者の如き働きを見せる女は、幼かった時代を経て、強く美しく。義仲の前で乱舞する。
それをどの思いで見つめていたのだろう。
ー義仲と巴御前の出会いは幼い頃へと遡る。恋に落ちた、あの日へと。ー
『ともい ずっと そなたを想う』
六郎はすぅ。と小さく息を吐く。
これで良い。
良い出会いであった。
机の上に置かれた紙には、たった数行の別れの言葉。
元のじだいにもどる
かおも合わせず もうしわけない
今までのこと かんしゃ
わすれぬ
忘れない。
忘れるわけがない。
六郎は背筋を伸ばすと一礼。
そして、静かにその扉を閉めた。
達者で。
その言葉は、誰の耳にも届くこともなく。
ただ、そっと。
部屋の中へと消えていった。
別れは面と向かっては出来なかった。
代わりに六郎は文を書く。
本当は何も言わずに去るべきだったか。
しかし、そうすべきではない。そう思ったのだ。
かといって、顔を見れば。
決まった心は揺らいでしまう。
覚えたての字で、拙い言葉で、思いの丈をこの文に載せる。
足りない分は本へと挟んだ。
木曽義仲。
その人の人生と今の自分の境遇は似ている。
惚れた男の生涯と同じ生き方が出来る、それは何という偶然だろう。
六郎は側に置いた荷物を見る。
Tシャツ。
明が自分に初めてくれたもの。
家族がいない自分たちは、毎日の生活の中で兄弟のように寄り添った。
六郎にとっての兄のような人。
義仲が命を匿われた先で出会った無二の存在。
兼平と兼光。
共に育ち、一生を駆け抜けていく彼らに明が重なる。
ー義仲、命を救われ木曽の地へ。ー
『すくってくれて ありがとう兄者』
辞典。
姫乃がくれたもの。
仕えるべき人を見つけられないままに、義仲を追い続けた六郎。
姫乃はそんな自分が、主だと心から思えた存在。
完璧なのに、完璧じゃない。
そんな姫乃の側で、あれこれと尽くす毎日は満たされていた。
義仲は兼遠を父と慕い、主として向き合う。
それを強く憧れる自分もいた。
ー義仲、出陣の刻。ー
『ひめ おつかいできて光栄でした』
六郎はそっと髪に触れる。
指先に感じるもの。
白いミサンガ。
巴衣がくれたもの。
六郎の初めての恋だった。
焦がれる想いも、手に入らないもどかしさも、愛しいと逆らえない気持ちも。
全部、全部、初めて。
一目見た瞬間に、もう始まっていた。
義仲が初めて巴を見たときにも感じただろうか。
幼馴染である二人。
幼少期から大人へと成長した巴。
戦場で鬼武者の如き働きを見せる女は、幼かった時代を経て、強く美しく。義仲の前で乱舞する。
それをどの思いで見つめていたのだろう。
ー義仲と巴御前の出会いは幼い頃へと遡る。恋に落ちた、あの日へと。ー
『ともい ずっと そなたを想う』
六郎はすぅ。と小さく息を吐く。
これで良い。
良い出会いであった。
机の上に置かれた紙には、たった数行の別れの言葉。
元のじだいにもどる
かおも合わせず もうしわけない
今までのこと かんしゃ
わすれぬ
忘れない。
忘れるわけがない。
六郎は背筋を伸ばすと一礼。
そして、静かにその扉を閉めた。
達者で。
その言葉は、誰の耳にも届くこともなく。
ただ、そっと。
部屋の中へと消えていった。
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