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六郎②
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六郎は巴衣と一緒に、今。不思議な箱の中にいる。
またしても面妖なものではあるが先程とは違い、これなら心乱されず過ごせる。
高さだけは少し気になるところだが。
それにしても静かだ。
いつも騒がしい巴衣が大人しいのが少し怖い。
すると、突然声をかけられる。
「ねぇ。六郎。」
心の中まで見透かされてしまいそうな眼差し。六郎は思わず目を逸らす。
「な…何だ。」
いつもと違う巴衣に動揺してしまう。
なかなか本題を切り出さない巴衣。そうこうして意を決して口を開く。
「ここに残って。って言ったら…、どうする?」
胸が詰まる。この答えには迷いはない。決まりきっている。
けれど、巴衣の顔が見れない。目を合わせられない。
「…済まぬ。拙者は帰らねばならぬ。」
「うん。だよね。…うん。帰り方、探さなきゃだね。」
その答えももう出ている。
けれど六郎はそれを伝えられずにいた。
巴衣が悲しむ。そんな気がして。
二人には珍しく沈黙の時間が流れる。
六郎も巴衣も、伝えたい事がある。
それを言うべきか、言わぬべきかを迷ってる。
六郎は話せばきっと後悔するだろう。ならば、胸に秘めるべきだ。
「六郎。」
静寂を破ったのは巴衣。
「私、このまま何も言えずに後悔したくない。困らせるかもしれないけどさ。」
六郎は相変わらず巴衣の顔が見れずにいる。
「何て言えば伝わるかな。私は、あなたを慕っている。…好きなの。」
心臓が大きく波打つ。顔が熱を帯びてゆく。
巴衣が、自分を好いている…。
なぜこんなにも嬉しいのか。
なぜ今、自分はこんなにも涙が出そうなのか。
巴衣の顔を見れないのも。
戻る方法がわかった、と伝えられないのも。
そうか。
自分も同じ想い。
それはきっと。ひと目見た瞬間。
初めて出会ったあの日から、宿っていた気持ち。
気付いたところとて、言えない。自分はこの時代には留まれない。巴衣には…、笑っていて欲しい。
言葉を飲み込む六郎の代わりに巴衣が言葉を紡ぐ。
「別にね。私を好きになって欲しい。とか。帰らないで。とか言わないよ。伝えたかったのは私の気持ちなの。だって、あんたはいつ居なくなるかわからないから。今側にいることは、当たり前なんかじゃないから。その時に、何であの時。って思いたくなったのよ。」
六郎の心が叫んでいる。
苦しい。と。
彼女を愛しい。と。
でも、叶わない。
自分たちは同じ場所に居ながらも、違う時の中で生きている。
側に居ることは出来ない。
ならば。
「巴衣。」
初めて、本当の名を呼ぶ。
ずっとわかっていても、照れ臭くて言えなかった名前。
「拙者は元の時代に戻らねばならぬ。…が、何か望みは無いか?そなたの願い。出来る事なら叶えたい。」
精一杯だった。
想いは伝えられなくとも、隣にはいれなくとも、何か残せるものがあるのなら。
「…そしたら。一個わがまま。
元の時代に戻っても、その白いミサンガを見るたびに、巴御前を見るたびに。私を思い出して。
忘れないでいて欲しい。」
忘れるものか。
戦に出るたびに、生きて戻るたびに。
どんな時でも巴衣を思い出す。
心は共に、あるだろう。
「あい、承知した。」
やっと巴衣と目を合わせる事が出来た。
これは、この約束は目を背けてはいけない。
しっかり向き合って伝えなくてはいけない言葉。
観覧車はゆっくりと地上に戻る。
もうすぐ到着。
終わりが近付いていく。
この遊園地の時間も、自分たちの別れの時間も。
もう、思い残す事はない。
これで良い。
またしても面妖なものではあるが先程とは違い、これなら心乱されず過ごせる。
高さだけは少し気になるところだが。
それにしても静かだ。
いつも騒がしい巴衣が大人しいのが少し怖い。
すると、突然声をかけられる。
「ねぇ。六郎。」
心の中まで見透かされてしまいそうな眼差し。六郎は思わず目を逸らす。
「な…何だ。」
いつもと違う巴衣に動揺してしまう。
なかなか本題を切り出さない巴衣。そうこうして意を決して口を開く。
「ここに残って。って言ったら…、どうする?」
胸が詰まる。この答えには迷いはない。決まりきっている。
けれど、巴衣の顔が見れない。目を合わせられない。
「…済まぬ。拙者は帰らねばならぬ。」
「うん。だよね。…うん。帰り方、探さなきゃだね。」
その答えももう出ている。
けれど六郎はそれを伝えられずにいた。
巴衣が悲しむ。そんな気がして。
二人には珍しく沈黙の時間が流れる。
六郎も巴衣も、伝えたい事がある。
それを言うべきか、言わぬべきかを迷ってる。
六郎は話せばきっと後悔するだろう。ならば、胸に秘めるべきだ。
「六郎。」
静寂を破ったのは巴衣。
「私、このまま何も言えずに後悔したくない。困らせるかもしれないけどさ。」
六郎は相変わらず巴衣の顔が見れずにいる。
「何て言えば伝わるかな。私は、あなたを慕っている。…好きなの。」
心臓が大きく波打つ。顔が熱を帯びてゆく。
巴衣が、自分を好いている…。
なぜこんなにも嬉しいのか。
なぜ今、自分はこんなにも涙が出そうなのか。
巴衣の顔を見れないのも。
戻る方法がわかった、と伝えられないのも。
そうか。
自分も同じ想い。
それはきっと。ひと目見た瞬間。
初めて出会ったあの日から、宿っていた気持ち。
気付いたところとて、言えない。自分はこの時代には留まれない。巴衣には…、笑っていて欲しい。
言葉を飲み込む六郎の代わりに巴衣が言葉を紡ぐ。
「別にね。私を好きになって欲しい。とか。帰らないで。とか言わないよ。伝えたかったのは私の気持ちなの。だって、あんたはいつ居なくなるかわからないから。今側にいることは、当たり前なんかじゃないから。その時に、何であの時。って思いたくなったのよ。」
六郎の心が叫んでいる。
苦しい。と。
彼女を愛しい。と。
でも、叶わない。
自分たちは同じ場所に居ながらも、違う時の中で生きている。
側に居ることは出来ない。
ならば。
「巴衣。」
初めて、本当の名を呼ぶ。
ずっとわかっていても、照れ臭くて言えなかった名前。
「拙者は元の時代に戻らねばならぬ。…が、何か望みは無いか?そなたの願い。出来る事なら叶えたい。」
精一杯だった。
想いは伝えられなくとも、隣にはいれなくとも、何か残せるものがあるのなら。
「…そしたら。一個わがまま。
元の時代に戻っても、その白いミサンガを見るたびに、巴御前を見るたびに。私を思い出して。
忘れないでいて欲しい。」
忘れるものか。
戦に出るたびに、生きて戻るたびに。
どんな時でも巴衣を思い出す。
心は共に、あるだろう。
「あい、承知した。」
やっと巴衣と目を合わせる事が出来た。
これは、この約束は目を背けてはいけない。
しっかり向き合って伝えなくてはいけない言葉。
観覧車はゆっくりと地上に戻る。
もうすぐ到着。
終わりが近付いていく。
この遊園地の時間も、自分たちの別れの時間も。
もう、思い残す事はない。
これで良い。
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