6 / 17
現代レッスン②
しおりを挟む
「おぉ…!」
六郎は思わず大きな声を上げる。
その瞳は漫画の様にキラキラと輝く。
体が動かない様にと必死に耐えてはいるが、ソワソワしているのがわかる。
素直な男だ。
「すげぇだろ?『デパート』っていうんだ。ここには、食べ物。洋服。生活に必要な物が一通り揃ってるんだよ。」
「ふむ。『でぱぁと』。凄い所でございますなぁ。ここは本当に日の本か?見たことの無いものばかりじゃ。」
早く見て回りたくて仕方なさそうだ。
明は話もほどほどに、まずは手前の雑貨へと入っていく。
六郎に手招きをすると、喜んで後を追う。犬か。
店に入ると六郎は子どもの様にはしゃいだ。
グラスを手に取った時は慌てたが、姫乃が優しくフォローする。
これは何だ?これは何に使うのだ?
疑問は尽きない。
巴衣たちは、一つ一つそれに答えていく。
雑貨屋の次は洋服屋。
ここでも六郎の関心は止まらない。
スカートには少し憤慨していたが、Tシャツは何故か気に入っていた。
買い物がどのようなものか、それも教える。
明がTシャツを一枚買ってみる。
高校生には優しいお値段、つまりは安物だったが。六郎に渡すと物凄く喜んだ。何とあげ甲斐のある男だろう。
六郎は洋服屋を好んだ様子。
色んなものを手に取り、食い入るように眺める。
こうして見ると年相応の男の子。
不意にある一つのものに視線が止まる。
白いミサンガ。
何が気になるのか、六郎はそれを色んな角度から観察する。
「それ。気になるの?」
巴衣が横から覗き込む。
突然の声に体が跳ね上がる六郎。
「気配を感じられぬとは不覚!偽巴、お主、近いぞ!戦場なら斬られておる!…して、これは何だ?」
「あぁ。『ミサンガ』っていって手首とか足首に着けるのよ。幸運のお守りみたいなもんね。」
六郎は手にしたそれをじっと見つめる。
「幸運のお守り。この白い糸のような物を合わせた紐が。『みさんが』。うむ。響きが良いの。白は源氏の色じゃ。我らは戦の時に、白い旗を掲げて出陣致す。故にこの、みさんが。とても吉祥よ。」
白が源氏?巴衣は姫乃を見る。
姫乃は人差し指を顎に当てて記憶を探る。
「あぁ!紅白の由来!あれって確か、源平にちなんでるって言われてるのよ。合戦の時、赤が平家。白が源氏。と、それぞれの色旗を挙げるの。紅白合戦はそこからきてるみたいね。」
白い旗。源氏の旗。それは、源氏の色。
六郎にすれば色を一つとっても意味が違う。意味がある。
六郎といると世の中の見え方が変わる。
巴衣は歴史が嫌いだ。過去を振り返って何になると思っていた。
でも、今は過去を振り返っている。そして学んでいる。
少しだけ、歴史を知りたい。そう思えた。
考えに耽っていると、いつの間にか三人は本屋へと向かっている。
巴衣は慌てて後を追った。
「有難き幸せにございます。」
まるで光の効果音が鳴り響くかの如く、それはもう大仰に。片膝を付いて頭の上に、それを高く掲げて受け取る。
『かんたん!ひらがな&こくご事典』
姫乃が買い与えた本。
「姫より献上されました、この『じてん』なるもの。拙者、心して受け取り申す!」
六郎は放っておいて、明は一冊の本を持ってくる。
「これ。俺たち用に。やっぱ知っておくべきだと思って。」
そう言って明が購入したのは『木曽義仲』と書かれた自伝書籍だった。
確かに知るべき。義仲という男が何をなしえ、どんな一生を歩んでいったのか。
知りたいと思った。
六郎がこんなに惹かれている理由も。
そうこうして一日が過ぎる。あっという間だった。
楽しい。本当に心から思えた時間。
子どもの頃に感じていた、素直で純粋な感情。
六郎は自分たちに、それを思い出させてくれる。
一体、これからの毎日はどんなものになるのか。わくわくの連続だろう。
彼が帰ってしまう、その日まで…。
帰り際。
気付くと六郎は再びあのクレープ屋に並んでいた。
今度食べさせてやろう。
六郎は思わず大きな声を上げる。
その瞳は漫画の様にキラキラと輝く。
体が動かない様にと必死に耐えてはいるが、ソワソワしているのがわかる。
素直な男だ。
「すげぇだろ?『デパート』っていうんだ。ここには、食べ物。洋服。生活に必要な物が一通り揃ってるんだよ。」
「ふむ。『でぱぁと』。凄い所でございますなぁ。ここは本当に日の本か?見たことの無いものばかりじゃ。」
早く見て回りたくて仕方なさそうだ。
明は話もほどほどに、まずは手前の雑貨へと入っていく。
六郎に手招きをすると、喜んで後を追う。犬か。
店に入ると六郎は子どもの様にはしゃいだ。
グラスを手に取った時は慌てたが、姫乃が優しくフォローする。
これは何だ?これは何に使うのだ?
疑問は尽きない。
巴衣たちは、一つ一つそれに答えていく。
雑貨屋の次は洋服屋。
ここでも六郎の関心は止まらない。
スカートには少し憤慨していたが、Tシャツは何故か気に入っていた。
買い物がどのようなものか、それも教える。
明がTシャツを一枚買ってみる。
高校生には優しいお値段、つまりは安物だったが。六郎に渡すと物凄く喜んだ。何とあげ甲斐のある男だろう。
六郎は洋服屋を好んだ様子。
色んなものを手に取り、食い入るように眺める。
こうして見ると年相応の男の子。
不意にある一つのものに視線が止まる。
白いミサンガ。
何が気になるのか、六郎はそれを色んな角度から観察する。
「それ。気になるの?」
巴衣が横から覗き込む。
突然の声に体が跳ね上がる六郎。
「気配を感じられぬとは不覚!偽巴、お主、近いぞ!戦場なら斬られておる!…して、これは何だ?」
「あぁ。『ミサンガ』っていって手首とか足首に着けるのよ。幸運のお守りみたいなもんね。」
六郎は手にしたそれをじっと見つめる。
「幸運のお守り。この白い糸のような物を合わせた紐が。『みさんが』。うむ。響きが良いの。白は源氏の色じゃ。我らは戦の時に、白い旗を掲げて出陣致す。故にこの、みさんが。とても吉祥よ。」
白が源氏?巴衣は姫乃を見る。
姫乃は人差し指を顎に当てて記憶を探る。
「あぁ!紅白の由来!あれって確か、源平にちなんでるって言われてるのよ。合戦の時、赤が平家。白が源氏。と、それぞれの色旗を挙げるの。紅白合戦はそこからきてるみたいね。」
白い旗。源氏の旗。それは、源氏の色。
六郎にすれば色を一つとっても意味が違う。意味がある。
六郎といると世の中の見え方が変わる。
巴衣は歴史が嫌いだ。過去を振り返って何になると思っていた。
でも、今は過去を振り返っている。そして学んでいる。
少しだけ、歴史を知りたい。そう思えた。
考えに耽っていると、いつの間にか三人は本屋へと向かっている。
巴衣は慌てて後を追った。
「有難き幸せにございます。」
まるで光の効果音が鳴り響くかの如く、それはもう大仰に。片膝を付いて頭の上に、それを高く掲げて受け取る。
『かんたん!ひらがな&こくご事典』
姫乃が買い与えた本。
「姫より献上されました、この『じてん』なるもの。拙者、心して受け取り申す!」
六郎は放っておいて、明は一冊の本を持ってくる。
「これ。俺たち用に。やっぱ知っておくべきだと思って。」
そう言って明が購入したのは『木曽義仲』と書かれた自伝書籍だった。
確かに知るべき。義仲という男が何をなしえ、どんな一生を歩んでいったのか。
知りたいと思った。
六郎がこんなに惹かれている理由も。
そうこうして一日が過ぎる。あっという間だった。
楽しい。本当に心から思えた時間。
子どもの頃に感じていた、素直で純粋な感情。
六郎は自分たちに、それを思い出させてくれる。
一体、これからの毎日はどんなものになるのか。わくわくの連続だろう。
彼が帰ってしまう、その日まで…。
帰り際。
気付くと六郎は再びあのクレープ屋に並んでいた。
今度食べさせてやろう。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる