【完結】親

MIA

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〈娘side・5〉

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その言葉を聞いて、全身の力が抜けたのを感じる。
今まで何とか耐えてきた涙。
それも今はもう抑えきれなかった。

知りたかった真実が。
ようやく、わかった。

「やっぱり。そうだった。…お父さんが、私を助けてくれたんだ。」

蒼士は静かに頷く。

あの日々に、嘘はなかった。
父は。
ずっと父だった。
自分は愛されて、育った。

色んな人が言う。

犯罪者に人生を狂わされた。
まともに育っていないから、今後が心配だ。
教育を受けさせてもらっていない、それはもう立派な虐待だ。
監禁生活。
洗脳。
異常な愛情。

耳を塞ぎたくなるような、批判の嵐。

それでも。

「これで。私は前を向ける。…誰に、何を言われても。もう大丈夫です。」

信じられるものがある。

自分が生きて、今ここにいられるのは。
まぎれもなく、父のおかげだった。

大人たちが押し付ける正論。
一体、どれだけの人が正しいのだろう。

確かに父は間違った。
罪を犯してしまったことに変わりはない。

けれど。
愛菜にとって、父はヒーローだったのだ。

一生を捧げてくれた人。
いずれ、捕まることをわかっていて。
それでも自分を、深い闇から。暗い沼から救い出してくれた人。

それができる人が、一体どれほどいるのだろう。

誰がなんと言おうと、愛奈の親は、香川聡その人だ。

父は、きっと恨んでほしかったのかもしれない。
だけど。

愛奈に、人生の喜びを。
生きていて良かった。
生まれてきて良かった。

そう思わせてくれたのは、父だ。

恨むわけがない。
恨んでなんか、やるものか。

愛奈は後悔していないのだから。

あの時、先生が呟いた言葉。

ー生きているだけで良い。ー

その意味を、今は深く噛み締める。

道があることは当たり前じゃない。
先があって当然なんかじゃない。

美咲も、妹だったあの子も。
もういないのだ。

自分は生かされた。
一人の人生と引き換えに、生かされた。

その泣き声に気付いてくれた、たった一人の知らない青年によって…。


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