【完結】○の奇妙なショートストーリーズ

感動

３

私が大人になる頃には、ネコはもうおばあちゃんになっていた。

目は見えづらくなり、腎臓も患った。見た目は何も変わらなかったけれど、老いはネコへと確実に忍び寄っていたのだ。

私は結婚した。当然ネコも一緒に連れて行く。そうして始まる新しい生活。
ネコは縄張りに別の存在が入り込んできた事に警戒心を持つ。
しかしそれも次第に緩んでいく。
ネコは受け入れたのだ。この人も自分の家族なのだと。


春には桜を見た。
年越しの瞬間は一緒に過ごした。
散歩をしたり、実家に帰ったり。

もう昔みたいに激しい遊びは出来ないけれど、私はゆっくりと流れるその時間が好きだった。

それから、私は子どもを産んだ。
ネコはあまり動かなくなったし、食べる量も少なくなっていた。
パワフルな男の子の相手はさぞ大変だっただろう。
それでもネコは一緒に育ててくれた。
沢山面倒を見てくれた。

尻尾を捕まれ乱暴にされようが食べられようが、目を細めて好きにさせる。決して手を上げたり怒ることはなかった。
息子が泣けば一番に私の所にやってきて教えてくれる。

息子もまた、ネコとの特別な絆を作っていたのだろう。
初めて言葉にしたのは、ママでもパパでもなく。ネコの名前だった。

ネコはもう高く飛べない。
おもちゃで遊ぶこともなくなった。
腎臓の数値は悪くなり、毎日薬が必要になった。

出来ない事が増え、今までしなくて良かったことが付け足されていく。容赦ない、現実。
どんなに願っても、望んでも…変えられない。
この先の結末は、抗えない。

せめて。とか。
もっと。とか。
もしかしたら。とか…。
そんな気持ちで過ごす。

そんなある日。ネコは血を吐いた。