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友達に悩んだら・3
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美紀〈ミキ〉はクラスの人気者だった。
昨日までは。
何をどう間違えたのか。
クラスのカーストの女王は、沙織〈サオリ〉へと交代した。
事の発端はクラスの男子。光輝〈コウキ〉と斗真〈トウマ〉のケンカだ。
美紀と沙織はどちらの肩を持つか。これで揉めてしまった。
くだらない。
本当に些細な揉め事だったはず。
その結果、人気は向こうに傾いた。それだけで女王の座は沙織へと奪われたのだ。
(男子は良いな。)
光輝と斗真はもう仲直りして何事もなかったかのように元通り。
(私は…。元に戻れるのかな。)
美紀は昨日まで囲まれていた友達の輪の中心が沙織に変わった事に、ジクジクとした感情を抱え1日を過ごした。
友達なんて、所詮は数が物を言うのだろう。
特に意地悪をされるわけでもなく、ただ囃し立ててくれる存在がなくなった。それだけなのに途端に学校がつまらなくなる。
沙織とは小学生の頃から高校生に至る今までの付き合い。
いわゆる幼なじみだが、友達の数は自分の方が常に多かったのに。
(あー。つまらない。)
放課後。何となくいつもの道をゆっくりと歩いていると、今まで見かけたこともなかった店を見つけた。
(言葉…屋?)
うずく好奇心。
今日は気持ちもモヤモヤとしている。
たまには変わった事をするのも良いだろう。
そんな思いで美紀は店へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ。」
不意に声がかかり跳ね上がる。
「言葉を買いにいらっしゃったんですね?」
「あ、はい。」
咄嗟に答えてから、あ。と思った。
訳がわからないものを買う、それを承諾してしまったと。
「では、あなたの悩みが何か聞かせて下さい。」
悩み…。ではないような。
だが、得体の知れない気持ちであるのは確か。
いっそ吐き出してしまうか。
「私、友達が沢山いるはずなんです。でも、昨日まで私の周りにいた友達は、今日になったら別の子に群がってた。一人の子とちょっと対立しちゃって…。そしたらみんなが吟味するんです。どっちに付くかって。友達に選択されるっていうのかな?そこで私は負けちゃったんだと思います。多分…。」
何が言いたいのか。要点を得ない話しになっている。
言葉にすればするほど、糸が絡まるような感覚が強くなる。
「別に、嫌われた。とかじゃないんです。ただその子に取られちゃった。そんな感じ。ずっと、みんなに好かれるためにはどうしたら良いかって正しい答えを選んでこれたのに。私、何を間違えちゃったんだろう。どうしたら、また戻ってきてくれるんだろう。そんな風に考えだしたら、何か。わけわかんなくなっちゃって。すみません。めちゃくちゃですよね。私の話。」
店主は穏やかな顔で耳を傾けている。
糸はどんどん絡む。
「友達が周りにいないと、何か不安なんです。人に囲まれてると、ちゃんと好かれる自分でいられてるって安心するんです。でも…。何か疲れる。今日、凄くつまんなかったはずなのに。でも周りに気を使わない事がほんの少し。楽だなって思っちゃって。」
美紀は自分の言葉に一瞬、ハッとなる。
(私…。今また間違えた?)
店主の顔を伺う。すると、優しい顔で頷き口を開く。
「あなたに贈る言葉です。」
=自分らしくいられる場所が
ひとつでもあるなら それで良い=
「人に囲まれると安心する。そのために自分に鞭を打つのならば、それはいつか大きな負担になります。無理をすればシワ寄せは絶対に起きる。それは自然体ではないんです。友達は多いから正解。そんな事はないんです。」
店主は続ける。
「あなたがあなたらしくいれる。大事なのは、そういう場所があるということ。躍起にならなくていい。頑張らなくても良いんです。肩肘張らず、フラットにしていたら。いつか、きっと。そんな場所が見つかりますよ。」
絡まった糸が解けていく。
そう、自分はずっと囚われていた。
友達に好かれなきゃいけない。
友達は多くなくてはカッコ悪い。
張った見栄は取り消せなくなり、次第に自分を追い詰める敵となっていく。
そんな事の繰り返し。
でも、もうその見栄は捨てて良いのかもしれない。
なぜなら、今日。
気が楽に感じたのは紛れもない事実。
「ありがとうございます…。」
店主はニコリと笑うと、また一つ頷く。
=自分らしくいられる場所が
ひとつでもあるなら それで良い=
不毛な戦いは、もうやめよう。
美紀は人知れず、こっそりと自分へとエールを送った。
昨日までは。
何をどう間違えたのか。
クラスのカーストの女王は、沙織〈サオリ〉へと交代した。
事の発端はクラスの男子。光輝〈コウキ〉と斗真〈トウマ〉のケンカだ。
美紀と沙織はどちらの肩を持つか。これで揉めてしまった。
くだらない。
本当に些細な揉め事だったはず。
その結果、人気は向こうに傾いた。それだけで女王の座は沙織へと奪われたのだ。
(男子は良いな。)
光輝と斗真はもう仲直りして何事もなかったかのように元通り。
(私は…。元に戻れるのかな。)
美紀は昨日まで囲まれていた友達の輪の中心が沙織に変わった事に、ジクジクとした感情を抱え1日を過ごした。
友達なんて、所詮は数が物を言うのだろう。
特に意地悪をされるわけでもなく、ただ囃し立ててくれる存在がなくなった。それだけなのに途端に学校がつまらなくなる。
沙織とは小学生の頃から高校生に至る今までの付き合い。
いわゆる幼なじみだが、友達の数は自分の方が常に多かったのに。
(あー。つまらない。)
放課後。何となくいつもの道をゆっくりと歩いていると、今まで見かけたこともなかった店を見つけた。
(言葉…屋?)
うずく好奇心。
今日は気持ちもモヤモヤとしている。
たまには変わった事をするのも良いだろう。
そんな思いで美紀は店へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ。」
不意に声がかかり跳ね上がる。
「言葉を買いにいらっしゃったんですね?」
「あ、はい。」
咄嗟に答えてから、あ。と思った。
訳がわからないものを買う、それを承諾してしまったと。
「では、あなたの悩みが何か聞かせて下さい。」
悩み…。ではないような。
だが、得体の知れない気持ちであるのは確か。
いっそ吐き出してしまうか。
「私、友達が沢山いるはずなんです。でも、昨日まで私の周りにいた友達は、今日になったら別の子に群がってた。一人の子とちょっと対立しちゃって…。そしたらみんなが吟味するんです。どっちに付くかって。友達に選択されるっていうのかな?そこで私は負けちゃったんだと思います。多分…。」
何が言いたいのか。要点を得ない話しになっている。
言葉にすればするほど、糸が絡まるような感覚が強くなる。
「別に、嫌われた。とかじゃないんです。ただその子に取られちゃった。そんな感じ。ずっと、みんなに好かれるためにはどうしたら良いかって正しい答えを選んでこれたのに。私、何を間違えちゃったんだろう。どうしたら、また戻ってきてくれるんだろう。そんな風に考えだしたら、何か。わけわかんなくなっちゃって。すみません。めちゃくちゃですよね。私の話。」
店主は穏やかな顔で耳を傾けている。
糸はどんどん絡む。
「友達が周りにいないと、何か不安なんです。人に囲まれてると、ちゃんと好かれる自分でいられてるって安心するんです。でも…。何か疲れる。今日、凄くつまんなかったはずなのに。でも周りに気を使わない事がほんの少し。楽だなって思っちゃって。」
美紀は自分の言葉に一瞬、ハッとなる。
(私…。今また間違えた?)
店主の顔を伺う。すると、優しい顔で頷き口を開く。
「あなたに贈る言葉です。」
=自分らしくいられる場所が
ひとつでもあるなら それで良い=
「人に囲まれると安心する。そのために自分に鞭を打つのならば、それはいつか大きな負担になります。無理をすればシワ寄せは絶対に起きる。それは自然体ではないんです。友達は多いから正解。そんな事はないんです。」
店主は続ける。
「あなたがあなたらしくいれる。大事なのは、そういう場所があるということ。躍起にならなくていい。頑張らなくても良いんです。肩肘張らず、フラットにしていたら。いつか、きっと。そんな場所が見つかりますよ。」
絡まった糸が解けていく。
そう、自分はずっと囚われていた。
友達に好かれなきゃいけない。
友達は多くなくてはカッコ悪い。
張った見栄は取り消せなくなり、次第に自分を追い詰める敵となっていく。
そんな事の繰り返し。
でも、もうその見栄は捨てて良いのかもしれない。
なぜなら、今日。
気が楽に感じたのは紛れもない事実。
「ありがとうございます…。」
店主はニコリと笑うと、また一つ頷く。
=自分らしくいられる場所が
ひとつでもあるなら それで良い=
不毛な戦いは、もうやめよう。
美紀は人知れず、こっそりと自分へとエールを送った。
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