【完結】言葉屋

MIA

文字の大きさ
上 下
5 / 11

恋人に悩んだら・1

しおりを挟む
「恋人の事が、絶対に許せない!」

聡美〈サトミ〉は話し出したら止まらなかった。

愚痴を発散しに来たわけでは無かったのだが、いざ口にすると。出るわ出るわ。不満のオンパレード。

「あんなに私が好きだ。って言ってて…。自分の友達と浮気してたなんて…。親友とか言って、男女の友情なんて有り得ないと思ってた。紹介もされたけど、きっと二人で笑ってたんだ。絶対に!」

挙げ句、泣き出す。
店主は黙って聞いている。

「私だって凄く好きだったのに。こんなに傷付くなら出会わない方が良かった。」

聡美は恋人を本当に好きだった。
好きだったのだ。

「私は…。いつもこう。始まりは楽しいのに、終わる時は毎回大きな痛手を負ってる。どうして、ただ笑っていられるだけの恋愛ができないのか不思議なくらい。嫌な思いばかりしてる。だから今日は言葉を買いに来たんです。何かを変えたくて…。」

自他ともに認めるほどの『ダメンズウォーカー』というやつか。
聡美の恋愛は毎回散々なものだ。
今回は浮気。前回は暴力。前々回はヒモ…。
まともな男に出会ったことがない。
自分でも笑えるほどに。

一通り思いの丈をぶつけると聡美は少し落ち着いた。それを見計らうかのように店主がそっと言葉を放つ。

「あなたに贈る言葉です。」


=良い恋も 駄目な恋も それは今の必然=


聡美は一瞬、意味がわからずポカンとした。しかし徐々に言葉が重みを帯びていく。

(…何よ。それ。必然だっていうなら、駄目な恋愛ばかりするのは仕方ないってこと?)

絶望感から再び涙がこみあげてくる。
店主はそんな聡美に構わず話しを続ける。

「恋愛は楽しいばかりが正解ではないんですよ。苦しいから間違ってる、というわけでもないんです。むしろ、相手を思えば思うほど苦しいものかもしれない。自分にだけ都合が良いのなら、そりゃあ楽でしょうがね。」

(え?恋愛って楽しいものじゃないの?)

聡美は疑問ばかりが浮かぶ。苦しいなら恋愛なんかしない方が良いではないか。

「なのに、人は恋に落ちる。何度も何度も、例え傷を負ったとしても。なぜだと思います?
必要だからですよ。その人にとって、その時の相手がね。その理由まではわかりませんが。好きになってしまう。」

確かに。じゃあなぜ自分は駄目な男ばかりを好きになってしまうのか。

「もしも、あなたが恋人に酷い扱いを受けたとしても。それすらもちゃんと意味があるものです。良い恋をするためにどうすべきか、大切なのは己の成長ですよ。」

学ぶこと…。自分は別れた後、いつもどうだったか。
なんでロクでもない男ばかりが次から次へと…。と、相手のせいにばかりしてきた。
それは自分が呼び寄せているのではないか?

「私は。何も変わっていない。私は悪くない。いつもそうやって思ってた。次こそは良い恋をしたい。って思ってるのに、相手にだけそれを期待していた。」

聡美は思い当たる事が沢山ある。
結局は悲劇のヒロインでいたいだけ。自分の非を認めたくないのだ。

今回の彼はどうか。
浮気されたのは、やはり許せない。
だけど…。じゃあ大事にその恋を育んできたのか。と言われると胸は張れない。

(だって。私はずっと自分の事ばかりだった。)

不満しか吐き出さない。友達にも彼にも。上手くいかない理由だけを訴え続けた。
その責任は全部、相手に押し付けて。

なるほど。これでは良い恋なんて出来ない。
自分に必要なのは、もっと相手を見ること。知ること。向き合うこと。


「お買い上げ、ありがとうございました。」

聡美は店を出ると深呼吸をする。
来る前までの鬱々した気持ちや、怒りの感情は驚くほどに落ち着いていた。

もう恨み言は無しだ。
ちゃんと、前を見ること。
人に求めるんじゃなく。自分で作り上げよう。

=良い恋も 駄目な恋も それは今の必然=

酷い失恋をしたばかりだというのに。
聡美は自然と足取りが弾んでいる事に気付く。
こんな時だけど、何となく笑えてしまった。

「バイバイ。ちゃんと好きだったよ。私なりに、一応は。」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子様な彼

nonnbirihimawari
ライト文芸
小学校のときからの腐れ縁、成瀬隆太郎。 ――みおはおれのお姫さまだ。彼が言ったこの言葉がこの関係の始まり。 さてさて、王子様とお姫様の関係は?

忘れてしまえたらいいのに(旧題「友と残映」)

佐藤朝槻
ライト文芸
少年の猫西(ねこにし)は、パンを持ち逃げする灰青の猫に惹かれ、保護したいと考える。 しかし、灰青の猫は姿を消してしまった。その原因が猫西にあると知った彼は、罪悪感を抱えながら過ごすようになる。 大学生になった猫西は今度こそ猫を守るべく、大学にいる猫を保護する部活、通称保護部に入る。 救えない命、部員の思惑、切り離せない過去。猫によって生かされ苦しむ彼が選ぶ未来とは……。 ※R15相当の残酷な描写があります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 不定期更新&推敲しがちです。 なろうにも掲載しています。 拙作のベースとなるショートショート「友と残映」と「片想いの梅雨」はノベルデイズに掲載しています。 © 2023 Asatsuki Sato

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

手紙

サワヤ
ライト文芸
大人で子供な人達の、精一杯の物語。 群馬の実家からの仕送りで生活している大学2年生の春雄は、パチンコで盛大にスってしまい、重い足取りで帰途に着いていた。 毎日をぼんやりと過ごしている春雄は、ふと何年も前に見た藍原葵の目を思い出す。 謎めいたヒロインを中心に登場人物の心が揺れ動く、恋愛青春群像劇。 凄惨な電磁波事故をきっかけに、彼らの日常が動き出す。 それぞれが抱える欠落と葛藤の先に。 一部、性的表現があります。 この作品は小説家になろう、エブリスタにも投稿しております。 表紙はフリー素材サイト「ぱくたそ」様より。

シチューにカツいれるほう?

とき
ライト文芸
一見、みんなに頼られる優等生。 でも、人には決して言えない秘密があった。 仄暗い家の事情……。 学校ではそれを感じさせまいと、気丈に振る舞っていた。 見せかけの優等生を演じるのに疲れ、心が沈んでしまうとき、彼の存在があった。 毒吐く毒親、ネグレクトする毒親。 家庭に悩まされているのは彼も同じだった。

今や、幼馴染と差が付き過ぎていて

春似光
ライト文芸
幼い頃に結婚の約束をしていた、美浜守(みはままもる)と犬山ことり(いぬやまことり)。 同じ高校に進学していた2人。 そんなある日、守はことりを呼び出して……。 ある時期以降止まってしまっていた2人の時が、今、再び動き出す――。 魔法のiらんどに書いてカクヨムで推敲した物に、更に手を加えた物を1話ずつ順番に投稿して行きます。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

処理中です...