上 下
5 / 34

【#04】マルクス・ショー

しおりを挟む
 由利亜嬢の受付が終わると、宇宙人は次に荷物検査を行う。
「はい、パスポート、出して」
 そうぶっきらぼうに言うのは、荷物検査班のベテラン、若くしてのベテラン、眼鏡男子こと、マルクス・ショー。黒縁眼鏡にボサボサかつ重たい前髪で顔が上手く見えない。どっからどう見てもオタク属性。
 パスポートを受け取り、内容を確認。
「荷物はこっち」
「ア、ハイ」
 宇宙人は大きなスーツケースを検査台に乗せる。
 今回の宇宙人は最近「ヒトグループ」のカテゴリーに認定されたばかりの噂の新人種、「機人」だ。そのまま、機械ボディに機械フェイスのイカした生命体。地球でも「アンドロイド」と「サイボーグ」の違いがあり、機械が人間になるか、人間が機械になるかの意味合いの違いだ。この機人は、後者の人を機械に寄せたもので、地球にはまだ早過ぎる機械生命体である。
 生きた体を捨て、人が機械になり永遠の意識自我じぶんを手に入れた存在。
 永遠の『自我意識じぶん』であって。
 それは、永遠の『命』ではないのか?
 わたくしですら、その判断は出来かねる。
 それはわたくし達が決めることではなく、当事者である彼彼女らが、自分達でその答えを見つけなければならない。
 これが、ヒトグループに中々加入できなかった理由の一つ。人からしたら、元は人なのだから、ヒトグループで当然だ。そう思う者もいれば、いや、生身の部分がない、つまり男女の性器がない=人には非ず、という議論が長年行われていたのだ。そこから、『命』の定義が変わる。『生きる』の意味が変わる。
 人の『命』は『心臓』。
 では機械は?
 CPU? バッテリー? でもバッテリーっていつか切れるし充電必要だし・・・エトセトラ(パソコンやないかーいっ)。
 と、地球人は考えるだろう。
 だがしかしこの機人、なんと、金属を食べてエネルギーを補充することができるのだ。宇宙は地球人が思っているほど文明が酷く凄く進んでいるので、地球人の疑問は可愛いものだ。
 冒頭でも喋ったが、地球人の文明レベルはランクE、つまり下の下。
 私は今、監査と言いつつも、地球が大好きで、これからの未来を応援したくて報告書を書いている。地球人にもっと頑張って貰いたい。それだけはまた伝えておく。
 えー、話は戻るが、機人は人かそうでないかの論議の末、ヒトグループカテゴリーになった、その一体である彼が、アルファ・ユーレンだ。
 いや、機械に雌雄はないので、彼なのか彼女なのかは分からない。
「・・・・・・」
 じろじろと、マルクス氏はそんな機人を凝視する。荷物を見ていないようだ。
 スーツケースが検査機に四方八方グリーンのレーザービームを受ける。そしてそのデータがマルクス氏のコンピューターに送られる。
 コンピューターは検知異常なしと表示する。その表示は彼らの前のモニターにも表示された。
「ア、アノ・・・」
「はい?」
「イ、イジョウガナイヨウナノデ、モウ、ニモツ、ヨロシイデスカ」
「ちょい待った」
 アルファがスーツケースの取っ手を掴もうとした、その手をマルクス氏が制止した。
「え~っと、アルファ・ユーレンさん」
「ハ、ハイ」
「次は目視で、このスーツの中身チェックするんで」
「エッ、アッ」
 今度は、マルクス氏の手を、アルファが止めた。
「何か?」
「エ、アノ」
「はい」
「コノキカイデ、ナカミヲチェックシタカラ、モウヒツヨウナイトオモイマス」
 ふっ、とマルクス氏は笑う。
「それはあんたが決めることじゃない。これはココの、ルールだ」
「ソレハ・・・ソウデスガ」
「それに、世の中、機械には分からないものがある」
 マルクス氏、煽っていくスタイルか。
「『直感』だよ」
「ナッ・・・ントイウ、チュウショウテキデコンキョノナイモノ」
「それを信じるのが、人、だからさ」
 ちょいちょいと、マルクス氏はスーツケースのロックナンバーに指をかける。
「これ、開けて」
「・・・・・・」
「なんで躊躇する? 見られたくないものでも入ってるのか?」
「ソ、ソウデス。プ、プライベートナモノガ・・・」
「あぁ、エロ本? 機人でも使うのか?」
「ナッ!?」
 デリカシーのない男とは彼のことだ。
「というのは冗談で、開けてよ。目視チェックは必要事項なんだ。それを拒否するということは」
 マルクス氏はポケットから、チャキーンッとドリルと金槌を取り出した。
「ぶっ壊されても文句言えないってことだよ?」
「!」
「おれさぁ、不器用だから。スーツケースごと、やっちゃうかも」
「!!」
 マルクス氏は眼鏡を光らせてながら、不遜の笑みを浮かべる。
「だ、か、ら? 開けようか」
「・・・・・・」
 渋々、アルファはスーツケースのロックナンバーに触れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

諦めて溺愛されてください~皇帝陛下の湯たんぽ係やってます~

七瀬京
キャラ文芸
庶民中の庶民、王宮の洗濯係のリリアは、ある日皇帝陛下の『湯たんぽ』係に任命される。 冷酷無比極まりないと評判の皇帝陛下と毎晩同衾するだけの簡単なお仕事だが、皇帝陛下は妙にリリアを気に入ってしまい……??

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...