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思いがけない再会

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 騎士団の執務室を出て歩いていると、見知った姿がこちらに向かってくるのが見えた。

「アメリア様、ごきげんよう」
「サマンサ様、ごきげんよう。どうしてこちらに?」

 サマンサ様はレムイズ王国の南、国境に接する守りの要、南方将軍を夫に持つゼルビー辺境伯夫人である。そして強面同盟のメンバーでもある。ちなみに私もメンバーだということは、心の中では認めていない。ルイス様は強面なんかじゃない。もっとすごいの。顔面凶器よ!

「あのお茶会の後、領地に戻っていたのですけど、夫が王都に用事があるというので一緒に来ましたの。一人で待っているのはつまらないのですもの」

 風でさらりとプラチナブロンドが揺れる。前も思っていたけどお綺麗だわ。サマンサ様は可愛い系というより綺麗系だ。色白なので、濃いグリーンのドレスが良く似合っている。

「そうでしたか。それで閣下はどちらへ?」
「ちょっと打ち合ってくる、と言って騎士団の訓練に参加しておりますわ。最初は見学しておりましたけど、なかなか終わらないものですから。そうだわ、アメリア様!」

 サマンサ様は目をキラキラさせて私の両手を掴んできた。

「これから街のカフェに行きませんこと? スイーツが美味しいところを教えてもらいましたの」

 勝手に動くと辺境伯が心配するのでは、と言ったが、

「わたくしのことなんか気にしておりませんわ。さあ行きましょう」

 と、強引に私の手を引いて歩き始めたので、サマンサ様の侍女の一人が慌てて走り出した。辺境伯へ伝えに行くのだろう。

 馬車で十五分程のところにそのカフェはあった。後から聞いた話によると、森の中の安らぎをコンセプトにしているらしい。ログハウスのような造りになっており、あちらこちらに蔦が絡んでいる。

 どうやら予約してあったようで、すんなりと席に着けた。

「閣下と来る予定だったのでしょう? 大丈夫ですか?」
「いいのです。わたくしを放っておくのが悪いのですわ。ささ、注文しましょう」

 サマンサ様はかなり機嫌を損ねているようだ。気持ちはよく分かるけど、私、辺境伯に恨まれたりしないかしら。

 どれも美味しそうで迷いに迷ったが決めきれず、結局二人ともお勧めのケーキセットを注文した。

「公爵がおられないのは寂しいですわね」

 ルイス様の同行は急に決まったものだ。隣国に行くには必ずゼルビー領を通らなければならない。なおかつ、王太子御一行はゼルビー領に一泊したそうなので、サマンサ様はそれをご存じなのだろう。

「ええ。順調にいけばあと一週間ほどと聞いておりますが……」
「美味しいものを食べて、お喋りして過ごしましょう。時間なんてすぐに過ぎますわ」

 サマンサ様が綺麗なお顔で笑いかけてくれた。気を使ってくれているのが嬉しい。考えてみればこの世界に来て初めてのお友達。マリー達もいるけど、いくら仲が良くても主従関係には見えない壁があって当然なので、こればかりは仕方がない。

「──ありがとうございます」

 心が温かくなって私も笑い返すと、隣に立っていたヘレナがふらりと立ち眩みしたようだった。ヘレナが心配で「アメリア様。むやみに笑顔を振りまくのは危険でございます」「そうよアメリア様」という声は聞こえなかった。
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