9 / 34
はじめての夜会③
しおりを挟む
ごつごつとした大きな手に包まれて酷く安心した。ルイス様の顔を見ると、優し気な目をして私を見つめてくれている。自然に体が動き、軽快にステップを踏むことができた。
ルイス様と二曲踊り、公爵やら伯爵やらと何曲か踊ったら、息が上がってしまったので休むことにした。
「何か飲み物を取ってくるから、ここで待っていてくれ」
ソファで座って休憩する様にとエスコートされた。貴族のたしなみとはいえ、連続のダンスはきつい。それにリードする人によってこんなに違うとは思わなかった。一番最悪だったのは最後に踊った男性。独りよがりでリズムも悪く危うく足を踏みそうになってしまった。もう二度と踊りたくない。確か名前は……
「おひとりですか」
飲み物を両手に持ち、許可もしていないのに隣に腰かけてきた。そうそうこの人。名前はフランツ・モーヴァ。侯爵令息だ。
無礼な振る舞いに無言を貫いていると、しびれを切らしたのか再びあちらから話しかけてきた。
「公爵夫人とのダンスはとても新鮮でした。とても初々しくて可愛らしい。足を踏まれそうになったのはご愛敬ですね」
とキザったらしくウインクした。
その瞬間なんとも言えない寒気が背中を通り、握りしめていた扇子で思わず殴ってしまいたい衝動にかられた。お前のリードが下手なんだっつーの!
「怯えないで可愛いひと。あんな悪役顔公爵と結婚させられて、お心が痛んでいることでしょう。お可哀そうに。私が慰めてさしあげましょう」
と片方のグラスを差し出してきた。
窮地を救うヒーローを気取って、悦に浸っている。そのまま劇団にでも入ったらどうだろう。
怯えてもないし、心も痛んでない。それに私のルイス様を貶めるなんて絶対に許さない。
もう限界だわ。ルイス様ごめんなさい。
「あなたは何をおっしゃっているのでしょうか。訳の分からないことをペラペラと。私はルイス様を愛しております。他の方なんて目に入りませんわ!」
立ち上がって扇子を突きつけ言ってやった。
「私も愛している」
追撃を仕掛けようとしたところでルイス様が戻ってきた。聞かれてしまった。はしたないと思われたかしら。
「アメリアは私の妻だ。嫌がる女性を無理に誘おうとするなど、紳士の風上にもおけない。これは正式に公爵家から抗議文を出させてもらう」
「いや、嫌がってなど──」
「失せろ」
「ひえっ」
顔面凶器の睨みは凄みがある。侯爵家のお坊ちゃんは、グラスを放り出して一目散に逃げていった。
下は絨毯なのでグラスは割れなかったが、液体が扇子にかかってしまった。ルイス様から頂いたものなのに汚してしまった。落ち込んでいると心配した声が上から降ってきた。
「怪我はなかったか?」
「はい。大丈夫です」
「団長に呼び止められて少し話をしていた。悪かった」
「いえ。無事でしたから良いのです。助けていただき、ありがとうございます」
「それにしても」ルイス様は手で自分の顔を覆った。
「告白は二人きりのときにお願いしたい」
耳が真っ赤になっていてかわいい。じゃなかった。私あのお坊ちゃんになんて言った?ルイス様のことをあい……愛してるって。公衆の面前で。ちらりと横を見ると、何人かの人と目が合ったがすぐに逸らされた。
まさに今、穴があったら入りたい。そしてずっと入っておきたい。
ルイス様と二曲踊り、公爵やら伯爵やらと何曲か踊ったら、息が上がってしまったので休むことにした。
「何か飲み物を取ってくるから、ここで待っていてくれ」
ソファで座って休憩する様にとエスコートされた。貴族のたしなみとはいえ、連続のダンスはきつい。それにリードする人によってこんなに違うとは思わなかった。一番最悪だったのは最後に踊った男性。独りよがりでリズムも悪く危うく足を踏みそうになってしまった。もう二度と踊りたくない。確か名前は……
「おひとりですか」
飲み物を両手に持ち、許可もしていないのに隣に腰かけてきた。そうそうこの人。名前はフランツ・モーヴァ。侯爵令息だ。
無礼な振る舞いに無言を貫いていると、しびれを切らしたのか再びあちらから話しかけてきた。
「公爵夫人とのダンスはとても新鮮でした。とても初々しくて可愛らしい。足を踏まれそうになったのはご愛敬ですね」
とキザったらしくウインクした。
その瞬間なんとも言えない寒気が背中を通り、握りしめていた扇子で思わず殴ってしまいたい衝動にかられた。お前のリードが下手なんだっつーの!
「怯えないで可愛いひと。あんな悪役顔公爵と結婚させられて、お心が痛んでいることでしょう。お可哀そうに。私が慰めてさしあげましょう」
と片方のグラスを差し出してきた。
窮地を救うヒーローを気取って、悦に浸っている。そのまま劇団にでも入ったらどうだろう。
怯えてもないし、心も痛んでない。それに私のルイス様を貶めるなんて絶対に許さない。
もう限界だわ。ルイス様ごめんなさい。
「あなたは何をおっしゃっているのでしょうか。訳の分からないことをペラペラと。私はルイス様を愛しております。他の方なんて目に入りませんわ!」
立ち上がって扇子を突きつけ言ってやった。
「私も愛している」
追撃を仕掛けようとしたところでルイス様が戻ってきた。聞かれてしまった。はしたないと思われたかしら。
「アメリアは私の妻だ。嫌がる女性を無理に誘おうとするなど、紳士の風上にもおけない。これは正式に公爵家から抗議文を出させてもらう」
「いや、嫌がってなど──」
「失せろ」
「ひえっ」
顔面凶器の睨みは凄みがある。侯爵家のお坊ちゃんは、グラスを放り出して一目散に逃げていった。
下は絨毯なのでグラスは割れなかったが、液体が扇子にかかってしまった。ルイス様から頂いたものなのに汚してしまった。落ち込んでいると心配した声が上から降ってきた。
「怪我はなかったか?」
「はい。大丈夫です」
「団長に呼び止められて少し話をしていた。悪かった」
「いえ。無事でしたから良いのです。助けていただき、ありがとうございます」
「それにしても」ルイス様は手で自分の顔を覆った。
「告白は二人きりのときにお願いしたい」
耳が真っ赤になっていてかわいい。じゃなかった。私あのお坊ちゃんになんて言った?ルイス様のことをあい……愛してるって。公衆の面前で。ちらりと横を見ると、何人かの人と目が合ったがすぐに逸らされた。
まさに今、穴があったら入りたい。そしてずっと入っておきたい。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
理不尽に抗議して逆ギレ婚約破棄されたら、高嶺の皇子様に超絶執着されています!?
鳴田るな
恋愛
男爵令嬢シャリーアンナは、格下であるため、婚約者の侯爵令息に長い間虐げられていた。
耐え続けていたが、ついには殺されかけ、黙ってやり過ごすだけな態度を改めることにする。
婚約者は逆ギレし、シャリーアンナに婚約破棄を言い放つ。
するとなぜか、隣国の皇子様に言い寄られるようになって!?
地味で平凡な令嬢(※ただし秘密持ち)が、婚約破棄されたら隣国からやってきた皇子殿下に猛烈アタックされてしまうようになる話。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです
鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。
十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。
そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり──────
※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。
※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる