上 下
11 / 17
第零章  リビングドール

襲撃

しおりを挟む

 既に日が昇ってから、幾らかの時間が過ぎていた。


 窓からの日差しが照らす簡素な寝台ではテスタがまだ寝息を立てていて。
 ベッドに腰かける小さな人型――セニアはその寝顔を見つめていた。
 
 そろそろ起こそうかな? 
 どうしようかセニアは少し悩んでから。
 安らかな寝顔に免じてもう少しだけ寝かせておいてあげよう、と。
 慎重にベッドから降りる。
 眠りが浅いテスタのために、なるべく音を立てないように。
  
 すると、いつものメイドの足音がやってきた。

「もうそんな時間?」

 セニアはそう呟きながら、いつものように器用に扉を開けて廊下に出る。


 すると。

「!!??」

 突然。
 セニアは自身のボディからだの横っ面に、衝撃を受けた。
 
 同時に。

 近くの壁が、音もなく●●●●爆ぜ、大穴が穿たれる。

 それによってまき散らされた石片、木片、瓦礫、土煙が舞い。
 
 むき出しになった壁の構造が、セニアに事の大きさを実感させる。

 一体何ごとなのか。

 慌てたように。 
 セニアが廊下の先に目を向けると――。

 ソレは、佇んでいた。
 
 音もなく気配もなく。
 
 二人の小柄な巨人の影シルエットが見えた。

 奥に控えているメイドの気配しか感知していなかったセニアは驚く。
 

「誰!?」

 

「なるほど・・・・・・ウルリーカの言った通りか」

 その声の主は、魔導書を片手に、片手用の魔法杖をかざし。

「――はい、やっぱり魔法に対する抵抗力が桁違いですね」 

 その声の主は、金色の錫杖を手にしていた。

 
 

「もう少し、魔力をこめてみる?」

「ダメよ、スティナ。廊下が無くなっちゃう」


 セニアは、問いかけを無視されていることに憤りを感じながら。
 二人の方に身体を向ける。

 
 今の二人の言葉と、状況を鑑みるに。
 魔法による攻撃を受けたのだ、とセニアは理解した。 

 しかし、人形のボディはおろか、衣装にさえ傷はない。
 なぜなら放たれた魔法の矢は、セニアに命中した後、弾かれるようにして屋敷の壁に突き刺さったからだ。
 今はもう魔法の威力は消失し、多少の残滓が残っている程度だが。
 廊下には、派手にまき散らされた破片や瓦礫が残っている。

 それほどの威力だというのに。
 攻撃には音が無かった。

 衝撃音も、破壊音も。
 魔法によって音が消されていた。

 だからテスタはこの惨事に気づかない。

 
 
 
 そしてセニアは、その二人組のことを昨日見ていた。
 ――ただの客人だと思っていたのだけど……。


「……あなた達、昨日屋敷に来た……」

 セニアの言葉に。
 魔術師スティナは言う。

「本当に言葉を話すんだ、人形が。……興味深い。――でも……」

 
「スティナ、言ったでしょ。選択肢は3番目よ」 

「解ってる! さっきの一撃で壊すのは諦めたよ」

「壊す? ――」

 つまり少女ふたりは暗殺者で。
 邪魔者を壊しに来た刺客なのだ。   


「――狙いは私なのね……」

 きっと、テスタを『毒殺』するのに邪魔だから殺しに来たんだろう、とセニアは考えた。
 とはいえ、セニアに巨人にんげん二人をどうにかする手段はない。
 今のセニアに出来ることは、食事に盛られた毒を、不思議な力で解毒することだけだ。
 攻撃する手段は何もない。  

 しかし、セニアが破壊されれば何も知らないままテスタは毒殺されるだろう。

「……なんとかしないと」

 そうは思う間に、神官の少女が魔力を編み始める。
 このまま突っ立っていたらやられるだけだろう。

「せめて、テスタを……」
 
 とにかくテスタを起こし、状況を説明し、逃げる時間を稼がなければならない。
 セニアは、踵を返すと部屋の扉に向かって走る。


 けれど。

「逃がさないよ!」

 魔術師スティナに魔法でバインドされてしまい、身動きが取れなくなる。

「くっ……テスタ! テスタ!!」

 セニアはテスタを大声で呼ぶ。
 だがそれもダメだった。
 
「無駄だよ、この周辺一帯は今、音を消してあるんだ。君の声は届かないよ」

「こ、この……!」

 セニアは最大限抵抗する。
 すると、スティナが苦しみだす。
 人形の身体を、床に縫い留める魔法の糸が、ぶちぶちと切れ始める。

「うそでしょ。私の全力でも、まだ抗えるっていうの……?」

 スティナは、急いでバインドの魔法を追加で何重にも行使する。
 しかし、

 それでも。

「――絶対にさせるもんか!」

 テスタは殺させない。
 その一点のみの想いで
 セニアは順番に全ての糸を引きちぎっていく。

「ぐ……ッ! もう抑えておけない……! 早く、ウルリーカ……!」


 その瞬間――、

「大丈夫です。もう、終わりました」


 ――詠唱を完了したウルリーカの神聖なる魔法が、セニアに降り注ぐ。
 光の杭がセニアの周囲に突き刺さり、その布陣が魔法陣を描き出す。

 それは強力な封印の魔術だった。

 もともと強力な魔物を封じ込めることに特化した魔術は、抵抗の有無など無関係に作用する。
 
「テ……テスタ……!!」

 そしてついに、
 セニアの全ての意識が消失し。

 ただの動かぬ人形となって。

 その場にパタリと崩れ落ちた。 
  





 

 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移ですか!? どうせなら、便利に楽させて! ~役立ち少女の異世界ライフ~

ままるり
ファンタジー
女子高生、美咲瑠璃(みさきるり)は、気がつくと泉の前にたたずんでいた。 あれ? 朝学校に行こうって玄関を出たはずなのに……。 現れた女神は言う。 「あなたは、異世界に飛んできました」 ……え? 帰してください。私、勇者とか聖女とか興味ないですから……。 帰還の方法がないことを知り、女神に願う。 ……分かりました。私はこの世界で生きていきます。 でも、戦いたくないからチカラとかいらない。 『どうせなら便利に楽させて!』 実はチートな自称普通の少女が、周りを幸せに、いや、巻き込みながら成長していく冒険ストーリー。 便利に生きるためなら自重しない。 令嬢の想いも、王女のわがままも、剣と魔法と、現代知識で無自覚に解決!! 「あなたのお役に立てましたか?」 「そうですわね。……でも、あなたやり過ぎですわ……」 ※R15は保険です。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

フィフティドールは笑いたい

狐隠リオ
ファンタジー
 世界を変えた魔女の守護者、騎士。  多くの男が彼に憧れ、その道を進んでいた。  志季春護もまたそんな一人だった。  しかし彼は少しだけ違かった。大勢のためではなく、ただ二人のために。家族のために剣を取っていた。  妹である夏実と姉の冬華。残された家族のために戦う。  強さを求めた彼の未来は——

玲眠の真珠姫

紺坂紫乃
ファンタジー
空に神龍族、地上に龍人族、海に龍神族が暮らす『龍』の世界――三龍大戦から約五百年、大戦で最前線に立った海底竜宮の龍王姫・セツカは魂を真珠に封じて眠りについていた。彼女を目覚めさせる為、義弟にして恋人であった若き隻眼の将軍ロン・ツーエンは、セツカの伯父であり、義父でもある龍王の命によって空と地上へと旅立つ――この純愛の先に待ち受けるものとは? ロンの悲願は成就なるか。中華風幻獣冒険大河ファンタジー、開幕!!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

転生王子はダラけたい

朝比奈 和
ファンタジー
 大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。  束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!  と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!  ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!  ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり! ※2016年11月。第1巻  2017年 4月。第2巻  2017年 9月。第3巻  2017年12月。第4巻  2018年 3月。第5巻  2018年 8月。第6巻  2018年12月。第7巻  2019年 5月。第8巻  2019年10月。第9巻  2020年 6月。第10巻  2020年12月。第11巻 出版しました。  PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。  投稿継続中です。よろしくお願いします!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...