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第零章  リビングドール

リビング・ドール

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 テスタの自室。
 その片隅にある安物のベッドの横には。
 丸っこいサイドテーブルが置かれていて。
 その上には、いつも豪華な装飾の施された木箱が置かれている。

 いつも大事に錠前をかけていたのだけど。

 もう錠をかけることはできない。
 カギが失われているからだ。 
 テスタはカギをいつもネックレスのように首からかけていたが。
 カギはいつの間にか失くしてしまっていた。

 でも。
 もう必要ない。

 いや。

 むしろその木箱に、カギをかけてはいけないのだ。

 なぜなら――。


 
 カタカタと木箱が音をたて。
 そして。


 「ううん……!」

 小さく可愛らしい踏ん張るような声。

 その声の主が蓋を持ち上げ。
 隙間が開くと。

 箱の淵から小さく真っ白な指が木の根のように伸びて。

 そうして、手でガッチリ端をつかむと。

「……っしょ!」

 ぶん投げるようにして、木箱の蓋が開かれた。 
 
 箱から現れたのは、人形だった。

 球体関節の人形で。
 ワインの瓶くらいの大きさで。
 金髪のクセっ毛と。
 今は、富豪の町娘のような衣装を着ている。
 
 それが今は、声を発し。
 自分の意志で動いていた。

 その人形の名は、セニアという。

 セニアがベッドに目を向けると。
 テスタはまだ寝ていた。

 
「まだ寝てる……」

 セニアは、スカートを抓んで助走をつけると。
 サイドテーブルからベッドの上に飛び移った。

 しかし、目測を誤った結果。
 テスタのかぶっている毛布の上に、どすり、と落ちた。

 硬い材質のボディが、硬い靴から先に、毛布越しにテスタにめり込む。
 もはや、ドロップキックだった。

「う……ッ」

 寝ているテスタが声を漏らす。

 元々眠りの浅いテスタは、それで簡単に目を覚ました。


「・・・・・・セニア?」

「おはよう、テスタ。多分もうそろそろ朝食が届く時間よ?」

「そっか、おはよ」

 これはテスタの妄想じゃない。
 現実の空気を震わせる声で、確かな挨拶が交わされる。
 
 どういうカラクリで。
 どういう不思議か。
 テスタには解らないが。

 一度家出したソニアは、戻ってきた時から言葉を話し、自分で動くようになった。

 テスタは、ソニアの頭に手を伸ばす。
 髪を撫でると、表情こそ変わらないけれど。
 可動式のまぶたが閉じられ、心地良さそうにしているように見える。

 そして、ソニアの髪は寝ぐせと、ジャンプしたせいで酷い有様だった。

「髪ボサボサだわ。でも・・・・・・髪のお手入れは朝食の後かな」

 

 すると丁度、メイドが朝食を届けに来た。

 いつも通りの不躾なノック。

「お、お、お嬢様・・・・・・! 朝食はここに置いておきますので!」

 声は震えていて。
 いつもより、慌てた様子で。
 ガチャリとさえ音を立てて。
 朝食の乗ったトレイを乱暴に置き去りにして。 
 メイドは一目散に立ち去って行った。



 なにせ今は、テスタの妄想じゃない。


 現実に。

 人形が、動いて、話をしているのだから。

 
 これはもう、少女の奇行というだけでは収まらない。


 ――これはもう、屋敷全体の、大きな悩みだった。


 
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