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第零章  リビングドール

呼び声

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 「……セニア? セニア……?」
 

 居ない。

 何処にも。

 
 箱にカギはかけたはずなのに。
 錠前は外されていて。

 箱の中にセニアはいない。

 それどころか、部屋にどこにも居なかった。


「どこいっちゃったの?」


 何度も。

 自室をくまなく探しても。

 テスタは友人を見つけ出すことはできなかった。

「そんな? 嘘? なんで?」

 殺風景で無用なものが何もない部屋だ。
 探し切るのにさほどの時間はかからなかった。


 テスタは考える。 


 ひとりでどこかに行くはずはない。

 でも。

 『テスタの中のセニア』はお話もするし。
 表情も変わるし。
 歩くし、動く。

 だから。
 
 もしかしたら本当に自分で歩いて出て行ったのかと。

 
 そんな想像はテスタには容易くて。
 

 だとするなら、やることは一つ。


 自室に居ないとなれば。
 その外を探すしかない。
 
 ばん、と勢いよく自室の扉を開け、テスタは飛び出した。


 朝食を運んできたメイドの横をすり抜ける

「お嬢様!?」

 驚くメイドをしり目に。
 
 テスタは、屋敷の中を走る


 走って走って。

 走り回った。
 必死に友人を捜し歩いた。

 屋敷のすべての部屋を。

 くまなく探し回った。
 何度も何度も。


 しかしどこにも見当たらない。

「セニア……!」


 母の形見で。
 唯一の友達。


 それが突然行方不明になってしまって。

 テスタは途方に暮れた。

 
 そして日も暮れた。


 結局見つからないまま、夜が訪れる。



 テスタはベッドの上にポツンと座ったまま。
 窓から見える月を、ぼうっと眺めていた。

 
「セニア、いったい、どこに行っちゃったの……?」

 一日中探し回って。
 
 諦めることなどできようはずもなく。
 


 眠りにつくことすらできず。


 テスタは、不安と悲しさで押しつぶされそうで。
 泣きそうだった。





 
 


 
 
 ついに。
 人形セニアが居なくなってから数日が経って。



 来る日も来る日も捜し歩いたテスタは。

 身も心も疲弊していた。



 もうどこにも居ないのかもしれない。
 もう二度と、――帰ってこないのかもしれない。


 どうして?

 なぜ?

 なんで?

 自分はどこで何を間違えたの?


 そんな絶え間ない疑問と、喪失感に苛まれ。


 泣き疲れて。
 

 そしてそのまま。
 テスタはいつの間にか眠ってしまっていた。



 朧げな
 まどろみの中。



「テスタ・・・・・・」


 自分を呼ぶ声がしていた。



「……テスタ」


 少女は目を覚ます。


 それでもその声は聞こえていて。


「テスタ・・・・・・」


 声は、自室の窓際から。


「誰……?」


 テスタが目を向ければ。

 小柄なシルエット。


 青いガラスの目だけが輝きを放ち。 


 セニア人形が、窓に張り付くようにして立っていた。 
 


 





 ――セニアはその日から。

 少し変わってしまった。


 でも、テスタにとっては些細な事だった。


 戻ってきてくれた、それだけで嬉しかった。


 それに、セニアの変貌ぶりは。

 テスタにとって願ったり叶ったりだったから。


 ポジティブな感想しか出てこなかったのだ。




 ――屋敷の者たちには、そうではなかったようだが。
 



 
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