VRMMO-RPG:SecondWorld/第二世界スフェリカ ――『ガールズ・リプレイ』――

日傘差すバイト

文字の大きさ
上 下
95 / 119
第八話 『コロッセウム――開幕――』

95

しおりを挟む
 

 ユナの最大の攻撃は。
 ヒューベリオンで突撃した後に、ハルバードの1撃を叩き込む二段構えだ。


 今、標的メルクリエはふらりと立ち上がり。
 ローリエと、フェルマータの追撃を受けようとしている。
 そんな吹き飛ばされて離れた状態のメルクリエの場所まで。
 おあつらい向きに丁度いい助走距離も確保されている。


 故に。

 ――最大の一撃を叩き込むのならば、今だ。



「行きます!」



 ユナの合図で、ヒューベリオンが、音もなく嘶き。
 地を踏み砕き。
 強靭な後ろ脚の骨格で地面を蹴る。
 そうして、翼を広げて、滑空を開始する。

 仔竜なので、誰かを乗せて飛ぶようなことはできないが。
 代わりに、その翼で。
 軍馬や騎乗用リザードとは比較にならない速度に。
 あっというまに到達する。

 そして、突進攻撃とは、基本となる攻撃力に対し、重さと速さで威力が決まるのだ。

 
「『限界突破マキシマイズド筋力全開フルパワー突撃チャージ!!――』」

 ユナの筋力の『10倍分』をダメージに上乗せし、ヒューベリオンが衝突の反動でダメージを受けることを覚悟で、
限界以上にその速度と威力を引き出させる。


 


 しかしこれでは終わらない。


 そこに。
 ユナが突撃してくると察したローリエは、飛び退き様に、激突するタイミングで風の魔法を詠唱する。
 そしてマナも無属性魔法を解き放つ。


突撃チャージ

大衝撃波ショッキングブラスト

魔衝弾ステラインパクト

 その三種が合成され、

 ユナの突撃は別物に変化する。

 突風によるさらなる超加速。
 その全身に、『衝撃かぜ』を纏い。
 
 地を進む、漆黒の流れ星のように。


 人馬一体となったユナとヒューベリオンが、大精霊を轢撃する。


 三人技トライコーディネート――。

「『狂奔陣風駆けランオーバー・ゲイル』!!」



 だが、メルクリエも唯では食らわない。

「……この、あまいのよ!!」
 

 前方を一点集中でガードする水属性の防御障壁を展開。

 しようと――。


「『超盾強打シールドスマッシュ』!!」

 しかしすぐそこに来ているフェルマータがそれを許さない。


「かはっ!?」

 スタンによる、動作の停止。
 それによって妨害され、無防備となったメルクリエに。

 ユナの突き出したハルバードの穂先と。
 ヒューベリオンの角が、めり込み。その身体を吹き飛ばす。


 だが、止まらない。


 ユナにはもう一撃、本命が残っている。 


 吹き飛ぶメルクリエに、風となったヒューベリオンが瞬く間に追いつき。

 追い越すと。 

 
 全身の爪と、ドリフトのような遠心力で。

 急ブレーキで減速、停止する。

 そんな振り向きざま。

 ヒューベリオンの前足の『竜爪』がメルクリエを強烈に叩き落とす。


 ――と同時に。
 
 その遠心力と反動を存分に乗せ。

 構えを斬撃モードに変え。

研ぎ澄ましポーリッシュ】のバフを上乗せし。

 手にしたハルバードを振り下ろす!


 「――『騎乗高位ハイト――」


振り下ろしヴァーティカルストライク』!!!】


 否!


 それにフェルマータの命属性攻撃魔法【細胞崩壊リバースヒール】――。

 ウィスタリアの重属性魔法【圧殺結界ジオ・プレッシャー】――。
 マナの無属性魔法【魔漣洪波ミスティックガイザー】――。
 ローリエの土属性魔法【大地噴出砕リソスフィアスパウト】――。

 さらに、ヒューベリオンが口を大きく開き、『月』と『邪』と『死』の複合ブレス攻撃、【邪恨呪殺獄竜息インフィニットゲヘナブレス】を、ハルバードに吹きかけ。

 
 『土』
 『重』
 『無』
 『月』
 『邪』
 『死』
 『命』
 
 その全てを、こめた、地獄の斬撃が、その矮躯を切り開く。


 ―― 六 人 技 ヘキサコーディネート――

「『 開 闢 の 断 流 スヴァルティルテイン』 !!!!!」


 天へ、地へ、せめぎ合うエネルギーと。

 生と死の概念によるせめぎ合い。

 そうして、紅く黒く燃え上がる。

 邪と闇の奔流。


 まさに、天地崩壊の地獄絵図。

 大地はめくれ上がり、膨大な威力が立ち昇る。


 ――レイドボスでなければ、あっという間に消滅するだろう。

 そんな、ダークで破壊的で、ディストピアの始まりのような。

 派手派手なエフェクト共に。

 メルクリエは粉々にされ、消し飛ばされたような状態になる。




 だが、HPが0でないのならば消えはしない。


 見かけよりも、本質が大事な存在。
 そしてゲームであるから。


 されど。

 受けたダメージは甚大だった。


 散った液状を、一粒一粒かき集めるかのように。
 
 ゆらゆらと、スライムのように揺らめくボディが。

 少しづつ形を戻していく。

 アクアマリンの長い髪。

 青い、魚のヒレのようなレースが躍るドレス。

 声帯の戻った、大精霊は、怒り心頭で曰く。
 
「……く、寄ってたかって! 今のは、効いたわよ!!」  

 

 身体は再生するが、デバフが効いていてHPの回復をすることも出来ず。
 そのHPは既に半分を切っていた。


 眼鏡をかけたフェルマータが、言う。

 
「あと半分。この調子で行くわよ、みんな」



 そうして、何度も連携攻撃をたたきこみ。


 順調に、大精霊はHPを減らしていった。
 


 だが。
 ユナは少しづつ焦っていた。

 本当はイベントの1戦だけの予定だったのに。

 レイドボスが乱入したことで思いのほか長引いている。



 HPが順調に減っているとはいっても。

 このままでは、時間が足りない。

 フェルマータがHP残量を逐一アナウンスし、残り35%まできているとしても。

 ユナのタイムリミットまでに減らし切ることは難しい。

 そうして、誰が考えても。

 ユナに魔法を合成するコーディネートが、最大の火力を出せる。 

 今ユナが消えたら、火力は大きく減少するだろう。

  
 けど――。

 ……ユナは、勉強や習い事を一生懸命こなし。
 両親に文句を言わせない程の結果を残しているからこそ。

 度々VRで遊ぶことも黙認されている。


 ここで、ゲームを優先してしまえば。

 懸命に保ってきたバランスが崩れ去ってしまうだろう。


 今はパーティにとって大事な時だ。

 でも、一度の瞬間のために、その後の全部を犠牲にするというリスクは。


 ユナには出来ない。

 だって、ユナはこのゲームが好きで、続けていたいと思うから。


 もう、習い事に行かねばならない時間だ。
 そろそろ部屋を出なければ、怒り散らした両親が介入してくる。


 それは一番避けなければならない。

 だから。

「く……」

 
 もうログアウトする。
 そう申し出よう。

 そうユナが心に決めた。



 そんなところで。

 会場に実況が戻ってくる。


「――善戦しています。『ミミズクと猫』です! 6人でのコーディネートとは、激熱ですね、解説のザマさん」


「ええ、戻ってくるのがもう少し遅かったら見逃すところでしたよ。チームでの連携攻撃、合体技……このゲームの一番楽しい所ですから! 見れてよかった」

 
「……でもザマさんはずっとソロでは? 実況動画、ずっとソロですよね?」

「おほん。うるさいな。……ソロだって楽しいですよ。このゲームは? そうでしょ?」


「と、いうわけで。会議の結果、実況は続けさせていただく、ということになりましたので。あと暫く、よろしくお願いいたします!」


 実況が戻ってくれば。

 会場も、イベントの時の雰囲気が少しづつ戻っていく。



 そうして――。

 会場の出入り口から、数々の戦士が、戦闘領域になだれ込んでくる。


 援軍だ。

 アシュバフが集めた、30名の討伐部隊。

 そもそも、レイドボスとはそういうものだ。


 レイドボス討伐の主催がメンバーを募り。
 壁となるパーティ、攻撃に専念するパーティ、ヒーラーの配分。

 それらを計画し、討伐のための準備をし、大勢でボスを叩く。


 それが本来のレイドボス戦闘の形。


「ゆくぞぉぉぉ!」


「おぉぉぉぉぉ!!」

 アシュバフのギルドマスターが先頭を走り。
 剣聖が傍らを走り。

  
 『ミミズクと猫』の面々が、その様子に気を取られた。




 ――……「精霊権限マスターフォース……『器用度/動作精度上昇センス・オブ・ウォーター』」


 そのたった一瞬の隙に、メルクリエは自分の詠唱速度をバフによって引き上げる。


 そうして。

 詠唱される、水属性。

「なんども言わせないでよ。鬱陶しいのよ! あんたら! ――」

 そんなメルクリエの罵声と共に。

 駆け付けた討伐部隊、そして『ミミズクと猫』を飲み込む大津波が、巻き起こるのだった。
  
 それは、『メルクリエの幻影』が初撃として必ず放つ、選定の大魔法――。

 【大 海 の 倉 皇 タ イ ダ ル ウ ェ イ ブ 】だ。 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……! ※感想は私のXのDMか小説家になろうの感想欄にお願いします。小説家になろうの感想は非ログインユーザーでも記入可能です。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

VRMMO-RPG:SecondWorld/第二世界スフェリカ 設定資料(永遠に未完成)

日傘差すバイト
ファンタジー
https://www.alphapolis.co.jp/novel/539041038/197701593 の、設定資料です。 世界観重視の作品? です。 その世界についての設定をまとめます。 すごい書きかけです。 少しづつ埋めます。 本編は趣味で書いてますが、こっちは息抜きに書いてますw 永遠に暫定的な設定であることをご了承ください!

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~

オイシイオコメ
SF
 75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。  この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。  前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。  (小説中のダッシュ表記につきまして)  作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

異世界帰りのゲーマー

たまご
ファンタジー
 部屋でゲームをしていたところ異世界へ招かねてしまった男   鈴木一郎 16歳  彼女なし(16+10年)  10年のも月日をかけ邪神を倒し地球へと帰ってきた  それも若返った姿で10年前に  あっ、俺に友達なんていなかったわ  異世界帰りのボッチゲーマーの物語  誤字脱字、文章の矛盾などありましたら申し訳ありません  初投稿の為、改稿などが度々起きるかもしれません  よろしくお願いします

処理中です...