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第八話 『コロッセウム――開幕――』

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「『ヴィセラディトネーター』!!」

 繰り出されるリバーブローを、ローリエは左手の黒曜石短剣を盾に防ぐ。
 武器の耐久が一気に持っていかれ、砕け散る。

「『ブラックバックホーン』!!」 

「『弾道歪曲壁バリスティック・コンフュ』!!」

 その隙を即座に狙うガゼルパンチを、

 今度は。

 重属性の反重力防御で、その狙い先を虚空あさってに変更し。

 それによって。

 不意にパンチの軌道を逸らされたメルクリエが。
 無様に体勢を崩す。
 
 ローリエはその無防備に、【重魔力放出グラビティ・オーラ】を纏った右の短剣を叩きつけた。

「『ミストハイド』!!」
 
 されど、命中する直前。
 一瞬で霧と化したメルクリエが即座にローリエの背後に回る。
 そして、

「『無元拳!!』」

 メルクリエの無属性魔法戦技コーディネートアタックが、ローリエの背中にめり込む。

「!?」

 しかし驚いたのはメルクリエの方だ。
 その攻撃は。

 【身代わり木人形スケープドール】というスキルを身代わりにされ。
 その本体が、頭上より強襲する。

 黒曜石の短剣で。


 それをメルクリエは、アッパーカットで対空し。

 刃と拳がぶつかり合う。

 左の手をそえて。
 短剣に重と土の魔力を込めるローリエと、無の魔力を込めるメルクリエ。

 魔力と魔力がせめぎ合い。

 属性相関の有利と、頭上からという有利。
 それに加えたシナジーのある重力属性のアシストにより。

「くっ!?」

 反動と共に、メルクリエが切り裂かれる。


 しかし、それでローリエの右の短剣も耐久限界を迎えて砕け散った。


 その隙に、冷属性魔法を撃ち出しながら、メルクリエが宙返りで距離を取る。

 氷の刃を蹴りで撃ち砕き。 

 ローリエは再び黒曜石の双剣を作り出す。

 メルクリエは、変わらぬ徒手空拳。


 一連の攻防を終えて。 

 
 互いに地に佇む。 
 

 メルクリエの傷が、少しづつ塞がっていき。
 冷属性の攻撃の積み重ねによって、氷結効果が進行していたローリエも。
 少しずつその効力が消えていく。



 そんな刹那。まるで天女のような容姿の精霊は楽しそうな笑みを浮かべた。

「たのしい」

 それに、ローリエはきょとんと。

「……え?」

「あんた面白いね?」

「え? あ……そ、そうですか?」

 少しばかりいい気になるローリエ。 

「うん、ワザワザここまで出向いた甲斐があったかも」

 そして、メルクリエは思い出したかのように言う。
「そういえば……、あんた息切れしないんだ?」

 太陽がある限り。
 ローリエのMPやスタミナは滅多なことが無い限り枯渇はしない。
 それに、無意識的にローリエはリソースを上手にやりくりしている。
 消費の多いスキル、少ないスキル。
 要所要所で、強弱のスキルを使い分けたり、通常攻撃やパッシブだけで乗り切るなど。
 リソースの管理は、長年のモブ狩りで染みついている。

 だから。

 今のローリエは、まだまだ余裕がある。
 

 そんなエルフに。

「じゃあ、このまま永遠に遊んでいられるね?」

 
 その言葉に秘められた狂気は。
 NPCだからこそだろうか。
 疲労と言う概念の無い精霊だからだろうか。

 ローリエは、少しメルクリエという人格の中にある歪を感じ取った。

 一筋、冷や汗が滲む。

 「じゃあ、もっと遊んでもらおうかな?」


 そう言って、メルクリエは再び動き出した。

 【冷凍効果付与《フリージングウェポン》】と、【凍結領域ゾーンフロスティ】を展開しながら。
 メルクリエが接近戦を仕掛けてくる。

 対して、ローリエは【重力領域ゾーングラヴィティ】で、その二種を相殺しつつ。

 再び応戦を開始した。 

 メルクリエは。
 あらゆるバフもデバフもリセットし、まっさらな状態に回帰させる無属性魔法。
 【ニュートラライズ】を有している。

 そんなメルクリエに、多くのバフやデバフは効率が悪い。

 だからこそ、必要最低限の強化と弱化の使用にとどめ。

 その分のリソースを、魔法戦技コーディネートアタックに割り振って火力を出す――。

「『牟礼崩震脚むれいほうしんきゃく』!!」

 だが。
 
 レイドボスとは、もともと一人で相手にする敵ではない。
 いくら高火力で弱点の攻撃を撃ち込んでも。
 本当に焼け石に水なのだ。

 なにせ相手のHPはまだ95%もあるのだ。
 
 もともと、看破を使ってもレイドボスのHP残量は数字としてみることはできず。
 HPの残りの割合が見えるだけだ。

 看破の無いローリエには、その95%という残量すら見えはしない。

 それに、水属性魔法には、信仰度による固定値+5%で回復する治癒魔法がある。
 プレイヤーにとっての5%は微々たるものだが。
 レイドボスが使えば膨大なHP回復量になる。

 故に。

 プレイヤーの疲労が蓄積するローリエはだんだんと深刻な表情になり。

 メルクリエは意気揚々と笑う。

 ほぼ攻撃の通らないローリエと。
 いくら攻撃してもHPを減らし切れないメルクリエ。

 この勝敗は、火を見るより明らかで――。


 そんなことは、ローリエは理解していて。

 終わりの見えない戦いに、集中力を少しづつ削がれていく。


 きつい。
 しんどい。
 かてるきがしない。


 ローリエが、嫌になりかけた。




 そんなところに。



 コロッセウムの天井が、動き出す。
 だんたんと地面に影が差し。



 ベンチから、『ミミズクと猫』が、戦闘領域になだれ込んでくる。


 ローリエのところに、皆が走る最中。

 ジルシスはマナに申し出る。
 
「マナ。アンタ、『トランスファーマインドパワー』ってスキル覚えとる?」

 それは無属性魔法で。味方一人にMPを分け与えるスキルだ。

「ええ。あるわよ?」

「そう。なら、あとでMPわけてもらえん? 今からあたしが使うスキル、MPようけ減るんよ」

「OK、解ったわ」

「頼むな」

 
 そうして――。


 ジルシスは、戦闘領域の中央で高レベルのやみ属性魔法を行使する。



満月作成クリエイト・フルムーン



 太陽光がある状態では、あっというまに打ち消されてしまうが。 
 
 屋根の閉まったコロッセウムならばなんの憂いも無い。


 ジルシスの大魔法によって、コロッセウムの上空に満月が作り出される。



 さらに、フェルマータがウィスタリアに【復活リザレクション】を施し。

 キツネ耳の少女が起き上がる。
 それと同時に、満月の影響でウィスタリアの外見が、ニンゲン状態から、半人半獣状態に移行した。
 所謂、『変身』であり。
 その見た目は、ケモナー御用達といったような姿だ。


 当然。

 ヒューベリオンも満月によりステータスは上昇し。

 ジルシスに至っては、吸血鬼の全力モードに移り変わる。
 

 そして。

 
 フェルマータ、マナ、ユナ、ヒューベリオン、ジルシス、ウィスタリア。 


 戦闘中のローリエの元に皆が集結し。

 

「またせたわね、ロリちゃん……こいつは、『パーティみんな』で倒すわよ!」
 
 
 


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