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第八話 『コロッセウム――開幕――』
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しおりを挟む倒したはずなのに。
大きなウサギは、何事も無かったかのように。
再び姿を現した。
キングダシュプがそういう復活スキルを持っているのかもしれないし。
何か特殊な力が働いているのか。
普通のキングダシュプではないのか。
ユナには解らない。
「……でも……。もう一度やるしかない!」
ユナの全力の一撃は、数々のスキルを一度に使用するため、スタミナの消耗が激しい。
そして、それらのスキルの効果はとっくに切れている。
さらにヒューベリオンもスタミナを、結構消耗している。
だから、ここが使い時だ。
「先輩、ジルシスさん、お借りします!」
ユナは、自分に【花蜜ドリンク】を。
ヒューベリオンに、【ソウルポーション】を使用する。
服用タイプのドリンクを、一気に飲み干し。
それで、ユナのスタミナは全快する。
スタミナが瞬間で全快するアイテムは貴重で。
しかも、そのドリンクは――
「はぁ、これ、めっちゃ美味しい!」
――VR再現の味覚の中でも、別格の美味。
さらにこれは、生身に影響がない。
あまりやりすぎると脳がバグるかもしれないが。
ダイエットに使えそう、とユナは思った。
一度もスフェリカ内でまともな食事は利用していないユナだが。
甘味大好きなユナを一気に虜にしたドリンクに、ハートをまき散らしながら。
「あとで先輩からいっぱい買おう……」
勿論、ヒューベリオンもポーションでスタミナはいっぱいだ。
解説のザマァが、そのドリンクに気づく。
「今、何かアイテムを使用しましたね。スポンサーからの支給品でしょうか? 美味しそうに飲んでいましたが?」
実況のNが手元の資料を確認する。
「登録アイテムのリストを拝見しておりますが、【花蜜ドリンク】というアイテムでしょうか? スタミナ回復に効果が高い、ということです」
「なるほど。新たな一戦を交える前に、消耗したスタミナを回復しておこうという事ですね」
ユナは大満足で、再びウサギに向き直る。
そして。
もう一度。
先ほどと同じ要領でスキルを使用する。
その間に、位置が変わっているキングダシュプ。
そこへ向けて。
「ヒューベリオン、もう1回!」
しかし、ヒューベリオンは、動こうとはしない。
スキルを使ってしまったので、動いてくれないと短時間で効果が切れるものが意味を失くす。
「ちょっと、今更機嫌悪くしないでよ」
子供の竜だし。
ユナとの信頼関係も、まだ深いとは言えない。
トモダチなりはじめ。
といったところだろう。
急にやる気を失うようなことも、何にしもあらずといったところだ。
まだスキルレベルが低いせいで、効果時間が10秒しか無いスキルがもう切れてしまった。
「もう! 今はやらないとイケナイんだから!」
ユナは、あまり使いたくなかったが。
騎乗スキルの【強制騎乗行動】を使用する。
それで、ヒューベリオンの意志に関係なく、少しの間だけ言うことを聞かせることが可能だ。
そうして――、ユナはキングダシュプに突撃する。
「――『騎乗高位・長柄突き』!!!」
――この行動に。
コロッセウムの全ての観客と。
実況と、解説と。
猫ミミのメンバーと。
そしてなにより。
ジルシスは、驚愕した。
前方に、ブラックダシュプが居るというのに――
ジルシスは振り返る。
そして、手に持つ魔工長杖で防御態勢を取った。
しかし――。
『相手』は、瞬間攻撃力特化のキャラクターだ。
その武器は、筋力増強のオプションがついたレア物のハルバードで。
そいつが駆るドラゴンゾンビも強制行動で、突撃してくる。
「あかん……!」
巨体の突撃を、ジルシスが浴びる。
それだけで、もう瀕死になる程の威力だ。
魔工長杖が手から離れて、宙に舞う。
さらに、
「――『騎乗高位・長柄突き』!!!」
突き出された渾身の穂先が、ジルシスを貫いた。
ベンチのウィスタリアが叫ぶ――。
「おばあちゃん……!?」
実況も叫ぶ。
「おおっと……。これは仲間割れ……ではありません。おそらく、ブラックダシュプがしかけた罠でしょう」
「うわぁ。……混乱、でしょうね。スフェリカの状態異常は容赦ないですからね。きっとユナ選手の対策から外れていたんでしょう」
実の所。
ユナが、キングダシュプだと思っていたのは。
ジルシスだったのだ。
もともと、キングダシュプは復活などしていない。
すべてが、ただの幻。演出だ。
なぜなら、ブラックダシュプの魔法は、戦闘領域全域にも及ぶ範囲の広いもので。
超高確率で『混乱』を引き起こす、状態異常魔法だったからだ。
アンデッドなら身体的状態異常はもちろん、精神的状態異常にも高耐性がある。
特に、吸血鬼やドラゴンという高位種族には、状態異常に対する耐性スキルを自動で覚えたりする。
だから、ジルシスとヒューベリオンには効果が無く。
この魔法にひっかかったのは、ユナだけだった。
そして。
これはVRのゲームだ。
プレイヤーが得ている情報は。
ゲームから送られた情報でしかない。
視覚も、味覚も、聴覚も。
全てが、作り出されたモノ。
だからこそ。
『混乱』
という状態異常は、VRだからこその脅威を招く。
攻撃力が高いキャラクターの混乱は、ヤバイ。
RPGをプレイしたことがある者ならば、納得がいく話だろう。
ユナの必殺の一撃に、ジルシスが耐えれるわけもなく。
ユナもあえなく、ブラックダシュプの魔法で瞬殺され、落馬。
結果、月、邪、死に耐性があり、高HPのヒューベリオンだけが残った。
……しかし。
まだSP30Kのヒューベリオンだけでは火力が足りず。
魔法防御が低いこともあって、じりじりHPは減っていく。
負けは時間の問題であり。
パーティを立て直す未来は無い。
だから。
アシュバフの運営は、『敗北』
の判定を告げた。
実況が響く。
「善戦いたしましたが、『ミミズクと猫』。一組目は、黒星となりました!」
「まさかの結果でしたね」
そして、ベンチで待機中のメンバーは思っていた。
アレ、いま、おばあちゃんって……?
そんな中。
ウィスタリアは、敗北し、戦闘領域の地面に倒れた黒クマの着ぐるみを心配そうに見つめていた。
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