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第六話 『鮮血の古城にて』
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しおりを挟むウィスタリアは説明する。
「魔工学の製造スキルと、魔法学の研究スキルで製造可能になる【魔工武器】です」
「ましじっく? ロリちゃん解る?」
「へ!?」
急に降られたローリエは驚くだけで。
代わりにユナが答える。
「つまり、ジルシスさんが言っていましたが、『ピストル』ですよね?」
形状的にも酷似している。
それは、現代に伝わる機械式時計のように。
精密で精巧で、古代の火縄銃と現代の銃の良いところを合わせたようなデザインで。
スチームパンクっぽさがあるといおうか。
「だいたいそうです。この魔工短機杖は、ソレの派生型で『サブマシンガン』って感じかな? 弾は魔法だけど」
ちなみに、ローリエもフェルマータも、魔工学に関わるプレイヤーを見たのは初めてだった。
なぜなら。
機械系。
つまりエンジニアの分野は、去年アップデートで新設されたばかりだ。
一人しかキャラクターを持てない以上、試しにやってみようとは、気軽にできない。
古参でSPをたくさん稼いでいるほど、SPリセットは高額になる上、新しいマスタリとなると手探りで使い心地を研究することになる。
そういうわけで、新しいものを使っているプレイヤーは極最近始めたヒトであることが多いのだ。
吹雪く白い丘から。
アンデッドの軍勢を見下ろしつつ。
フェルマータは言う。
「ウィスタリアちゃんは、始めたばっかり?」
「まぁ、そこそこ最近かと」
「なんで、魔工学を?」
「公式が新設スキルのキャンペーンしてたので。あとは成り行きです」
「ああ……」
公式は新しいスキル実装時に、関連アイテムや技術書、魔導書なんかを無料で配ったりするのだ。
フェルマータとのやり取りを横で聞いていたローリエも少し気にかかることがあって。
おずおず、と。
「そ、それって、弓とかとか、やっぱり違うんで、しょうか?」
「違います。ステータスをいっさい参照しないので。ステータスが低くても、性能に関係しないし」
それを受けてフェルマータが、『赤の眼鏡』でウィスタリアのステータスを覗き見る。
「……そっか。魔工学にSP取られてるから、ステにSP振る余裕ないのね」
「そ、そうなんですね。じゃあ、中衛くらい、ですかね」
ローリエは、小盾、遠距離武器、低ステータスそこから導き出される立ち位置を計算する。
が、ウィスタリアはキリリという。
「前で大丈夫。いつも一人でやってるし」
そうして。
ローリエの【無風領域】が効果を失って。
極寒の大地に。
冷たい風が吹きすさぶ。
ウィスタリアのキツネ耳があおられ。
ドワーフのマントとウサミミが激しく揺れ躍り。
エルフの長い髪が弄ばれる。
そんななか、フェルマータが行動開始を宣言する。
「オッケー、じゃ、そろそろやりましょっか。私もちょっと試したいことあるし」
試したいこと?
ローリエは疑問を抱きつつ。
そうしてメンバー全員が、改めて戦闘準備を完了させる。
【ローリエ】
HP 392/392
MP 626/626
ST 536/536
【フェルマータ】
HP 1491/1491
MP 160/160
ST 556/556
【ユナ】▼RIDE ON
HP 213/213
MP 0/ 0
ST 253/253
【NPC:ヒューベリオン】
HP 2047/2047
MP 90/ 90
ST 136/ 136
【ウィスタリア】
HP 240/240
MP 117/117
ST 286/286
【ジルシス】◆DATA RETRIEVAL NOT POSSIBLE
HP?????/?????
MP?????/?????
ST?????/?????
まず。
フェルマータが、戦槌を振りかぶり、スキルを使用する。
「『グラウンドインパクト』!!」
地面を打ち付ける威力で、周囲の砂、岩、そして雪。
それらを噴出させて攻撃する小範囲攻撃。
それが引き金となって、あたり一面に地響きが巻き起こった。
やがて、戦槌を打ち付けた場所を中心に、雪原に亀裂が生じ始める――。
「こ、これは、なだれ……!?」
「いえすロリちゃん。そういうこと! よし、吶喊!」
ひび割れた雪原を起点に、発生した純白の大津波。
どどどど、と音をたてて、大量の雪がアンデッドがひしめく領地の端に襲い掛かる。
それを追いかけるように、フェルマータが斜面を駆け。
ローリエや、ヒューベリオンに騎乗したユナが続く。
「試したいことって、これですか?」
「ううん。このなだれは私たちが降りる時に起こったら危ないから初めにやっといただけ。アンデッドへの初撃になるってのもあるけど、試したいことは別よ」
斜面を降りる際中、そんな会話をしつつ。
フェルマータは、ローリエが軽快な身のこなしで雪崩の中を突き進む姿を見逃さない。
ユナはヒューベリオンに助けられているし。
いつもやってる、と言っていたウィスタリアは雪原での行動に慣れている。
けど、ローリエは魔法使いの筈だ。
普通の魔法使いはもっと、どんくさい。
マナをいつもみているフェルマータには解る。
しかしローリエの脚運びにはどこか熟達を感じるのだ。
マナならとっくに、スタミナを無くして息を切らしているだろうに。
どこまでも余裕のあるローリエにフェルマータは、ひとつも鈍さを感じなかった。
だから、試してみる。
「ロリちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど。私の新必殺技を試すために協力してくれないかしら?」
「新必殺技……? 協力? ですか?」
「そうよ、スキルの準備が完了するまで、少しの間だけ、私の代わりに皆を守ってあげて欲しいの」
それは、前衛をやってくれと言っているのと同じであり。
「え? あ、えぇ……私、ですか……!?」
狼狽えるローリエを見て、フェルマータはちょっと悪いなぁ、と思いつつ。
しかし、心を決める。
マナの助言を実行する時だと――。
フェルマータのリア友であるマナは観察眼が鋭いほうだ。
この前マナは、ローリエがただの魔法使いビルドでないと感じる理由に、たくさん心当たりがあると言っていた。
つまり、マナはローリエのことをよく見ているのだ。
なにせ、いつもパーティで隣で戦っていたのだから。
それは内面の話も込みであり。
高SPであろうはずのローリエが。
なぜパーティプレイに不慣れなのか。
なぜ一人で首都の移動するのに屋根を伝うのか。
どこに一喜一憂していたのか。
ローリエの性格を、マナは予想し、フェルマータに秘かに伝えた。
このパーティはいつか大精霊と呼ばれる大ボスに挑む計画だ。
そのためには、メンバーの強さをもっと上げないといけない。
実力を隠したままでは、いつか問題が生じるに違いない。
それにフェルマータは、ローリエというキャラクターに、もっと思いのままに戦ってほしいと思っている。
ちょっと意地悪をしてでも、少しづつでもその力を解き放って欲しい。
だからフェルマータは、心を鬼にして。
「この前もマナのこと守ってくれていたし、ロリちゃんなら出来るって、私信じてるわ」
「!?」
ローリエなら出来る。
ローリエを信じてる。
そう言われると断れない。
押しにも弱いし、パーティの役に立ちたいと思っているローリエだから。
それは
『ロリはお願いされたり頼られると断れないんじゃない』
というマナの予想の通り。
「わ、解りました……やってみます」
「じゃ、頼んだわ、ロリちゃん!」
そうして、パーティは、領地に攻め入るアンデッドの軍勢に、雪と共になだれ込んだのだ。
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