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第六話 『鮮血の古城にて』

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「だ、だだだだ、だ……誰ですか!?」
 
 ローリエは一生懸命、勇気を絞り出すように尋ねる。
 
「あたし? あたしは……ただの吸血鬼よ?」

「きゅ、吸血鬼……?」

「それより、あんたは? ユナて子と違うん?」

「え、いえ。私は、エルフで、ローリエ、です!」

「ロォリエ……? あら? なんや、この『どらごんぞんびぃ』の飼い主とちゃうんか」

 ローリエは今しがた出会った他人に、正直に言っていいものか迷いながら。  

「ユナさんは、私の……と、と、と……」

 そしてさらに、『トモダチ』だなんて、そんな恐れ多い主張を、本人の居ない所でしていいものかと、迷う。
 トモダチだなんて、ローリエが勝手に思うだけで。
 フレンド登録もパーティだからって理由だけで、『フレンド』とは名ばかりかもしれない。
 ここでトモダチという事は、嘘、大袈裟、紛らわしいの誇大広告であって。
 ユナには迷惑でしかないかもしれない。
 そんな歯切れの悪いローリエに相手は聞き返す。

「と……? なに?」
 
 ローリエはなおさらビビり気味で。
 相手にそんなつもりは無くても。
 威圧感を感じてしまって、つい言ってしまう。
 いつもの尻すぼみな声量で。

「え、あ……う……、と、トモダチです。ユナさん、は……私の」

「ああ、あんたユナって子の知り合いなん?」

「はい、そうです、けど?」

「それやったら、この『どらごんぞんびぃ』、何処でゲット出来るか、あんた知ってはる?」

「さ、砂漠の遺跡です。以前イベントをしてた遺跡地帯の、地下ダンジョンで……」

「ほぉ? 今でも手に入るんけ?」

 ずい、と迫る吸血鬼少女に、ローリエは仰け反りつつ。

「さ、さぁ? とても珍しいみたいですから……詳しくは私にも分からなくて……」
 どうでしょう? とローリエは目を逸らす。

「そうかぁ。あの『ぞんびぃ』も、あたしも『あんでっど』やし、あたしにピッタリで恰好ええと思うたんやけど。そう簡単には、いかんのやね」

 そうかぁ。
 とあきらめきれない様子で、少女はちょこんと大人しくお座りしているヒューベリオンを見つめる。

 そして、少女は。ヒューベリオンの下に落ちている『にゅうる』に気づいた。

「あんた、この子に食べ物あげようとしとった?」

「え? あ、はい……」

「『あんでっど』に、普通の食べ物はあかんよ?」

「え?」

「あたしもそう。あたしの食べ物は――」
 
 ゆらり。
 一瞬だけ、霧に姿を変え。
 その一瞬で少女は1歩を歩んだ。
 ローリエは反応も出来ずに、吸血鬼少女が間合いに入るのを許してしまう。
 そんな極至近距離。
 顔と顔がぶつかりそうな距離。
 あまりに近く。
 そして、色白な少女の顔の造形は、素晴らしく綺麗で。

 赤い少女の双眸と、ローリエの琥珀色の視線が交錯する。
 
 ローリエは照れてしまい、目をそらそうとするが。
 その前に。 
 
 少女はその食べ物の名前を、囁くように言った。

「――『血』よ」
 と。  

「真っ赤な、血」
 だと、言いなおしながら。
 少女が離れる。

 ほっほっほ、と笑って。
「……この子は、あんたとも、友達のようや。オイタは辞めにしとかなね」
 
 そのままガブリとかじられるのかと思ったローリエは、ほっとして。
 さらにヒューベリオンを見ると、威嚇態勢になっていた。

 相手キャラクターの同意なく血を吸う行為は、PK行動に値する。
 ローリエにそれをした瞬間、ヒューベリオンは飛び掛かるつもりだっただろう。
 だから少女は離れたのだ。

 そして。
 今は夜、元々夜明けの近い時間帯だった。

 それが時間が進んだことで、朝を迎えようかと言う瞬間に差し掛かる。
 
 いつの間にか、東の空は黄金色に染まり。
 やがて僅かに、太陽が顔を出す。
  
 陽の光が、村を照らし始める。

 
 光が、少女に当たった瞬間。
 少女の身体から、しゅぅぅ、っと煙が出始めた。
 墓地のノスフェラトゥ達も同じように、すごい勢いでHPを削られて煙を上げている。 

 ハッ。と少女は驚いた顔になり。
 東の空を見て。

「しもうた……もうこんな時間か。けど、今から城に帰る時間は……」
 
 どこか、日の当たらんところに行かんと。
 少女は慌てて辺りを見回す。

「あかんあかん……このままやと死ぬる」
 
 少女は、慌てたまま、大木の影に頭を抱えて小さく成りしゃがみ込んだ。
 それでも、まだ少し煙が上がっている。

 ローリエは見かねて。
 とっさの判断で。

 大木に立てかけてあった日傘を広げて、少女に落ちる影をさらに深くする。
 日傘の影。自分の影、大木の影。

 そうして、そこに寄り添いにやってくる。
 ヒューベリオンの影。

 それでようやく、少女は危機を脱する。
 膝を抱えたまま、顔を上げた少女は。

「おおきに。助かったわ。ありがとうね」

 続けて少女は言う。

「あたし、『あんでっど』やし、『きゅうけつき』やから、ダブルでお日様に弱うてね。30秒もせんうちに死んでしまうんよ……」

 って、あれ?

「……なんで、あんた無事なん?」

 少女の視線は、ヒューベリオンに。
 ローリエは、なぜだか気づいているので、説明する。
  
「ヒューベリオンさんは、アンデッドですが、ドラゴンですから……」
 
 ドラゴンゾンビは確かに太陽に弱い。
 でも、アンデッド分の弱点しか帯びてないのだ。
 だから、能力が弱体する、というデメリットは受けている。
 そしてアンデッドも太陽でダメージを受けるが、その数値は一定時間毎に最大HPの5%というDOT。
 けれどドラゴン種のパッシブスキル【竜の血】という種族スキルによって、あらゆるDOTのダメージ量は10%まで無効化され、それ以後は減少になる。つまりDOT11%なら1%に減るのだ。
 アンデッドの太陽によるDOTが5%なので、それを加味すると-5%。
 つまり太陽ダメージは完全に相殺されているのだ。
 
 しかし吸血鬼はDOT20%。アンデッドと合わせると25%になる。
 太陽の当たり具合や時間帯によって、割合は変動するが。
 朝日は太陽の力が強く、最大の威力になる。
 それを影の無いところで浴びると、吸血鬼はたった4回のサイクルで死ぬ。
 だから恐れる。

 少女は、
「そうか。ええなぁ……」
 と呟いてから。
 思い出したかのように。

「――そんで、さっきの続きやけど。その子に血をすうのは無理やろから、そうなるとその子のご飯は、魂やね」

「魂……? ですか?」

「そうよ。たぶん、どこかのお店でも売ってるんとちゃう? 邪属性……っていうん? その魔法で『ソウルベイトそうるべぇと』いうやつがあってな。それでこさえるん、あんでっどのご飯はね」

「こさえる?」

「作る、いうことや。今はそうは言わんかいな」 

「邪属性魔法……」

 ローリエは、邪属性魔法を使える知り合いに心当たりはない。
 お店で探すしかないだろうか。
 首都を練り歩くのはハードルが高い。
 特に一人では。

「助けてくれたお礼に、あたしがこさえたげよか?」

「良いんですか?」

「ええよええよ? けど、太陽の在る所はすてぇたすが低ぅなりすぎて、上手いこと作れんさかい、お城まで連れて行ってくれへん? あの子も一緒にな」

「お城ですか?」

「そうや。ここから北にある、『ブラッドフォート城』」

 おしろ? 
 
「そ、あたしの、家」


「い、え……。えぇっ!?」

 
 お城が家だと言った。
 驚くローリエをしり目に。
 吸血鬼少女は立ち上がる。

 多少HPが削れ始めるが、日傘、ヒューベリオン、大木の影でその量は僅か。
 ローリエの隣に並ぶ、少女の様子は。
 相合傘であり、
「ゲェトまで、このまま走ろうか。日傘の中なら、1分くらいなら持つで」

 そして。
 ふたりは肩と肩を密着しなければ日傘の影に入ることはできない。
 
 そんなタイミングで。

 転送クリスタルがある方角から、猛然とダッシュで接近する人影が――。

「ちょっとぉ! ……そこの人、何してるんですかぁ!?」

 その人物こそが、ドラゴンゾンビの主。
 ユナであった。

 なぜか、とても機嫌が悪いのだが。 
 

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