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第五話 『ゴーストライダー』

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 皆で、ゼセの村で話し合った結果。

 大きさから考えて、軍馬用の馬具が丁度だろうということで。
 買うのか、作るのかもまだ定かではないため。
 とりあえず。
 パーティメンバーで手分けして、プレイヤーの販売しているお店を見て回ったり、馬具を制作できる者を探したりしてみることになった。

「すいません、お願いします」
 
 ユナの見送りを受け。
 フェルマータとマナは、さっそく都市を回って販売しているプレイヤーが居ないか探しに向かい。

 ローリエとユナも、続いて向かおうとするのだが。

 問題が出た。

 ペットは基本的にインベントリに回収できない。
 小さくして持ち運ぶには、専用の収納アイテムが必要で、軍馬サイズのものとなればかなりの高額になる。
 
 そうなると、ドラゴンを連れて歩くしかないのだが。
 
 大きさは馬ほどなので、そこは問題ではないのだが。
 それよりも、その種族と、骨と皮だけというグロい上インパクト抜群の見た目が気にかかる。
 
 ユナは傍らに立つ竜、その、身体を見つめて。

「このままグランタリスに戻ったら、目立ちますよね」

 それにローリエは、どんよりとした表情で、同意する。

「ドラゴンのペットは珍しいそうですから、寄ってきてしまうかもです、他人ひとが……」

「ですよね……」

 ユナはただ目立ちたくない、という気持ちだが。
 ローリエはそれよりも、深刻だ。

 ペットとしても、騎乗用としても。
 ドラゴンは珍しい。しかもゾンビなのはなおさらだ。

 つまり他人目を惹く。
 興味を惹く。
 それは歓迎できることではない、ローリエにとっては。
 注目されるのも、寄ってこられるのも、ローリエは勘弁願いたかった。
 最初に比べれば、街の往来を歩くのも多少慣れたが。
 それでも。
 今だって首都内の移動は、屋根を伝っていることが多いのに。
 
 動物園のパンダのように騒がれたりしたら、ローリエ的には逃げ出したくなる事だろう。
 多数の他人の目も、多数の騒めきも。
 ローリエにはストレスでしかない。
 
「……どうしましょう、先輩」

 子供ドラゴン(骨)は、ユナの傍を離れない。
 主従関係からと言うのもあるだろうが。
 それは寂しいという感情からのように見えた。

「首都などの大きな街の外に、厩なら、あるんですけど……」
 うまやというのは、騎乗用の馬を預けておく場所だ。
 

 悩んでいると早速、マナから【伝言メッセージが来る。

「馬具のフルセット販売してるプレイヤー見つけたわよ。価格は、鉄製で3M、鋼鐵で6M、魔銀製で18Mってところね。あと、フェルが、『アイテムとの物々交換で、お古の馬具進呈します』っていう、依頼書クエスト見つけたって。ただ、何の素材で出来てるやつか不明なの。でも、『ミミ猫』の依頼書だから、出来ればこっちにしてほしいって。収集素材は、ファイアイーターの羽10個よ」

 それを、ユナに伝えると。

「あ、羽あります! このまえ遺跡で拾ったやつですけど」

 そしてそれを今度はローリエが【風の囁きウィスパー】で返事をする。
 そのついでに、ローリエは言葉を付け加えた。
「――ヴィエクルスフィアは売ってますか? あったら即欲しいです。私が買います」

「了解。依頼主に連絡とってみるわ。ヴィエクルスフィアも、馬具販売してるお店で委託されてるから、買っていくわね」

 ということで、ローリエたちが暫く待機していると。
 フェルマータが、ヴィエクルスフィアを持って、ゼセ村に戻ってきた。
 
「最安値で50Mだったけど、ロリちゃん大丈夫? 足りなかったら私も出すけど」 

 ローリエは3年間ソロし続けていたので、それなりにお金は持っている。
 50Mくらいは余裕だった。
「大丈夫です、トレードお願いします」

「50M?」
 ユナは二人の会話に疑問を抱く。
 50Mの意味や、相場観などだ。
 ちなみに、ゲーム内価格では、5000万グランという事だが。
 ユナに価格説明はしないまま、取引が進められた。
 ローリエがお金をフェルマータに渡し。
 フェルマータが、ユナにアイテムを渡す。

 そしてローリエが説明する。

「これで、騎乗ペットを携帯して持てるようになったはずです。ただ、入れておくとペットの機嫌が悪くなっていって、指示を聞いてくれなくなりますから、なるべくすぐ出してあげてください」


 そんなわけで。
 ユナは、ヒューベリオンを収納し。
 首都に戻って。
 クエストの依頼主から、『鋼鐵の馬具』セットを引き取ることが出来た。
 お古だけあって、装備耐久値の最大値がそれなりに減っているが。
 
 進呈した素材から考えるとかなり割安で入手することが出来たと言える。

 フェルマータは、我が事のように笑みを浮かべ。

「よし、これで次から、不死竜ベリちゃんと狩りに行けるわね。――ところで」

 フェルマータの視線が、ユナの防具に向けられる。

「ユナちゃん? 防具はそのままでいいの?」

 現在ユナは、最初にフェルマータと武具選びをしたときに選択した、レザーアーマーを着用している。
 その時は、軽装備か重装備か決めていなかったため、とりあえずペナルティの無い装備を選んだ。
 
 というのも、装備には必要筋力や、必要信仰力などの基準があり、それを満たしていない場合、届いていない分の数値に比例してペナルティが発生する。

 重装備はそれなりの筋力が必要なことと、回避力の補正がマイナスなのも考え、最終的にどちらにするのか、ちゃんと考えるとことを先送りにした形だ。
 だが、
 騎乗ペットを手に入れたことで、軽装備でいる意味が少し薄れた。
 フェルマータはそのことを気にしている。

軽装防具ライトアーマーのままでいい? って意味なんだけど」  

「おかしいでしょうか?」

「おかしくはないけど。仮にユナちゃんが、この先『騎乗マスタリ』を上げて、騎士ナイト的なビルドになっていく場合、回避行動はヒューベリオンちゃんに任せることになるわよね? そうすると軽装備でいる意味はあまりないかな、って」

 フェルマータの話に、ローリエも割り込む。

「騎乗なしでも、回避用にAGIに多く振る予定がないのでしたら、重装防具ヘビーアーマーの方が、いいかも……」

 そしてフェルマータは、慌ててこう付け加える。

「ああ、でも、ビルドは自由だから、これはあくまで私が思うことで。ユナちゃんの好きにしたらいい事ではあるんだけど」
 
 ユナは考える。

「なるほどぉ……。確かに、そうかもしれないです。もうちょっと腕の動きは速くしたいので、DEXは上げるつもりなんですけど、AGIは考えてませんから……」

 フェルマータが言う。
 
「防具系のマスタリはまだあんまり考えてないんでしょ? それなら、今は重装備にしておいたらどう?」

「そうですね。そうしようかな……」

「じゃ、重鎧余ってるから、後で私のお古渡すね。鋼鐵スティールのフルアーマーだけど」

「ありがとうございます!」

「カラーも変更しておくわ」

 そんな会話を、きいて。
 ローリエは思う。
 いいなぁ、と。
 
 ソロしかしてこなかったローリエは、装備のお古を譲ってもらったり。
 そんな優しさを受けた覚えはなく。
 羨ましいような妬ましいような。

 それによく考えたら。
 ユナは、竜の卵をゲットしちゃったり。
 カトブレパスの卵をゲットしちゃったり。
 死ぬようなダンジョンで、何故か生き延びていたり。

 すごく運がいいのではないだろうか。

 

「……ずるいなぁ……。私もちやほやされたい……」

「え?」

 ボソっと、思わず漏れたローリエの言葉に、ユナが反応する。
 ローリエは、慌てて取り繕うのだけど。

 そして、暫く後、ユナにはアンデッドのドラゴンに合わせて、真っ黒にカラー変更された鋼鐵全身甲冑スティールフルプレートが進呈された。しかも、インナーも可愛いドレス風になっているやつだ。
 それでユナは、一気に騎士っぽさが増したのだった。
 



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