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第五話 『ゴーストライダー』

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「名前ねぇ」

 マントを身に着けたうさみみのドワーフが、魔銀胸板ミスリルプレートの前で、腕を組む。
 ひとしきり考えても、中々良いものが出ないのか、隣の魔法使いに話を振った。

「先生、何か良いのある?」

 二股の黒いジェスターキャップを魔術帽子としてかぶる真っ黒な出で立ち――。
 そんな魔法使いは、ケロリと言った。

「『どらぞん』とかで良いんじゃない?」
 
「何それ! まんますぎぃ! 相変わらず先生はセンスが無いんだから。せめてもうちょっと捻ってよ」

「じゃあ『ぞんどら』?」

「いったい、どこ捻ってんの……」

「そういうフェルは? どうなの?」

「私? ……『ドラちゃん』とか……?」

 ぷっ。
 マナはふいた。

「笑うなァ!」
「ずいぶん、ハイセンスな名前ね」
「うるさぁい」
「でも、ダメよ、それ。それはハイセンスすぎて却下ね」

「それじゃあ……」

 あと頼りに出来るのは、残りの二人。
 
 その二人も今、あーでもない、こうでもない、と考えている所だ。
 ユナは、持ってきたハルバードを抱きしめる様に保持しつつ。
 顎に手を当てて、未だに初心者服にレザーアーマー姿で考え込んでいるし。

 ローリエは、長い若草色の髪を、流水のように地面に落とし。
 花弁のようなスカートを広げ。
 日傘をさしたまま、地面に座り込み。
 木の棒で、何かを地面に書き込んでいる。
 メモかな。
 
 フェルマータは、ローリエの謎のメモを見なかったことにして。
 ドラゴンゾンビの飼い主であるユナに聞いてみる。
 
「ユナちゃん、何か思いついた?」
 ユナは、顔を上げる。

「いえ……今思いついたのは、その……『ロトン』とか、ですかね……?」

「なにそれ、かっこいいじゃない?」

 フェルマータは称賛するのだが。
 ユナとマナはそうでもなくて。

「そのままね」
 とマナは言い。

「ええ、そうですよね」
 とユナも言い。

「どういうこと?」
 と、フェルマータは怪訝な顔だ。

 マナが補足する。
「ロトンって、腐ってるって意味よ。物理学の方でもう一つ意味があった気がするけど、そっちで考える人はまず居ないでしょうし」

「すいません、単純で……。他には『グロース』とか『クリーピー』とか……」

 追加でユナが言うワードは二つとも、気色悪い、と言う意味だ。

 ユナは目を逸らす。
 ローリエはそれなりに、ドラゴンゾンビに慣れれたが。
 肝心のユナはまだ、グロい見た目には不慣れなようで。
 直球のワードしか出てこなかったのだ。

 となると、残るはローリエだ。

「……あの……ロリちゃん。何か候補ある?」

 地面に枝で書かれたたくさんの文字を、フェルマータを含む3人で覗き込む。
 レシートのように長いリスト化されているのだが、一部抜粋すると。

 ヴリトラ
 ユルムンガルド
 ヒューベリオン
 ヘルムート
 ヴィーヴル
 ニーズヘッグ
 ファフニール

 このような感じで。

「聞いたことあるやつも、それなりにあるわね」

「いっぱいありますね」

「あ、はいっ。思いついたもの、全力で書きました……!」

「ロリのおすすめは?」
 
 マナが尋ねると。

「ヒューベリオン、ですかね? 私のお母さんレトロなゲームが好きで、昔あそんでたドラゴンのゲームに、こんな感じの名前があった気がして……変な見た目のドラゴンでしたので丁度いいかも……」

「かっこいいですね、私、それがいいです」

 ローリエの提案を受けて、ユナが採用を言い渡す。
 飼い主がそういうのなら、もう何も言えることはなく。

「略してベリちゃんかな?」
 
 ローリエは、イッパイ考えて置いてなんだけど、私が考えたやつで良いのかな、と。
 不安になりつつ。

「良いんですか? それで」

「良いんじゃない?」

 
 そんなわけで。

「じゃあ、ペットの名前の所に、入力しちゃいます」

 そうして、正式にインファントドラゴンゾンビの名前は。
『ヒューベリオン』が採用された。

 
 名前が決まったなら。
 当初の予定通り、ユナの獲得した騎乗スキルを試すべく。
 
「よし、じゃあ、乗ってみますね……」

 ユナは、ヒューベリオンを見る。
 静かに寝そべって、寝ているかのような、その肢体を。

 腐った内臓なんかはもう、軒並み卵の殻と一緒に地面に落ち切っているので。
 今は、骨に所々皮が張り付いているような状態なのだが。

 相変わらず、生物の皮一枚内側が、どうなっているのか。
 生々しい現実を叩きつけてくるような見た目をしている。

 近づくにはそれなりに覚悟が必要だ。
 ユナは生唾を飲み。

 そろり、そろり、と近づいた。

 すると、ヒューベリオンが起き上がる。
 まだ子供ということで、大きさは競走馬くらいだろうか。

「え、っと、ヒューベリオンさん、乗っても、いいですか?」
 
 ユナがビビりながら尋ねると。 
 再び、ドラゴンゾンビは伏せるようなポーズを取り、乗ってもいい、という意思を示す。

「あ、ありがとうございます」

 そうして、ユナは、その背中に跨った。

 そのまま、ドラゴンゾンビが立ち上がる。 

「ひゃ、あう……あっ……!?」

「大丈夫、ユナちゃん!?」

 体高150~170くらいになるヒューベリオンを。
 身長130ほどのドワーフが心配そうに見上げる。

「あっ、ちょ、やっぱり、おります。降ろしてッ」

 ユナは慌てて、降りた。

 降りたユナは、お股を抑えている。

「ああ、背中、骨だもんね、痛かったかなぁ?」
「突起いっぱありますからね、ドラゴンの背骨ですし……」

「うっ、いえ、痛い、っていうか……その……」

 このゲームは、痛みをそのままプレイヤーには伝えない。
 極めて緩和された痛みに変換される。
 
 極めて緩和された、と言う部分が、この場合極めて重要な所で。
 
 しかし、ユナ以外は、痛かったのだと思っていて。

「騎乗用の馬具、っていうか、鞍みたいなのが必要かもしれないわね」

「はい、是非。必要です。ちょっとこのままだと……戦うのは無理です」


 つまり、次の目標は、鞍を手に入れることになりそうだ。 
 


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