VRMMO-RPG:SecondWorld/第二世界スフェリカ ――『ガールズ・リプレイ』――

日傘差すバイト

文字の大きさ
上 下
52 / 119
第五話 『ゴーストライダー』

52

しおりを挟む

「名前ねぇ」

 マントを身に着けたうさみみのドワーフが、魔銀胸板ミスリルプレートの前で、腕を組む。
 ひとしきり考えても、中々良いものが出ないのか、隣の魔法使いに話を振った。

「先生、何か良いのある?」

 二股の黒いジェスターキャップを魔術帽子としてかぶる真っ黒な出で立ち――。
 そんな魔法使いは、ケロリと言った。

「『どらぞん』とかで良いんじゃない?」
 
「何それ! まんますぎぃ! 相変わらず先生はセンスが無いんだから。せめてもうちょっと捻ってよ」

「じゃあ『ぞんどら』?」

「いったい、どこ捻ってんの……」

「そういうフェルは? どうなの?」

「私? ……『ドラちゃん』とか……?」

 ぷっ。
 マナはふいた。

「笑うなァ!」
「ずいぶん、ハイセンスな名前ね」
「うるさぁい」
「でも、ダメよ、それ。それはハイセンスすぎて却下ね」

「それじゃあ……」

 あと頼りに出来るのは、残りの二人。
 
 その二人も今、あーでもない、こうでもない、と考えている所だ。
 ユナは、持ってきたハルバードを抱きしめる様に保持しつつ。
 顎に手を当てて、未だに初心者服にレザーアーマー姿で考え込んでいるし。

 ローリエは、長い若草色の髪を、流水のように地面に落とし。
 花弁のようなスカートを広げ。
 日傘をさしたまま、地面に座り込み。
 木の棒で、何かを地面に書き込んでいる。
 メモかな。
 
 フェルマータは、ローリエの謎のメモを見なかったことにして。
 ドラゴンゾンビの飼い主であるユナに聞いてみる。
 
「ユナちゃん、何か思いついた?」
 ユナは、顔を上げる。

「いえ……今思いついたのは、その……『ロトン』とか、ですかね……?」

「なにそれ、かっこいいじゃない?」

 フェルマータは称賛するのだが。
 ユナとマナはそうでもなくて。

「そのままね」
 とマナは言い。

「ええ、そうですよね」
 とユナも言い。

「どういうこと?」
 と、フェルマータは怪訝な顔だ。

 マナが補足する。
「ロトンって、腐ってるって意味よ。物理学の方でもう一つ意味があった気がするけど、そっちで考える人はまず居ないでしょうし」

「すいません、単純で……。他には『グロース』とか『クリーピー』とか……」

 追加でユナが言うワードは二つとも、気色悪い、と言う意味だ。

 ユナは目を逸らす。
 ローリエはそれなりに、ドラゴンゾンビに慣れれたが。
 肝心のユナはまだ、グロい見た目には不慣れなようで。
 直球のワードしか出てこなかったのだ。

 となると、残るはローリエだ。

「……あの……ロリちゃん。何か候補ある?」

 地面に枝で書かれたたくさんの文字を、フェルマータを含む3人で覗き込む。
 レシートのように長いリスト化されているのだが、一部抜粋すると。

 ヴリトラ
 ユルムンガルド
 ヒューベリオン
 ヘルムート
 ヴィーヴル
 ニーズヘッグ
 ファフニール

 このような感じで。

「聞いたことあるやつも、それなりにあるわね」

「いっぱいありますね」

「あ、はいっ。思いついたもの、全力で書きました……!」

「ロリのおすすめは?」
 
 マナが尋ねると。

「ヒューベリオン、ですかね? 私のお母さんレトロなゲームが好きで、昔あそんでたドラゴンのゲームに、こんな感じの名前があった気がして……変な見た目のドラゴンでしたので丁度いいかも……」

「かっこいいですね、私、それがいいです」

 ローリエの提案を受けて、ユナが採用を言い渡す。
 飼い主がそういうのなら、もう何も言えることはなく。

「略してベリちゃんかな?」
 
 ローリエは、イッパイ考えて置いてなんだけど、私が考えたやつで良いのかな、と。
 不安になりつつ。

「良いんですか? それで」

「良いんじゃない?」

 
 そんなわけで。

「じゃあ、ペットの名前の所に、入力しちゃいます」

 そうして、正式にインファントドラゴンゾンビの名前は。
『ヒューベリオン』が採用された。

 
 名前が決まったなら。
 当初の予定通り、ユナの獲得した騎乗スキルを試すべく。
 
「よし、じゃあ、乗ってみますね……」

 ユナは、ヒューベリオンを見る。
 静かに寝そべって、寝ているかのような、その肢体を。

 腐った内臓なんかはもう、軒並み卵の殻と一緒に地面に落ち切っているので。
 今は、骨に所々皮が張り付いているような状態なのだが。

 相変わらず、生物の皮一枚内側が、どうなっているのか。
 生々しい現実を叩きつけてくるような見た目をしている。

 近づくにはそれなりに覚悟が必要だ。
 ユナは生唾を飲み。

 そろり、そろり、と近づいた。

 すると、ヒューベリオンが起き上がる。
 まだ子供ということで、大きさは競走馬くらいだろうか。

「え、っと、ヒューベリオンさん、乗っても、いいですか?」
 
 ユナがビビりながら尋ねると。 
 再び、ドラゴンゾンビは伏せるようなポーズを取り、乗ってもいい、という意思を示す。

「あ、ありがとうございます」

 そうして、ユナは、その背中に跨った。

 そのまま、ドラゴンゾンビが立ち上がる。 

「ひゃ、あう……あっ……!?」

「大丈夫、ユナちゃん!?」

 体高150~170くらいになるヒューベリオンを。
 身長130ほどのドワーフが心配そうに見上げる。

「あっ、ちょ、やっぱり、おります。降ろしてッ」

 ユナは慌てて、降りた。

 降りたユナは、お股を抑えている。

「ああ、背中、骨だもんね、痛かったかなぁ?」
「突起いっぱありますからね、ドラゴンの背骨ですし……」

「うっ、いえ、痛い、っていうか……その……」

 このゲームは、痛みをそのままプレイヤーには伝えない。
 極めて緩和された痛みに変換される。
 
 極めて緩和された、と言う部分が、この場合極めて重要な所で。
 
 しかし、ユナ以外は、痛かったのだと思っていて。

「騎乗用の馬具、っていうか、鞍みたいなのが必要かもしれないわね」

「はい、是非。必要です。ちょっとこのままだと……戦うのは無理です」


 つまり、次の目標は、鞍を手に入れることになりそうだ。 
 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……! ※感想は私のXのDMか小説家になろうの感想欄にお願いします。小説家になろうの感想は非ログインユーザーでも記入可能です。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

異世界帰りのゲーマー

たまご
ファンタジー
 部屋でゲームをしていたところ異世界へ招かねてしまった男   鈴木一郎 16歳  彼女なし(16+10年)  10年のも月日をかけ邪神を倒し地球へと帰ってきた  それも若返った姿で10年前に  あっ、俺に友達なんていなかったわ  異世界帰りのボッチゲーマーの物語  誤字脱字、文章の矛盾などありましたら申し訳ありません  初投稿の為、改稿などが度々起きるかもしれません  よろしくお願いします

VRMMO-RPG:SecondWorld/第二世界スフェリカ 設定資料(永遠に未完成)

日傘差すバイト
ファンタジー
https://www.alphapolis.co.jp/novel/539041038/197701593 の、設定資料です。 世界観重視の作品? です。 その世界についての設定をまとめます。 すごい書きかけです。 少しづつ埋めます。 本編は趣味で書いてますが、こっちは息抜きに書いてますw 永遠に暫定的な設定であることをご了承ください!

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...