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第四話 『暗闇の底で』
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中央に、4メートルはあろうかという、大きな石碑が立つフロア。
その周囲を囲うように、幾つかの卵が置かれていた形跡があり。
今も、何個かは採取可能な状態だ。
卵は、1メートルほどの大きさの、球状の物体で。
見紛うこと無き、超レア品、カトブレパスの卵だ。
くっくっく。
姿を現した男は。
笑い。卵に掌を置く。
「こんなに早く見つけられるとは……オレは運がいいぜ」
そして。
背後からの接近にも気づいていた。
というより、ひとつ前のフロアからの月明かりで出来た長い影が。
床に映りこんでいるのだから、否が応でも気づくのだが。
シルクハットの男は、振り返らずに、
「よぉ、生きてたか? センパイ」
「ど……どうしてユナさんを殺したんです!」
「どうして?」
男は振り返る。
振り返ると、小柄なエルフが、険しい表情で佇んでいた。
「どうしてって、オレァ、PKだぜ。殺すのが普通だろうが?」
「そ、そういうことじゃありません。始めたばかりなんですよ? そんなことをしたら、辞めちゃうかもしれないじゃないですか……」
他人に談判するようなことは、今までになかった。
そんなローリエの言葉は、基本的にデクレッシェンド。
自信なく、声量は尻すぼみになっていく。
しかし、どうしても、言いたかった。
折角、パーティに入ってくれたのに。
自分のことを追いかけてきてくれたのに。
心を折るような仕打ちは、許せなかったからだ。
だが、男は、そんなこと知ったことではない風で。
「何がダメなんだァ? 良いじゃねェか、別に。辞めたきゃ辞めりゃいい。今じゃこの手のゲームはより取り見取りだろォ? 何も、このゲームにこだわる必要はねぇ。PKなんていないゲームをやりゃいいだけじゃねえか? 始めたばっかりなら、辞めても未練もありゃしねえだろォ?」
それはそうかもしれない。一般的には。
でも、それでは困るのだ。少なくともローリエは、困る。
ユナに辞められても、良いって?
「そんなはず、無いです。……良く……あり、ません!」
「じゃあどうするってんだ?」
「PKモードオン!」
「ふっ。いいねェ? 復讐、ってかぁ? オレをPKしようってわけだ?」
ローリエは、その手に、短剣を作り出す。
【木葉短剣】という木属性の初級魔法で。
それを最大レベルまで上げた時に追加される隠し要素。
本来は、ナイフのように強化された木の葉を投げつける魔法だが。
そこから派生したこのスキルは、【大自然の弓】と同様に、自分の手に装備することができる。
「……へぇ、短剣、ね。貴様に扱えるかな?」
ローリエが構え、今にも踊りかかろうかと言うタイミング。
暗殺者は、カトブレパスの卵を、インベントリに収納した。
フロアから、卵が一つ消え失せる。
「――でも、貴様と殺るのは、今じゃねえんだよな。オレはまだ、準備が出来てねぇ。そのことはさっき、ようく解ったからよ」
「え?」
何を言っているのだろうか。
自分は気配を消して、他人の準備も何もさせないような状態で殴りかかるクセに。
「まさか、逃げるつもり、です……か?」
ローリエが言葉を言いきるかどうかと言う時。
フロア全体が振動し、地震のような地響きに見舞われる。
ゴゴゴゴゴゴゴッ、とそんな重々しく低い音が、周囲を震撼させ、パラパラと天井から土石が舞う。
「……良いぜ? ヤルっていうなら止はしねえ。でもよぉ? オレの相手をしてていいのか? 今頃、卵を取られて怒り狂った亡霊が、暴れ始めてんぜ?」
あっちのほうでな。と、シルクハットの男は、顎でクイっと指し示す。
そっちは、ドラゴンとカトブレパスの死骸があったほうで。
そして、復活したばかりのユナが残っている方だ。
「貴様の後輩が、またくたばってもしらねぇぞ?」
「くっ!」
ローリエは、踵を返すと。
【超高度跳躍】も使って。
一目散に走る。
「くっくっく、精々がんばりなぁ、オレはこの辺でおさらばさせて貰う」
そうして、背後に残した暗殺者は。
貰う物だけもらって。
その場から消え失せた。
インスタントダンジョンはゴールしなきゃ脱出できないだなんて。
ユナに言った言葉は嘘だ。
拠点に帰還するアイテムを使えば、脱出は出来るのだから。
そうそう。
「――あと、その指輪はしっかり持っておけ」
オレの手で必ず取り返す。
ローリエの短剣を見た時に、男は指にハマっているアクセサリーに気づいていた。
それが、もともと自分の物であったことに――。
その周囲を囲うように、幾つかの卵が置かれていた形跡があり。
今も、何個かは採取可能な状態だ。
卵は、1メートルほどの大きさの、球状の物体で。
見紛うこと無き、超レア品、カトブレパスの卵だ。
くっくっく。
姿を現した男は。
笑い。卵に掌を置く。
「こんなに早く見つけられるとは……オレは運がいいぜ」
そして。
背後からの接近にも気づいていた。
というより、ひとつ前のフロアからの月明かりで出来た長い影が。
床に映りこんでいるのだから、否が応でも気づくのだが。
シルクハットの男は、振り返らずに、
「よぉ、生きてたか? センパイ」
「ど……どうしてユナさんを殺したんです!」
「どうして?」
男は振り返る。
振り返ると、小柄なエルフが、険しい表情で佇んでいた。
「どうしてって、オレァ、PKだぜ。殺すのが普通だろうが?」
「そ、そういうことじゃありません。始めたばかりなんですよ? そんなことをしたら、辞めちゃうかもしれないじゃないですか……」
他人に談判するようなことは、今までになかった。
そんなローリエの言葉は、基本的にデクレッシェンド。
自信なく、声量は尻すぼみになっていく。
しかし、どうしても、言いたかった。
折角、パーティに入ってくれたのに。
自分のことを追いかけてきてくれたのに。
心を折るような仕打ちは、許せなかったからだ。
だが、男は、そんなこと知ったことではない風で。
「何がダメなんだァ? 良いじゃねェか、別に。辞めたきゃ辞めりゃいい。今じゃこの手のゲームはより取り見取りだろォ? 何も、このゲームにこだわる必要はねぇ。PKなんていないゲームをやりゃいいだけじゃねえか? 始めたばっかりなら、辞めても未練もありゃしねえだろォ?」
それはそうかもしれない。一般的には。
でも、それでは困るのだ。少なくともローリエは、困る。
ユナに辞められても、良いって?
「そんなはず、無いです。……良く……あり、ません!」
「じゃあどうするってんだ?」
「PKモードオン!」
「ふっ。いいねェ? 復讐、ってかぁ? オレをPKしようってわけだ?」
ローリエは、その手に、短剣を作り出す。
【木葉短剣】という木属性の初級魔法で。
それを最大レベルまで上げた時に追加される隠し要素。
本来は、ナイフのように強化された木の葉を投げつける魔法だが。
そこから派生したこのスキルは、【大自然の弓】と同様に、自分の手に装備することができる。
「……へぇ、短剣、ね。貴様に扱えるかな?」
ローリエが構え、今にも踊りかかろうかと言うタイミング。
暗殺者は、カトブレパスの卵を、インベントリに収納した。
フロアから、卵が一つ消え失せる。
「――でも、貴様と殺るのは、今じゃねえんだよな。オレはまだ、準備が出来てねぇ。そのことはさっき、ようく解ったからよ」
「え?」
何を言っているのだろうか。
自分は気配を消して、他人の準備も何もさせないような状態で殴りかかるクセに。
「まさか、逃げるつもり、です……か?」
ローリエが言葉を言いきるかどうかと言う時。
フロア全体が振動し、地震のような地響きに見舞われる。
ゴゴゴゴゴゴゴッ、とそんな重々しく低い音が、周囲を震撼させ、パラパラと天井から土石が舞う。
「……良いぜ? ヤルっていうなら止はしねえ。でもよぉ? オレの相手をしてていいのか? 今頃、卵を取られて怒り狂った亡霊が、暴れ始めてんぜ?」
あっちのほうでな。と、シルクハットの男は、顎でクイっと指し示す。
そっちは、ドラゴンとカトブレパスの死骸があったほうで。
そして、復活したばかりのユナが残っている方だ。
「貴様の後輩が、またくたばってもしらねぇぞ?」
「くっ!」
ローリエは、踵を返すと。
【超高度跳躍】も使って。
一目散に走る。
「くっくっく、精々がんばりなぁ、オレはこの辺でおさらばさせて貰う」
そうして、背後に残した暗殺者は。
貰う物だけもらって。
その場から消え失せた。
インスタントダンジョンはゴールしなきゃ脱出できないだなんて。
ユナに言った言葉は嘘だ。
拠点に帰還するアイテムを使えば、脱出は出来るのだから。
そうそう。
「――あと、その指輪はしっかり持っておけ」
オレの手で必ず取り返す。
ローリエの短剣を見た時に、男は指にハマっているアクセサリーに気づいていた。
それが、もともと自分の物であったことに――。
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