VRMMO-RPG:SecondWorld/第二世界スフェリカ ――『ガールズ・リプレイ』――

日傘差すバイト

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第四話 『暗闇の底で』

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 日傘を、パラシュート代わりに。
 なぁんていうのは、演出で。

 重力を扱う魔法を習得しているローリエは、そのスキルを使って、落下速度を自由にできる。
 その上、重属性のパッシブスキルで、落下ダメージは無効だ。

 
 そんなローリエは、ゆっくりと地面に向かって下降中で。

 傍に暗殺者の姿はなく。
 ローリエの探知スキルにも、キャラクターの反応は見られない。
 
 そもそも、周囲は全部壁に囲まれている縦に高い細い区域。

 まるでとっても広いエレベーターの空洞のようなところを、落ちて行っている。
 ローリエの予想では、暗殺者とは別の空間IDに入ったのだろう。
 
 他人が大勢集まるイベントなんて、行く気もしないローリエには関係なかったが。
 興味があって攻略サイトを逐次見ていたローリエには、すこし覚えがある。

 石蛇王遺跡イベントの遺跡ダンジョンと、遺跡の裏ダンジョン的な石蛇王の卵関連は、別の処理だと。
 つまり、卵関連のダンジョンは、インスタントダンジョンの扱いらしい。

 インスタントダンジョン……略してIDとは。
 個人、もしくは幾人か毎に招待される特別なダンジョンで、何度も1から挑戦でき、報酬も個別に取得できるという特徴がある。
 その代わり、そういうスタイルのゲームでは、ものすごい周回を迫られたりして、飽きることも多いと思うけど。

 石蛇王遺跡イベントもその一種で。
 ただ、周回目的のダンジョンではなく。
 レアアイテムに到達できるダンジョンかどうかという。
 当たりか外れか、を自動判定して、指定人数を振り分けるシステムだと思われる。

 つまりうまくいけば。
 ローリエは超レアアイテムの巨大石蛇王カトブレパスの卵の在処まで行くことができるという訳だ。

 まぁ、ローリエにとっては、そんなことはどうでもよくて。 
 今大事なのは、残してきたパーティメンバーの事だ。

 「……ユナさん、大丈夫かな」

 ゆっくりゆっくり、タンポポの綿毛のように降下する最中。
 ローリエは残してきた初心者ちゃんの心配をしていた。
 
 ゲームはじめたての娘さんに怖い思いはさせられないと思って。
 ほぼ反射的に、ユナを庇う行動を取ってしまったけれど……。

 今ははぐれてしまって、きっとしばらく合流は難しいだろう。

 フレンドリストのユナのステータスも、消息不明Unknownになっている。
 この表示は、ここがIDであるという証拠だ。
 イベント用の空間に居て、外の情報を感知できないという意味に他ならない。 

 でもたぶん、ユナは無事だろう。
 あの通路の先に残っているはずだ。
 暫くは通路を渡れないけれど、ここがイベント用の隠し通路なら、時間が経てば崩落した通路は元に戻る。
 今のユナなら、骸骨兵くらいで死にはしないし。
 ひとりで街道を戻るのは危険だが、きっとフェルマータ達が救出に来てくれるだろう。
 なんなら、フェルマータ達がINするであろう夜までログアウトしておけば、大丈夫な筈。
  
 あとは無茶はしないこと。
 ローリエは、それを祈るばかりだ。

 でも。
 とローリエは改めて思う。

 そして嬉しそうに言う。

「さっきの私、なんか、めっちゃパーティしてたよね? ……してない? ね? ね? ね?」
 誰に問うでもないのだが。
 ローリエは、自画自賛のような言葉を、真っ暗な空間に零す。 

 自分のことより、仲間を守れた。
 これは大きなことだ。 

 一人では叶わない。

 ちょっとは、先輩らしいことができただろうか。
 出来ていてほしい。

 そう思いつつ。
 ちょっと、勝手に、いい気になりつつ。

 自己犠牲的にカッコよく仲間を守れた、と思っている。

 そんなローリエのHPは満タンだった。犠牲になっていない。
 衣装のテクスチャーもサラピンで。
 新品同様だった。

 確かに、あのときローリエは大ダメージを受けた。
 どのような風も木も、防御に使えない弱点属性だから。
 完全には防げなかった。

 しかし生存できたのは、一重にマナにもらった日傘のお陰だ。

 あの時のローリエは。
 日傘を盾にして、吶喊することで、後方のユナとの距離を開け。
 【雷光嵐サンダーストーム】の着弾点を前方にずらした。
 同時に、文字通り盾となった日傘の効果で。
 上昇した魔法防御力M/DEFが、少しだけ雷の威力を緩和してくれた。

 それが、指輪で半減した最大HPでも首の皮1枚繋ぐことが出来た要因だ。

 
 あとは、いつも通り、有り余っているエリクシルを飲んだだけである。
 
 ――そういえば。
 パーティに入れたのがうれしすぎて。
 エリクシルを売る、という当初の目的をすっかり忘れていたな。

 と、ローリエは今思うのだが。
 まぁ良いか、と思った。エリクシルはどうでもいいのだ。
 パーティが出来ていることが大事なのだから。



 そうして、ローリエは深い暗闇の底に降り立った。

 超音波の自動マッピングが機能し。
 絶対方向感知で、自分が今向いている方角も解る。

 真っ暗でも問題ない。

 しかし本当に、超音波探知が機能する範囲には、誰も居ない。
 敵も、味方も、魔物も。

「――また、ひとりになっちゃった……」

 まぁもう、慣れっこだけどね。

 ローリエは歩き出す、出口の可能性が広がっている方角へ。
 迷うことなく。
 



 そうそう、念のために『骸王シズナレヴの指輪』は外した。
 HPとMPが、元の数字に戻る。
 もしかしたら強い魔物が要るかもしれないし。
 ここは一人だから、魔法使いの真似はしなくても良い。
 代わりに、あのいけ好かない暗殺者が落とした、筋力アップの指輪でもつけておこう。

 今度であった時に、見せびらかして反撃してやるのだ。

 なんてね。

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