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第四話 『暗闇の底で』
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しおりを挟む首都から南にずっと下ったところに、広大な砂漠地帯がある。
そこは数か月前にアップデートで追加された地方で。
遺跡群が点在する、灼熱の大地となっている――。
まぁ、プレイヤーに伝わる暑さは程ほどなので、汗まみれになるようなことはないが。
ゲーム内の演出だけは、蜃気楼や砂塵など、情熱的な暑苦しさを誇る。
そんな新開拓地は、初心者の育成場所としても、なかなか人気になりつつある場所だったりする。
それというのも。
砂漠自体には、弱い敵、強い敵がごちゃ混ぜに散見されるのだが。
逆に、遺跡の内部は奥に行くにしたがって順に敵が強くなるようになっており。
遺跡の入り口付近の敵は、かなり弱い。
なので、キャラクターが強くなるに従い順に奥に進んでいけば、ずっとSP稼ぎに使っていけるのだ。
そんな噂を聞いたマナとフェルマータの勧めで、今日、ローリエとユナは、この砂漠地方に来ていた。
ちなみに、本日、リアル世間は休日だというのに、フェルマータとマナは、まだINしていない。
学業か、社畜が忙しいのかもしれない。
ゆえに、砂漠の道なき道を歩くのは二人だけ。
地平線までの黄土色に染まる大地の中、点在する石畳は5割が砂に埋まっており。
その曖昧な街道は、安全地帯とは言い難く。
すぐそばを敵意むき出しの魔物が闊歩していたりする。
しかも、強弱ごちゃまぜなので、弱小モンスターを殴っている最中に、通りすがりの中級モンスターが横やりを入れてきて、叩き潰される。
というような、状況にあったキャラクターの死体がちらほら見えるくらいに、ここは物騒な所だ。
極めつけは、小さいサソリはザコかと思いきや、実は総獲得SP70Kクラスの上級モンスターという初見殺しで、油断していると、見落としたヤツが足先に食らいつき、轟沈することになる。
そうでなくとも、その辺を歩いている石蛇王が、べらぼうに難敵なので、油断しなくてもすぐに死ぬだろうけれども。
そんな場所を、
①SP5000程度
②STR極
③最大HP=19
④スタミナは初心者特典で、常に全快。
という、超初心者のユナが、無事に往来するのは至難の業なので。
目当ての遺跡までを護衛するのが、ローリエの仕事だ。
砂漠の敵は、火属性や土属性が多く、索敵能力がバカ高い、ローリエの敵ではない。
たとえ、風の魔法使いとして対処したとしてもだ。
イメチェンを終え。
若草色の超ロングウェーブヘアーとなったローリエが。
日傘型のワンドから、風魔法を乱射し、石邪王をハメ殺すその背中に。
ユナは礼を言う。
「ありがとうございます、先輩。護衛して頂いて」
「え!? い、いえ。こんなのなんてことは……」
あはは。
と、振り向くローリエの乾いた笑いだが。
ユナからみれば謙遜して、はにかんでいるようにしか見えず。
幼女かわいい系から、幼お嬢様おしとやか系に進化した見た目が、いちいち性癖にぶっ刺さるユナはつい口走る。
「……それにしても、その髪型と日傘、似合いすぎですね……」
「うっ」
ストレートな誉め言葉に、不慣れでマジで照れる先輩に、後輩はハートキャッチされつつ。
ユナはこのゲームに、咄嗟にこっそりSSを取る方法が無いことを激しく悔やんだ。
そんなユナは、ヒュムという標準的なヒト族で。
髪もリアル寄りの色彩で、黒髪のクセっ毛ツインテールとなっている。
ややツリ目気味の大きな瞳も、ちょっと強気な雰囲気で、パーティメンバーの中では一番高身長だ。
――といっても、設定上の数値は154cmだが。
そして、服装もまだ初心者全開であり。
キャラ作成時に配布される簡素な旅人服の上に、最安のレザーアーマーを身に着けただけだ。
その上に、松明や、ロープなどの冒険者セットを詰め込んだ『初心者用カバン』を装備し、背中に鞘に納めたフランベルジュを背負っている。
しかし、そんな初心者チックなキャラクターは、ここではよく見る風貌らしく。
あちこちで、ちらほらと戦っていたり死んでいたりする。
そんな、頑張る不幸な同胞たちをしり目に。
二人はお目当ての遺跡に到着した。
周囲の状況や建物の立地を、超音波探知できるローリエが、自信をもって告げる。
「ここです、フェルマータさんたちが言ってた場所」
「すごい、由緒正しき遺跡って感じですね」
今、二人の目の前には、象牙色の柱が並んでいて。
その上には、屋根があり。
全体的に歴史を感じる、やや朽ちかけた石材で作られた、建築物がある。
並んだ柱の先には、地下へと続く石畳も目に入る。
似たような光景を思い出すユナは、とても現代的で。
「なんか地下鉄みたいです」
「う、うん……そうだね」
急にリアルの厳しさを感じるからやめて。
と、思いつつ。
今日の目的は、ユナに、このゲームでの前衛の動きに慣れてもらう事だ。
そのついでに、SPも稼げたらなおよし。
――ということになっている。
もちろん、ローリエがパーティプレイに慣れることも大事だけど。
まず、ユナにある程度強くなってもらい、4人で練習できるようにしたい、というのがフェルマータの意向だ。
つまり、特訓である。
「では、行きますね」
「うん」
ユナが率先して、先を行く。
なにせ、ユナは火力タイプの前衛だ。
前衛であるなら、魔法使いの後ろに居るわけにはいかない。
階段を降りていくユナに、ローリエが続く。
ちなみに、ここ一帯の遺跡群。
実装当時に公式が『石蛇王遺跡マップ追加イベント――大怪獣決戦の至宝――』と称してイベントを行っていた。
その時に、公式が発表していた逸話がある。
なんでも、ここは大昔には大勢の石蛇王の棲家だったという。
しかし、あるとき、一匹の竜が棲家を荒らしにやってきて、大決戦が巻き起こったそうだ。
竜は強く、ほとんどの石蛇王では太刀打ちできなかったが、ひと際巨大な1匹――『カトブレパス』の必死の抵抗が功を奏し、最終的に竜を退けることに成功した。
しかし、竜に深く傷つけられていた巨大石蛇王も、やがて息絶え、石になったのだとか。
そんなこの遺跡の奥には、その巨大石蛇王の残した卵が、今も眠っているのだという。
超極レア扱いのその卵は、素材としても超優秀で、イベント期間中は公式が用意するお得な品々と交換することも可能という事で、その時は、我先に入手しようとする輩で賑わっていたらしい。
今はイベントは終わっているが、砂漠に散らばる幾つもの遺跡の中から、当たりを引き。
さらに遺跡の最奥まで行くことができれば、卵は入手可能だ。
そして、巨大石蛇王の卵は。
LV10以上の毒でさえも、一定時間無効化する薬を作る素材となっているのだった――。
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