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第三話 『気づかぬ原動』
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しおりを挟む「というわけで、ユナちゃん、これ順番に試していきましょ」
腰に手を当てて。
いつも通り、太陽いっぱいのキラキラテンションで、そう、ユナに声をかけるのは。
ウサミミドワーフのフェルマータだ。
それに対して、ユナはちょっと歯切れが悪く。
「は、はい……」
とだけ、返事をする。
ユナは目の前に置かれた、見るだけで胸いっぱいの高カロリーな物々しさに、ちょっと気後れしそうだった。
1本なら、ワクワクするかもしれない。
でも、何十本だと、ちょっと引いてしまう。
そんな二人は、今、『ミミズクと猫・亭』の裏手にある野外広場に居る。
そこに置かれているのは、大小のケースで。
傘立てのようなそれらには、様々な武器が突っ込まれていて。
そのすべては、フェルマータが用意した物だった。
いくつかは使い込まれた形跡もあって、とても良い風に言うならばヴィンテージ感がある。
だって、フェルマータのお下がりばかりだからだ。
しかし、その種類は戦槌だけではない。
もちろん、戦槌もあるが、それも片手用、両手用とあり、さらに、片手剣、両手剣、片手槍、両手槍、片手斧、両手斧、片手メイス、両手メイス、大太刀、小太刀、日本刀、曲剣、大鎌、小鎌、鎖系、細剣、短剣、トンファー、ジャマダハル、爪……。
さらにフェルマータは、盾類や防具類も持ってきている。
「申し訳ないんだけど、ユナちゃんには物理火力係をしてほしくて、今回は魔法武器は持ってきてないの。あと、ブーメラン的な投擲系とか、弓、クロスボウも省いてます」
「……省いてこんなに……?」
攻略サイトを見た時に、スキルの量が多いのは理解していても。
実際に、目の前に、リアル世界の古代から中世時代に活躍したであろう武器たちが、騒然と網羅されて並んでいる姿は、圧巻の一言で。
なんならケースに入りきらない分が地面にも並んでいるのだ。
文字として理解することよりも。
眼で見るほうが、凄さを実感できる。
そして今日は、ユナの傍にローリエはいない。
なぜなら、今ローリエは、美容院に行っているからだ。
誰かに狙われている疑惑があるため、ちょっと見た目を弄っておいたほうが良い。
という、マナの案に、フェルマータが賛同し。
イメチェンしたローリエが見たい、という押せ押せプレッシャー女子3人に流された挙句。
マナが、ついていく、と言ってマンツーマンディフェンスを発揮し。
逃げることが出来なくなったローリエは、なし崩し的に美容院に連行されていったのだ。
だから今、この場にはフェルマータとユナしかいない。
まぁ、他にもこの『訓練場』の利用者はちらほらいるのだけど―ー。
ちなみに。
冒険者の宿には、建物の裏手や、隣接する土地などに訓練所を設けている所がある。
それは、『ミミズクと猫・亭』にもあり。
特に、『ミミズクと猫・亭』では、お店を利用しないプレイヤーでも訓練所の利用を可能にしていて、しかも無料であるため、とても初心者に優しい営業をしている。
ただ、如何せんまだ知名度が低く、料理も依頼もろくなものがそろって無いので、訓練所の利用者もそんなにはいないのだけども。
さておき。
「じゃ、ユナちゃん好きな武器を取ってみて」
「あ、はい……」
ユナは、言われるがままに、適当にケースに刺さっている得物を引き抜いた。
その手が握っていたのは、『柄』で、鞘ごと取り出されたそれは、両手剣の物だった。
刀身を鞘から引き抜くと、ぎらり、と歪に輝く波うつ刀身が姿を見せる。
剣の種類としては、フランベルジェという代物だった。
ゆらゆらと波うつ刀身が特徴で、リアルではドイツ発祥の大剣だ。
ゲーム内の設定では、ダメージを与えた対象に負傷を負わせる確率がかなり高い。
負傷とは、身体系状態異常の一種で、負傷回復効果を受けるまで、最大HPが5%減少するというものだ。
さらに負傷の状態は累積されていくので、20回分判定を受けると、最大HPが1になってしまうという馬鹿にできない効果を持っている。
そしてフランベルジュは、見た目も特に美しい。
ユナが少し剣に見惚れていると。
システムメッセージが次々に4つ程ながれる。
そのメッセージはユナにしか見えないものだが――。
ユナはつぶやいた。
「基本戦闘ますたり、剣ますたり、両手剣ますたり、両手武器ますたり、片手鞘ますたり……?」
それに、フェルマータが
「おめでとう」と言って。
続けて説明する。
「このゲームでは、武器や防具を手にしたり、魔導書を読んだりすることで、色々なマスタリを閃くの」
「すごいです。それぞれのマスタリから凄い沢山スキルが繋がってます……殆どスキルの名前の所『???』になってますけど」
「うん。今はマスタリのレベルが0の状態だから。単に武器を使えるようになったというだけなの」
「じゃあこのマスタリを上げていけば良いんですね?」
「それはそうなんだけど。最初はなるべく幅広く活用できるスキルにしておく方が良いかもしれないわね」
「幅広い……と、いうとこの基本戦闘マスタリとか、両手武器マスタリ、ですか?」
おぉ、呑み込みが早い。
攻略見て予習バッチリなのかな。
それとも頭がいい子なのかな。
とフェルマータは思いつつ。
「正解。基本戦闘マスタリは、ひとつひとつは地味だけど、どの武器でも役に立つものが揃ってるし、両手武器マスタリだと、途中で両手槍とか両手斧に路線変更したりしてもずっと使っていけるから、SPが無駄になりにくいわ。もし、まだ武器に迷うなら基本戦闘マスタリ、この先も重量武器やポールウェポンを使うなら、両手武器マスタリをあげるといいかも?」
ユナはなるほど、と頷き。
「この中で、火力が出そうな武器はどれですか?」
「火力なら、両手斧や両手鈍器系かしら。武器の振り回しは遅くなるけど、1発は大きいですよ。もちろん、その両手剣も、火力は高い方だけどね」
「片手よりは、両手って感じですよね?」
「そうね。単純な火力の面では、片手武器は、両手武器に遠く及ばないわ。手数で補う、っていう話までしていくと多少おいつけるけどね」
「……解りました。私、これにします」
「もう? 他にも武器はこんなにあるけど。それでいいなら、他のは片づけるわ」
「あ、待ってください、一応全部触ってみたいです」
「どうぞ。武器が終わったら防具もね」
「はい」
――そんな感じで。
ローリエとマナが戻ってくるまで、ユナは様々な武器の使用感を確かめつつ、自分の路線を固める材料にしていくのだった。
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