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第三話 『気づかぬ原動』
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しおりを挟む北方に位置する、シデの森と言われる、森林系最難の一帯。
その最寄りの村に、とある暗殺者風の男がふらりと現れる。
そして、その辺の木陰で休んでいた三人組に声をかけるのだった。
「よう。ちょっと聞きたいんだが、シデの森ってのは、この先なのか?」
すると、その中の一人。座り込んでいた両手剣使いが答える。
「ん? ああ、そうだけど? なんだ? パーティでも探してるのか?」
「いや、ちょっと人探しのついででな」
「人探し?」
「ああ、そうだ。念のために聞くが、あんた達、この辺でちっこいエルフを見たりしなかったか?」
「エルフ……?」
三人が顔を見合わせ、それぞれに記憶を探るそぶりを見せる。
そうして、三人のうち、木の幹に持たれかかっていた、二槍流の男が応える。
「ちっこい、ってこれくらいのか?」
掌で、背丈の目算を示す。
「そうだ。ちょうどそれくらいだった」
「それなら、シデ森奥でコモリガニを狩ってるのをたまに見たぜ」
「コモリガニ?」
「なんだ、知らないのか? 正式名称は『エンシャントフォレストクラブ』っていう、長ったらしい名前の巨大なカニだよ。オレがそのエルフを見た時は、そいつを一人で狩ってたみたいだった」
「そうか、ありがとう。助かったよ」
暗殺者風の男は、森を目指すために踵を返す。
「もしかして、行く気か?」
「そうだが?」
「やめとけ。おまえ、見た感じ防御タイプじゃないだろ? あのカニ、命中バフめっちゃ積んでくるし、一発がデカイから、ハンパな回避タイプや紙装甲のヤツが行っても死ぬだけだぜ。おまけに、重装甲判定だから『突』武器で隙間を狙えないなら、時間もかかっちまう。あと『水魔法』も使ってくるし。――効率を求めるなら、もっと別なやつを狙うか、パーティでやったほうが良い」
「でも、そのエルフは一人で戦えていたんだろう?」
「あれは、見た感じAGI極だったし。それに、色々防御バフも積んでたみたいだった。たぶんあのカニを狩るために、ビルドを合わせてあるんだろう」
暗殺者は少し考える。
「良かったら、そいつが、どういう戦い方をしていたか、もう少し教えてくれないか?」
「ああ? まぁいいけど。――でもカニはやめたほうが良いぜ?」
解っている。
本当はカニなどどうでもいい。
ヤツを殺すために、対策方法や、戦い方の情報が欲しいだけだ。
「構わない。参考になればそれで――」
そうしてしばらく話を聞いて、暗殺者風の男は三人組と分かれた。
そうして理解した。
お目当てのエルフは、木と風を使う、防御構成寄りの軽戦士ビルドに違いない。
特に、木と風という所持属性の情報はありがたかった。
つまり。
「木と風――金と雷が弱点か……」
このゲームでは、属性マスタリを上げると、その分耐性属性と弱点属性が付与される。
それはこのゲームの常識だ。
どんなスキルを使っていたのか、それが解れば自ずと取得マスタリは見えてくる。
聞いた話の中では、高いレベルの木属性と風属性スキルを持っているらしい。
ということは、金と雷からの被害もそれだけ大きくなるという事。
また、スキルに寄る防御性能は高くても、基本の防御力もそんなになさそうだった。
対応策は少し見えてきた。
しかし、この暗殺者はもう92Kの強さで、SPを稼ぐのも一苦労する。
新しく、黄系魔法を取得するのは手間だし、暗殺者のポリシーに反する。
となれば……。
「……属性付与武器か。あるいは魔法スクロールだな。……良い鍛冶師と属性付与師を探さないとか……」
あとは。
あのエルフの主力武器は、弓とレイピアだと予想できる。
どちらも『突』武器だ。
突耐性装備を準備する必要もあるだろう。
そして一番の難関。
「あとは……毒だな」
毒は、最低でも9レベル。
それも複数種類取得している。
そのことは、この暗殺者が身をもって理解した。
毒対策も必須だ。
しかし。
男は笑う。
「楽しくなってきたぜ……」
男はPKという悪行を好む問題児だ。
これまでは、自分より弱い者を選んで蹂躙してきた。
だが、今回は違う。
初めてだった。
こんなに、『ゲームをしている』気分になっているのは。
まるで、ボスを倒す準備をしているような気分になってきて。
男は笑う。楽しそうに。
フフフ……。
「……待っていろよ、チビエルフ。この前の借りは、必ず返してやる!」
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