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第二話 『初めてのパーティ』

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 「そういえば、ロリちゃん、何か頼む?」

 「え?」

 唐突に、フェルマータが聞いてきた。


 「ほら、ここ一応カフェだから」

 「あ、いえっ! 大丈夫、です!」

 STPスタミナは満タンだし、美味しいかどうかもかなりあやしい。
 なにせ、味覚の伝達においてはまだ発展途上のVRだ。
 STPスタミナの回復以外の用途で、ゲーム内での飲食は、本当にただの趣味で。
 特に、お店を経営しているプレイヤーのメニュー開発のセンスの具合によっては、緊急ログアウトが必要になるかもしれない。ダッシュで、お花畑に水をやる羽目になる。
 
 まぁ、ローリエはお店で何かを食べたことは1度もないので、全部攻略サイト情報だけれど。

 「そう? ここの料理はけっこう頑張っているのよ」
 しかし、フェルマータはここの料理を試したことがあるのだろう。
 すこし残念そうだ。
 
 マナも、ここの料理は食べたことが無い様子で、「そうなの?」とフェルマータに尋ねる。

 「ええ、なんでもスフェリカの料理を研究するって、お店を建てたみたいだし期待はできると思うわ。たぶん、今もマスターはメニュー開発しているんじゃないかしら」

 そういえば、お店の店員はまばらで、店主の姿は見えない。
 開発中だというのなら、バックヤードに居るのかもしれない。
 
 しかし、店員も少ないが、客も少ないのは気になる所。
 ここは仮にも首都のど真ん中なのに。

 それに、この仄かに香る木材の香。
 予想できることは一つ。

 ローリエは、何気なく尋ねる。

 「そ、そういえば、このお店、出来たばかり……ですか?」

 「そうよ。まだオープンして一週間くらいじゃないかしら。だから、斡旋できるクエストも少ないし、メニューも少ないし、稼ぎが少ないから店員もそんなに雇えないみたい」

 へぇ。
 こんなすごい立地にこんなに広いお店を建てるなんて、結構なリアルマネーが必要なのに。
 と、ローリエは感心してしまう。

 そして確かに、まだお店としては未完成らしく。
 たまに入ってくる客は、まるで美術館に来たかのように、店内を一巡すると出て行ってしまう。
 階段という境界を隔てた対岸のクエスト斡旋所からは、「ろくな依頼ねぇじゃねえか? なんかねぇのか? まだ貼りだしてないやつとかよォ?」なんて、客のクレームが聞こえてきている。


 「露店の代行も、まだ受けてない?」

 マナが口を挟む。
 「たぶんね――」とフェルマータ。
 「――そもそもお店に知名度が無いのよ。ここでアイテムを売るとなれば、代行費用を取られるわけだし、疎らにしかお客が来ないお店で、アイテム売っても効率悪いでしょ?」

 「まぁそうね」

 「せめて何か、ものすごいレア物の露天販売の代行を取り付けることが出来たら、ちょっとは違うんでしょうけどね」
 

 確かに、現状、広い店内は遊んでいる空間が多いようにみえる。
 おそらく、その遊んでいる空間が、代行販売のための場所なのだろう。

 今はがらんとしている。

 ローリエはさらに問う。

 「2階は何に使ってるんです?」

 「2階は、宿よ。長期滞在も出来るわ。今の所、宿が一番の収入源みたいだから、良かったらロリちゃんも使ってあげてね」

 「私たちも使ってる」
 「うん、一番安い部屋なら、一泊5000グランで、首都の中ではリーズナブルな方よ」

 うん。どうだろう。
 ずっと森に居て、宿を使ったことが無いローリエには、高いか安いか分からない。
 
 それにしても、二人はこの宿を拠点にしているのだろうか。
 だとしたら、ローリエも使う必要があるだろう。
 自分だけ、使わないというのは、なんか……疎外感を感じるので。


 ローリエもこの宿の利用を検討しよう、と思っていると。

 フェルマータが立ち上がった。
「さて、では、せっかくだし、このまま三人で今日の宿代でも稼ぎに行きましょうか」
 
 続いてマナも席を立つ。
「そうね。ロリの実力も見たい」


「へっ!?」
 ローリエは驚く。
 二人を見上げて。

 
「――場所どこにする? いつもの場所?」
「そうね。急にランクを上げても上手くいくか分からないわ。今日はロリの戦いぶりを観察するだけにする。あそこなら、雷属性の魔物は出ないし、ロリにも戦いやすい筈」
「おっけー」

 オォ!?
 おっけーではない!
 勝手に話が進んでいく。
 それに、ロリというあだ名が定着してしまっている。
 
 なんということでしょう。

 フェルマータとマナは、今から出立する気満々で、ローリエの行動を待っている。

「え、行くんですか? 今から!?」

「そうだけど、このあとなにかリアルで用事でも?」

「いえッ……。別に、無い、ですけど」

「じゃ、行きましょ」

「大丈夫。フェルが守ってくれる」

「うんうん。私、治癒も出来るし、盾スキルもマスター済みよ」
 安心して、とフェルマータは魔銀ミスリルのブレストプレートに掌を置く。

 

 ――これは断れない流れ。
 そして、パーティを組むという事は、一緒に戦うのは当然で。
 むしろ、それが一番の目的で。
 そもそも。
 雑魚とすら戦えないというのなら、大精霊なんて相手にできる筈もない。

「解りました」
 ローリエが立ち上がる。


「よし、では各自、準備が出来たら首都の南門に集合!」

「心得たわ」

「りょ、了解、です!」
 
 
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