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第一話 『踏み出す一歩』

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 「ご、ごめんなさ……。急に声出ちゃって」

 湧き上がるのは、羞恥心。
 ローリエは急に大きな声を出したことを詫びる。
 
 「ううん、それより、あなたパーティに興味あるの?」

 「え、いや……。ちがっ。いやじゃな……くて、その」

 「じゃあ、もしかして、もう他のパーティに入ってたり?」

 そんなことは無い。絶対にない。
 一度だって無い。

 うつむいたまま。
 ぶんぶん、とものすごい勢いで、ローリエは首を振る。否、と。

 「そっか。私、さっきも言ったけど、今、どうしても倒したいボスが居てね。何度か試したんだけど、どうやっても今の戦力じゃ無理みたいで。だから、手伝ってくれるメンバーを探してるの」

 ドワーフの少女は、地面を見つめたままのローリエを見る。
 テンションが低く、乗り気でなさそうにも見える仕草。
 
 ちょっと強く推し過ぎたかな、と。
 もしかしたら、迷惑だったかな、と。

 本当は、どこかへ行けと思っているのかな、と。
 世の中には、一人の方が好きって人もいるし。

 ドワーフはそう思ったから。


「――もしよかったら頼めないかなって、思ったけど……」

 少女の言葉尻に、諦めが混じる。

 ローリエの伏せっていた目が、前を向く。
 改めて。そして確かに。
 目の前のドワーフ少女を、その眼が見た。

 しかし、それと同時に。


「でも、あんまり無理に誘うわけにはいかないわね。そっちにメリットがあるかどうかも分からないし」

 その姿が踵を返す。
 ロングマントが翻る。


 ローリエの視界には、ドワーフの少女の小さな背中。
 マントの上から背負った大きな盾と、頭に装着したウサ耳。
 そのシルエットが、青空が見え始めた空を向く。

 土砂降りだった雨は。

 霧雨に代わっていた。

 
 完全に止んでしまったら、少女がここに留まる理由はもうない。


 いや、もう軒下から出ても問題ない程の雨の強さだ。
 今にも出て行くかもしれない。


 だから。
 言わなければ。
 パーティに入ると。 
 今すぐに。

 
 これは千載一遇のチャンス。
 この3年間、1度も無かったチャンスだ。

 ローリエのSPは99K。
 全く役に立たないということは無い。

 いや、絶対役に立って魅せる。

 だから、パーティに入ると。

 言わなければ!
 言わなければ!!
 言わなければ!!!

 ぐっと、握った拳に力が籠る。
 
 


 「悪かったわ。それじゃ」





 「待って!」



   ――ください。






 超絶な、デクレシェンド。
 
 去ろうとしたドワーフ少女が立ち止まり。

 振り返る。
  

 「あっ! アノッ、パ…………ッ――」

 不揃いなアクセントに、波うつボリューム。
 
 言葉としては、全く用を成していない。
 が、しかし。
 記号の羅列のような、それだったが。
 


「え? 入ってくれる……んですか? 私のパーティに?」

 はい、です。
 そう、です。
 いえす、です。
 OK、です。
 肯定、です。
 
 こくこく、とローリエは全力で、頷いた。
 
 ドワーフが立ち去るのをやめて、再び、ローリエの隣に戻ってくる。

 
「ありがとう」
「い、いえ。でも、お役に、立て、るか、は……」
 
「大丈夫よ。もしも、強さが足りなければ、一緒に修行しましょう?」
「は、はいっ」

 『一緒に』!?
 なんてすばらしい響きなのだろう。


「私は、ドワーフで、見ての通り防御型でパラディンぽいことをしてる、フェルマータです、よろしく」

 あなたは?

「わ、わた、私はッ……名、前、ローリエ……ですっ」

「そう。ローリエちゃん? じゃあ、略して『ロリちゃん』ね」

「ろ、ろり!?」


「だって、背ちっちゃいし。全体的にロリってしてるじゃない?」

 そっちドワーフじゃない。
 おまえが言うなァ!







 ……って言いたいです、すごく。
 そんな勇気ないですけどね!



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