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第三百二十九話 戦わなければ生き残れない!

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「うーん?」


 目が覚めると背中にフカフカとした感触を感じた。起き上がると頬を冷たい風が撫でた。


「ここは……草原?」


 最初に目に映ったのは月明りに照らされている草原だった。そして、左右に薄い橙色の壁があるのに気が付く。
 確かホウリさんに睡眠薬を盛られたんだっけ。どうやら眠っている間に草原に運ばれたみたいだ。


「これなんだろ?」


 右を向いて壁に触れてみる。かなり固い、結界に近いかな?
 そんな事を考えていると、壁の向こうに見覚えのある白衣の男性がいた。


「ミントさん?」


 それは発明家のミントさんだった。何を隠そう、僕の携帯弓を作ったのもミントさんだ。
 ミントさんは手に持っていたボードを下敷き代わりにして、紙に何かを書いていた。


「おーい!ミントさーん!」


 大声で呼んでみると、ミントさんも僕に気が付いたのか顔を上げた。


「起きたのか」
「はい。あの、状況を教えてくれませんか?」
「構わないぞ。だが、その前に」


 ミントさんは僕の背後を指さした。


「後ろを見てくれ」
「後ろ?」


 ミントさんに促されるまま振り返ってみる。


「って、うわっ!」


 そこには大量の魔物が壁を突破しようと、攻撃をしてる光景があった。



「こ、これって!?」
「戦闘準備をしながら聞きたまえ。生き残りたいならな」


 訳が分からないけど、言われた通り弓と矢筒を取り出して戦闘準備を進める。


「まず、ここはオダリムの草原だ」
「それは分かってますよ!?僕が聞きたいのは、なんで魔物の群れの前に放置されているのかってことです!」
「この特殊結界の試験のためだ」


 ミントさんが結界を愛おしそうに撫でる。


「これは私の最高傑作でな。結界で魔物の侵入を防ぐことができるのだ」
「それは凄いですね。でも、僕がここにいる理由になっていないのでは?」
「この特殊結界は広い場所でしか使えないのだ。そこでオダリムの草原ほどの広さが必要なのだ」
「確かにその結界があれば防衛も楽になりますね」


 けど、そんな結界があるのなら僕がいる意味は無いんじゃないだろうか。


「実はこの特殊結界は耐久性が低いのだ。一度に大量の攻撃を受けると割れてしまう。そういう風にな」


 ミントさんが言うや否や、目の前の結界に徐々にヒビが入っていった。


「な!?」
「計算では約1分で君を守っている結界は破壊される。それまでに戦闘準備を済ませたまえ」
「いきなりですね!?起きて30秒くらいしか経ってませんよ!?」
「文句を言う暇があるのなら手を動かした方がいいぞ?」


 ミントさんが冷たく告げる。確かにどれだけ文句を言っても解決しないけど、冷たすぎない?


「君のミッションは特殊結界を守ることだ。制限時間は夜明けまで。約5時間ほどだな」
「そんな長時間、魔物の群れを戦わないといけないんですか!?」
「その通りだ。今回は特殊結界の稼働時間の実験だから、壊されるのは困る。命に代えても守ってくれたまえ」
「やるしかないみたいですね……。他の人は何処ですか?先ほどから姿が見えませんけど?」


 辺りを見渡しても、他の冒険者の人たちの姿はない。夜中は魔物の襲撃も増えて来るから、沢山いると思ったんだけどな?


「ああ、君意外の冒険者はいないぞ」
「……へ?」
「ホウリからの伝言だ。『強くなりたいのなら、死ぬ気で戦え。それが一番の近道だ』だそうだ」
「強くなりたいとは言いましたけどね!?もう少し手心とかないんですか!?」
「『あ?ねぇよそんなもん』だそうだ」
「なんで僕のツッコミの返答まで伝言されてるんですか!?」


 そんな話をしている間にも目の前の結界のヒビは広がっていく。どうやら戦いまでの時間は、そこまで残されていないみたいだ。


「矢が足りなくなったら補充する。ただし、申請があってから提供までに5分はかかるからな。矢が尽きる前に申請したまえ」
「分かりましたよ!こうなったらやってやりますよ!」


 弓の弦を張り終えて、矢筒に矢を込め終える。見た感じ、魔物の数は数百匹くらい。種類はウルフ系が多く、ゴブリンが少し混ざっているかな。


「1体ごとのレベルは低そう。けど、数が多すぎる」


 今見えているのを倒しきっても、奥から新しいのが次々とやってくるだろう。それを5時間相手にしないといけない。しかも、後ろにある結界も守らないといけない。かなりキツイ状況だろう。
 けど、これを乗り切れば今以上に強くなれるだろう。経験値もたんまりゲットできるだろうし。
 ネガティブになっても仕方ない。ポジティブにいこう。


「ふぅぅ……よし!」


 大きく息を吐いて、矢筒から矢を取り出す。


「よし!行くぞ!」


 そう言った瞬間、結界が音を立てて割れた。そして、結界でせき止められていた魔物は一斉に僕に襲い掛かって来た。


「せい!」


 僕は持っていた矢を魔物の群れに向かって放つ。すると、矢は先から裂けていき、複数本の矢に分裂した。矢が分裂するエンチャント、クラウドショットだ。
 矢は複数の魔物を貫き、光の粒にしていく。そして、魔物がいなくなった箇所に向かって立て続けに矢を放つ。矢は魔物に当たることなく、地面に向かって落ちていく。
 そうしているうちに、クラウドショットに巻き込まれなかった魔物が襲い掛かってくる。
 僕は矢を放って魔物たちを葬っていくけど、数が多すぎて捌き切ることが出来ない。
 ついにはブロンズウルフが僕の喉元に向かって牙を突き立てて来た。だが、牙が喉に触れた瞬間、僕はブロンズウルフの遥か後ろにワープした。僕が愛用しているエンチャントであるワープアローだ。


「まだまだ!」


 僕を見失った魔物たちにクラウドショットを放ち光の粒に変えていく。


「これで結界に近い魔物は倒した。けど……」


 僕は振り返ってみる。そこには地平線の向こうからどんどん魔物は迫ってきていた。


「クラウドショットだと殲滅力が足りない。だったら他の手段を使うしかない」


 とりあえず、あれだけの数の魔物を殲滅するには時間がかかる。
 魔物に刺さらないように草原の地面に矢を刺していく。


「まだだ、まだ足りない」


 クラウドショットも使って、地面に向かって矢を刺していく。
 なるべく広範囲に多くの矢を地面に刺していく。だが、その間にも魔物たちは僕に向かって襲い掛かってくる。
 何とか攻撃を躱しつつ、何とか地面に向かって矢を放つ。


「これだけあれば良いかな?」


 手持ちの矢をほとんど放ち終わった。草原にはかなりの数の矢が刺さっている。


「準備はオッケー。あとは、この矢で」


 矢筒に残っていた最後の矢を地面に向かって放つ。瞬間、放った矢から他の矢に向かって電撃が走っていく。


『グベアアアアア!』


 矢の間にいた魔物に電撃が走り、草原に焦げ臭い匂いが漂ってくる。
 この矢はユミリンピックの時にも使ったライトニングボルト。矢と矢の間に電撃を走らせていくエンチャントだ。
 矢を広範囲にばらまいておけば、殲滅力も上がっていく。けど、広範囲に矢を経由させると、電撃の威力が下がる。レベルが低い魔物じゃないと効かないだろう。


「結構、殲滅できたかな?」


 キレイになった草原を見て僕は満足感に包まれる。
 けど、まだ魔物もやってくる。今の内に矢を補充しないと。


「ミントさん!矢の補充をお願いします!」
「分かった。5分ほど待ってくれ」


 ミントさんが懐から何かの発明品を取り出して、耳に当てて話し始める。
 あ、そっか。矢の補充は5分くらいかかるんだった。これならもう少し早く矢の補充を要請しておくべきだった。


「まさかとは思うが、矢が尽きて要請をしてきた訳ではないよな?」


 ミントさんが目を鋭くして僕を睨んでくる。


「……ソンナコトナイデスヨー」
「ホウリに計画性が無いやつだとは言われていたが、ここまでとは……」
「……すみません」
「別に謝らなくても良い。ただ、あの魔物を矢を使わずに勝てるのかと思っただけだ」
「え?」


 ミントさんの視線の先を見ると、下半身が馬で上半身がミノタウロスの魔物、ミノケンタウロスがいた。
 大きな斧を構えて荒く息をしている。
 ミノケンタウロスとはミノタウロスの5倍ほどの強さを持つ魔物だ。勿論、弓使いが矢を使わずに勝てる相手ではない。


「……これどうしようか?」
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