上 下
326 / 392

第二百七十四話 団員を守るのは俺の仕事だ

しおりを挟む
 ヤマタノオロチを遠ざけた後、他の皆と合流するまで、僕らは対策を取ることにしました。
 火を起こして暖を取りながら、ミエルさんがクラフさんに尋ねます。


「それで、やりにくいと言っていたが、具体的にどういうことなんだ?」
「良く分からないのよ。いつもの攻撃が当たらなかったり、動きが違ったり……」
「つまり、いつもと動き方が違ったという訳か?」
「端的に言うとそうね。けど、なんだかそれだけじゃない気がするの」
「どういうことだ?」
「直感的なことだから言葉にするのは難しいわね」


 なんだか話しにくそうだ。これは、これ以上聞いても何も出ないかな?


「ふむ、私達がいたら勝てそうか?」
「戦力は?」
「こんな感じだ」


 ミエルさんが王都の騎士団の戦力をまとめた紙を渡す。
 クラフさんが紙を目を通して口を開く。


「流石は王都の騎士団ね。これなら何とかなりそうだわ。けど、私達が消耗しすぎて、力に慣れそうにないのよ」
「なら、急いで回復してくれ。それまでは、私たちは時間稼ぎに専念する」
「ありがと。そうと決まれば、急いで街に戻らないとね」


 クラフさんが、スミル騎士団の皆さんを1か所に集める。


「みなさーん、王都の騎士団の方たちが向かっているらしいです。ヤマタノオロチもしばらくは来ないと思うので、休憩や物資の補給をしてきてください」
「団長はどうするんですか?」
「私はここに残ります。幸い、私は消耗していないし、1人くらいはヤマタノオロチを知っている人が残った方が良いでしょう」
「分かりました」


 ガントレットを付けていた男の人が騎士団の人達の前に出る。


「団長の代わりは俺が務める。すぐに街に戻って補給と回復を行い、済んだら戻ってくる。いいな?」
「「「はっ!」」」
「では、出発!」


 上に登っていく騎士団の皆さんを、クラフさんは手を振る。


「本当に行かなくてよかったのか?」
「ええ。大丈夫よ。それよりも、早く王都の騎士団が来てくれると嬉しいかな」
「流石に神級スキル持ちが3人いるとはいえ、ヤマタノオロチ相手では厳しいからな」
「そうですね。……ん?3人?」


 ミエルさんの言葉に僕は引っ掛かりを覚える。


「今、神級スキル持ちが3人って言いました?」
「ああ」
「つまり、クラフさんも神級スキルを持っているんですか?」
「そうよ」
「ええ!?」


 あまりの衝撃に思わず目を見開く。


「ど、どの神級スキルを持っているんですか!?」
「私の神級スキルは『杖神』。回復、デバフ、バフのスキルが得意よ」
「特に回復スキルは強力でな。私が知っている奴の中で3番目に強い回復スキルだ」
「3番目……」


 1番と2番はフランさんとノエルちゃんだろうから……イレギュラーな存在を除いて1番強い回復スキルを持っている人ってこと?凄すぎない?


「やあね、褒め過ぎよ」
「事実だ。それに、バフとデバフも役に立つし、それらを使うための思考力もある。伊達にスミルの騎士団長をやっている訳では無いのだぞ」
「それは凄いですね!そんな人が味方にいるなんて頼もしいです!」


 僕はスミルさんの手を握って真っすぐ見つめる。すると、クラフさんは視線を反らせて苦笑した。


「えっと、その……あははは」
「ロワ?何をやっている?」
「あ、ご、ごめんなさい!」


 ミエルさんから殺気を受けて僕は手を離す。
 テンションが上がりすぎて、つい手を握ってしまった。初対面の人になんて失礼なこと……。


「本当にごめんなさい」
「べ、別にいいのよ?ちょっとびっくりしただけだから」
「そうはいかない。今後、同じことをしないように注意してくれ」
「は、はい」


 目力を強くして、ミエルさんが顔を近づけてくる。なんだか、今までで一番威圧感がある気がする。
 僕が何度も首を縦に振ると、ミエルさんは満足したのか顔を遠ざけてくれた。


「では、これからの事をまとめるぞ。まず、王都の騎士団と合流。その後、ヤマタノオロチを捜索し、可能であれば戦闘し、押さえつける。そして、スミルの騎士団が合流したら、討伐へ切り替える」
「スミルの騎士団の方々は、どのくらいで到着するんですか?」
「3時間はかかると思って欲しいかな」
「思ったよりも短いですね」
「そうだな、普通なら半日はかかる」


 この高地を上り下りするのは時間がかかるはずだ。3時間で補給と回復を終えて往復するなんて、かなり早い。
 普段、どんな過酷な訓練をしていたら、そんなに素早く行動ができるんだろうか。


「では、焚火で皆に場所を知らせつつ、ここで待機だな」
「そうですね」


 空を見上げると、星空が瞬いている。空気が澄んでいるからか、王都よりも輝きが強い。だから、たいまつが無くても周りを見る事ができる。
 戦うには都合がいいけど、それを差し引いても幻想的で心が奪われる。


「……とても綺麗ですね」
「そうだな」


 ミエルさんの声から、さっきまでの緊張感が無くなる。少しでも心が休まったのなら良かった。


☆   ☆   ☆   ☆


 結局、王都の騎士団と合流したのは日が昇り始めた時だった。
 皆さんと合流してから、僕らは下山してヤマタノオロチを探す。


「見つけた者はすぐに報告するように」


 ミエルさんにそう言われて、僕らは注意深く周りを観察する。けど、あんな巨大な魔物の姿は見えない。


「見つからないわね?」
「麓まで転がったのか?」
「だとしたら厄介ね。見つからないと、今後、襲ってくるかも」
「そうだな。可能であればここで仕留めてしまいたい」


 ミエルさんとクラフさんが話し合いながら、周りを注視する。
 自分でやっておいてなんだけど、かなり面倒なことになってしまった。これって、見つけられなかったら、僕の責任では?腹を切ってお詫びするべきなのでは?


「…………」
「どうした?顔色が悪いぞ?」
「……大丈夫です」
「本当か?今から腹を切る奴の顔になってるぞ?」
「…………問題無いです」


 ケット先輩は首を傾げたが、それ以上は何も聞いてこなかった。
 とにかく、一刻も早くヤマタノオロチを見つけないと。腹を切るのはゴメンだ。
 目を皿のようにしてヤマタノオロチを探す。でも、あんな巨大な魔物が開けた斜面にいるんだったら、すぐに気付くだろう。やっぱりここにはいないのかな……ん?


「ミエルさん」


 とある違和感を覚えた僕はミエルさんに声を掛ける。


「どうした?」
「あそこ見てください」


 僕は下の方を指さす。そこは不自然に雪が盛り上がっていた。


「なんだあれ?」
「さあ?でも、何も無いのに雪が積もってるのは不自然じゃないですか?」
「ふむ、調べてみるか。私が近づくから、皆は後ろから様子を見てくれ」
「それではミエルさんが危険ですよ!?」
「団員を守るのが団長の仕事だ。それに、私なら多少攻撃を受けても問題無い」
「ダメです」
「だが……」
「だって、僕が嫌ですから」


 そう言うとミエルさんが言葉を失った。それを肯定と受け取った僕は矢筒のカバーを外す。


「僕が矢で攻撃します。それで様子を見てみましょう」


 普通の矢だとダメージは無い筈。だったら、劣化トリシューラの方がいいかな。
 そう思い、劣化トリシューラを弓に番えて引き絞る。MPは100、様子見ならこれくらいで良いと思う。


「……ふっ」


 MPを籠め切った劣化トリシューラが雪が積もったところへ突き刺さる。瞬間、雪の下からヤマタノオロチが勢いよく飛び出してきた。


『シャアアアアア!』
「え!?」


 8本の首で威嚇してくるヤマタノオロチを見て、クラフさんが眼を見開く。


「ヤマタノオロチに雪に潜る習性はない筈よ!?」
「これも普段とは違うという点の1つだろう」


 ミエルさんが大剣と盾を構える。


「全員行くぞ!目標はヤマタノオロチだ!」
「「「おおおおおおお!」」」


 各々が武器を構えて、目標であるヤマタノオロチを見据える。
 こうして、ヤマタノオロチとの戦いが始まったのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

この眼の名前は!

夏派
ファンタジー
「パンイチ最高ッッ!!!!!!!!!」  目が覚めたら、パンイチで椅子に括り付けられていた。  異世界に転生した俺は、チート能力を期待していたが、実際の職業はまさかの無職。  唯一もらった眼の力も「相手の嫌なこと」、「相手の好きなこと」だけがわかる力?!  夢の異世界なのに、剣も魔法も使えない展開に!  どうなっちまうんだ俺の異世界ライフ!  ゆるゆる異世界ファンタジー。俺YOEEE系。コメディ感覚でどうぞ。  よく誤字ります。ご了承を。  投稿は今現在忙しいので不定期です。  第13回ファンタジー小説大賞、890位獲得。これからの伸びに注目。

処理中です...