魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百四十話 ヨシッ!

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「うんしょ、うんしょ」


 旅から戻って来た次の日、ノエルはおっきなリュックを背負って登校していた。すると、後ろからひょっこりとコアコちゃんが顔を出した。


「あれ?ノエルちゃん?」
「コアコちゃん、おはよ」
「おはよう。凄い荷物だね」
「皆にお土産を買ったからね。持ってくるの大変だよ~」
「これ全部お土産なの?」
「うん」


 これだけ大荷物になるとは思ってなかったけど後悔はない。勿論、お小遣いでは足りなかったから、ホウリお兄ちゃんにお金を借りた。今度おつかいをしないとね。


「重そうだね。少し手伝おうか?」
「ノエルが全部持ちたいから大丈夫。ありがとね」


 アイテムボックスは全部使ってるし、このお土産は全部持っていくしかない。でも、これくらいなら魔装を使わなくても楽勝だ。


「ノエルちゃんって力持ちだよね」
「ホウリお兄ちゃんに鍛えられているからね」


 筋肉があれば魔装も維持しやすくなる。だから、特訓はわざと負荷が掛かる様にしているらしい。おかげで大きいリュックを持ててる。


「旅行に行ってたんだよね?どこに行ってたの?」
「ハイファイの街だよ」
「ハイファイ?」
「技術の街って言われてる街で、珍しいものがいっぱいあったよ」
「どんなものがあったの?」
「独りでに開くドアとか」
「えー?お化けじゃないのに、ドアが独りでに開くの?信じられないよ」
「お化けの方が信じられないと思うよ?」


 お喋りを楽しみながら登校していると、パンプ君が歩いているのが見えた。


「あ、パンプ君だ」
「ほんとだ。おーい」


 パンプ君はノエル達に気が付くと、笑顔で手を振って来た。


「ノエルとコアコじゃないか。おはよう」
「おはよー」
「パンプ君、おはよう」
「……何それ?」


 パンプ君がノエルが背負っているリュックを指さす。


「これ?皆へのお土産だよ?」
「なんでお土産がそこまで多いの?」
「多い方が皆も嬉しいでしょ?」
「無駄遣いに思えてヒヤヒヤする」
「そう?」


 パンプ君はリュックを渋い顔で見る。パンプ君は無駄遣いとかが嫌いみたい。ずっと節約していたからかな?


「それにしても、お話するの上手くなったね?」
「いっぱい練習したからね」
「それどころか性格も柔らかくなったよね?」
「だよね。前は、『誰も信じない』みたいな雰囲気だったのにね」
「あれは周りに汚い大人たちが多かったから、誰も信じられなくて……」
「ノエル達は信じてくれるってこと?」


 パンプ君が頬を染めて無言で頷く。それを見てノエルは自然と頬が緩む。頑張って良かった~。
 2人とお喋りしながら教室に向かう。


「おはよー!」


 元気よく教室の扉を開けると、既に教室にいる子達の視線が一斉にノエルに向いた。
 瞬間、皆が勢いよくノエルの元にやってきた。


「ノエル!急にいなくなって心配したんだぞ!」
「ごめんね。急にハイファイの街に行くことになってさ」
「ハイファイ!?どんな所なの!?」
「んーとね、珍しいものがいっぱいあったよ」
「珍しい物?」
「うん!水族館とか弓の展覧会とか!」


 ノエルは撮ってきた写真を取り出して、皆に旅の思い出を話す。
 こうして、ホームルームのチャイムが鳴るまで、ノエルはハイファイの街にについて話した。


☆   ☆   ☆   ☆


(キンコーンカーンコーン)
「終わったぁぁぁ!」
「ノエルさん、終了のチャイムが鳴るたびに叫ばないでください」


 最後の授業終了のチャイムが鳴り、いつも通りナマク先生がノエルを窘める。だけど、今回は落ち付くわけにはいかない。


「今からハイファイのお土産を配ります!」
「「「イエーイ!」」」


 皆の歓声を受けながら教室の後ろに置いておいたリュックを持ってくる。
 本当は朝のうちに渡しておきたかった。けど、ナマク先生が荷物になるだろうから放課後に回した方が良いって言われたから我慢した。


「まずはカール君からね。はい、どーぞ」
「ありがとう」


 リュックから紙袋を取り出してカール君に渡す。


「開けていい?」
「いーよ」


 紙袋を開けると、真っ黒なエプロンが出て来た。胸元にはカール君の『M』をモチーフにした模様が入っている。


「料理が好きだって聞いたからね。汚れが付きにくいみたいだから、簡単に洗えるよ」
「ノエルちゃんありがとう!」
「ちょっと待ちなさい」


 カール君エプロンを掲げて喜んでいるのを見ていると、後ろからサルミちゃんに肩を掴まれた。


「なあに?もしかして、お土産が待ちきれなかった?」
「そうじゃないわよ。まさか、全員に個別に買ってきたの?」
「そうだよ」
「呆れた。こんなのは大入りのお菓子を買ってきて、全員で分けてで終わりでしょ?」
「皆に喜んで欲しいと思って。ダメだった?」
「ダメではないわよ。ただ、中身を丁寧に説明していると、日が暮れるわよ」


 サルミちゃんが言うことも一理ある。日が暮れたら遊ぶ時間が減っちゃう。早く渡さないと。
 ノエルは説明もそこそこに皆にお土産を配る。その甲斐もあって、30分後にはオカルト研究以外の子にお土産を配ることができた。


「はー、やっと終わりが見えたよー」
「お疲れ様」
「コアコ、自業自得なんだから労いの言葉はいらないわよ」
「サルミちゃんひどーい」
「酷くないわよ。で?私にはどんなお土産を買ってきたの?」


 そっぽを向きながらも、ソワソワと体を動かすサルミちゃん。口は悪くても、楽しみにしてくれてるんだ。
 嬉しくなったノエルはサルミちゃんにお土産を渡す。


「はい、どーぞ」
「ペンと消しゴム?」
「サルミちゃんってお勉強を頑張ってるでしょ?だから、書きやすいペンと消しゴムがあればいいかなって」
「まあまあね。貰ってあげてもいいわ」


 お土産がすぐさまアイテムボックスに仕舞われる。最近分かって来たけど、サルミちゃんのこの態度はとっても嬉しいって意味だ。よく見ると、頬がちょっと赤いし間違いない。


「次はコアコちゃんだね。はい」


 ノエルはコアコちゃんに分厚い本を渡す。


「ありがと。これは……え!?」


 笑顔で受け取ったコアコちゃんだったけど、題名を見て目を見開いた。


「『世界のオカルティズム100選』!?これってかなりレアだよ!?よく見つけたね!?」
「本屋さんに入ったら偶々あったからさ。コアコちゃん喜ぶかなーって」
「とっっっっっても嬉しい!ありがと!今度お礼するね!」
「えへへ、楽しみにしておくね」


 本を愛おしそうに抱きしめるコアコちゃん。これだけ喜んでくれるとノエルも嬉しくなっちゃうね。


「次はパンプ君」
「僕のもあるの?」
「勿論。はい、どーぞ」
「ありがとう」


 ノエルは家計簿とお財布を渡す。


「家計簿とお財布?」
『変わったチョイスだな』
「……これは!」
「どうしたの?」
『まさか価値があるものなのか?』
「普通の家計簿と財布だね」


 パンプ君の言葉に皆がズッコケる。


「リアクションと物の価値があってないのよ!」
「でも、丁度欲しかったものだよ。ありがとうノエル」
「でしょ?もっと褒めても良いんだよ?」
「調子に乗らないの」
「あ痛っ」


 サルミちゃんからチョップを受ける。なんでか、サルミちゃんのチョップって痛いんだよね。


「さっさとマカダにお土産を渡しちゃいなさい」
「はーい」


 すっかりと軽くなったバッグからトマト缶くらいの缶を3つ取り出す。


『マカダ君どーぞ』
『これはプロテイン?』
「なんでプロテインなのよ。今までで一番変よ?」
「ホウリお兄ちゃんから聞いたんだけど、最近鍛えてるんでしょ?」
『まあな』
「だからノエルもお手伝いできないかなって」


 ホウリお兄ちゃん曰く、毎日死ぬほど頑張ってるみたい。ノエルが直接手伝う事は出来ないみたいだから、これくらいはしてあげたい。


『どう?気に入らないんだったら、他のお土産に取り換えようか?』
『いや、かなり気に入った。大切に飲ませてもらおう』
『良かった~』


 受け取ってもらえてホッと胸を撫でおろすと、パンプ君がリュックを持ち上げた。


「ん?」


 違和感を覚えたのか、パンプ君が首をかしげる。


「どうしたの?」
「まだ入ってるみたいだけど、他に誰かにあげるの?」
「あ、忘れてた」


 あの子には最後に渡そうと思ってたんだった。忘れる所だった。


「誰へのお土産なの?」
「秘密。ちょっと行ってくるね」
「え?ノエルちゃん?」


 ノエルはリュックを背負って廊下に飛び出す。この時間だと、校門から帰っている筈だ。
 そう思って校門に行くと、予想通りお目当ての子、フロランちゃんとお友達のトウキちゃん、サイテンちゃんを見つけた。
 3人が学校を出る前にノエルは大きく手を振る。


「おーい」


 大きな声で叫ぶと3人がこっちを向いた。


「あんたは……」
「よかったー、完全に帰っちゃう前でよかったよ」
「何か用かしら?」


 トウキちゃんとサイテンちゃんが、フロランちゃんを隠すようにノエルに立ちふさがる。フロランちゃんもノエルを睨んでる。
 やっぱり嫌われているみたいだ。どうにかしてお友達になれないかな。
 気を持ち直して、ノエルはお土産を取り出す。


「あのね、ハイファイの街に行ったからお土産を買って来たんだ。3人の分も買ってきたから渡しておこうと思って」
「そんなのいらないわよ」
「さっさと何処かに行きなさい」


 お土産さえ見て貰えずに、トウキちゃんとサイテンちゃんに追い返されそうになる。
 まだだ!まだあきらめない!


「せめてどんなのかだけでも見てよ」


 ノエルはお土産を押し付けるように渡す。


「トウキちゃんとサイテンちゃんには可愛くて美味しい金平糖。はい、どーぞ」


 半透明で可愛らしい瓶に入った金平糖をトウキちゃんとサイテンちゃんに渡す。トウキちゃんとサイテンちゃんは受け取った金平糖を食い入るように見る。よかった、気に入ってもらったみたい。


「フロランちゃんには、良い匂いのするタオルね。剣の特訓の後に使うと気持ちいいよ。洗っても1年は香りが続くからね」
「そんなのいらないわよ」
「少しで良いから使ってみてよ。いらなかったらノエルの机の上に置いてくれたらいいからね。トウキちゃんとサイテンちゃんも、いらなかったら机においといてね」
「……はっ!こ、こんなのいらないわよ」
「そ、そうよ!」


 金平糖を眺めていたトウキちゃんとサイテンちゃんは慌てたようにソッポを向く。似たような反応をどこかで見たような?ま、いっか。


「じゃあね!バイバーイ!」


 お土産を押し付けたノエルは、皆の元に走って帰る。よし、全部配れたかな。
 次の日、ノエルの机にはフロランちゃんに上げたタオルだけが置かれていた。残念だけど、金平糖は無かったし良しとしよう。
 次は受け取って貰えるように頑張らなくちゃ。
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