魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百六十話 だから売りに戻る必要があったんですね

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 王都を出発してから2日、予定通りにキューリ地方の村である「マトト」に着いた。
 村の外にバギーバイクを止めてアイテムボックスに仕舞う。


「ふう、少し暑いな。火山が近いから当たり前だが」


 ミエルが見上げると、巨大な火山が目に入った。この火山の影響で良質な鉱物が取れるが、噴火による被害も大きい。だから、村の建物には燃えやすい木ではなく石が使われているのが特徴だ。
 マトトにいる魔族はドワーフ、背が小さくガタイが良い力持ちの種族だ。ここの鉱山で取れた鉱物をそのまま出荷するか、武器に加工して村の外に売っている。


「俺は鉱山に向かう。お前らは宿でも取っておいてくれ」
「もう?少しゆっくりしてもいいんじゃない?」
「時間が無いから速攻で情報を集める。夜には戻るから先に休んでおいてくれ」
「……一人で大丈夫か?」
「調査だけなら俺の方が早い。無理だと思ったらすぐに戻るさ」
「分かった。イトウ、ロット、行こう」


 皆が村の奥に向かうのを見て、俺も鉱山に向かう。村の地図は頭に入っている。俺は一直線に鉱山へと向かう。
 走る事数分、鉱山へとたどり着いた。切り立った崖に足場が付いていて、そこから鉱山内部に侵入出来る。出入口は10m程の高さにあり、落ちたらひとたまりもないだろう。
 しかし、今の鉱山には見張りのドワーフ以外の人気は全くない。鉱山内に入れないから当たり前か。
 足場に上るには見張りのドワーフに許可を貰わないといけない。こっそり進入することも出来るが、明日の鉱山攻略の話を付ける必要もあるから、今の内に許可を取った方が早いな。
 俺は見張りのドワーフに小走りで近付く。


≪すみません≫
≪ん?あんた誰だ?≫


 俺はフランから貰った許可証を見せながら様子を見に来た事を説明する。
 見張りのドワーフは許可証を見ると納得したように頷く。


≪そう言う事なら入って良いど≫
≪ありがとうございます≫
≪ちょっと待つど。その装備で鉱山に入るつもりか?≫


 鉱山に入ろうとしたら止められた。たしかに、俺の格好は普通の長袖、長ズボンに革の鎧という戦闘スタイルだ。このまま鉱山に入るのは自殺行為だろう。


≪大丈夫だ。ちゃんと準備はしてある≫


 そう言って俺は鎧を脱いでガスマスクを付ける。光も最低限は必要だからカンテラも取り出して明かりをつける。最後にMPを通さない特殊な布を被る。


≪これでどうだ?≫
≪それなら問題ないど。無理だと思ったらすぐに引き返すんだど?≫
≪命大事にだろ?分かってるって≫


 時間が惜しい俺はドワーフに見送られながら鉱山に入る。鉱山は思ったよりも大きく、人が3人並んで入るくらいの幅があった。これなら進むのに苦労はしなさそうだ。
 鉱山には毒ガスが発生する場合があるから始めにガスマスクを付けた奴が安全を確認する。また、カンテラの光は火じゃなくて、ムーンライトグラスという発光する草を使っている。
 ゴーレムは光ではなくMPで目標を補足する。だから今纏っている布でMPを遮断して補足されないようにしている。これで完璧だ。
 とはいえ、どれだけ準備しても不測の事態は起こる可能性はある。油断せずに行こう。
 そう思って鉱山に足を踏み入れてみる。カンテラで明かりを確保しながら、何か異常が無いか五感をフルに使って様子を探る。
 鉱山に入って数分、2つに分かれた道に当たった。


「どこに行くかだな」


 坑道内の地図も頭に入っているが、行くところを間違えれば時間をかなりロスする事になるだろう。


「ここは慎重に行くか」


 俺は足を止めて耳を澄ませる。


「……どちらにも石が擦れる音が聞こえる。だが、左から聞こえる音が何か変だな?」


 複数の音の中で、圧倒的に大きい物が動く音が聞こえる。しかも、ゴーレムみたいに石が擦れる音ではなく、金属が擦れる音がしている。これは何かあるな。
 左に進路を決めた俺はこれまでよりも慎重に歩く。そして、すぐに異変に気が付いた。


「……聞いていたよりもゴーレムが多いな」


 俺の目の前に1mくらいのゴーレムが5体いた。
 こいつらはミニゴーレム。ミエルが王都で戦ったゴーレムより小さく、耐久度も低い。しかし、あくまでも通常のゴーレムと比較してという話で、個人で勝つのはかなり厳しい。A級パーティーの銀の閃光でも3体を相手にするのがやっとだろう。そんな奴が5体、しかも奥にまだいる気配がする。魔国が手を焼く訳だ。
 俺はミニゴーレムに触れないように慎重に奥に進む。奥に進むごとに坑道は広くなっていく。それに伴ってミニゴーレムの数も増えていく。
 正攻法で行く場合はこのミニゴーレム達を何とかしないといけない。厄介だな。


「だが、一番厄介なのはこの奥の奴だな」


 さっきの音から大体の目星は付いている。念の為、正体を確認しておくが大きく外れてはいないだろう。
 慎重に進み、とうとう坑道の奥までたどり着いた。さっきから聞こえている金属が擦れる音もここから聞こえている。俺は壁に隠れながら様子を見てみる。
 そこには一際大きな体のゴーレムいた。ゴーレムは壁の石を削り取ると大口を開けて食らう。口から零れ落ちた石が独りでに集まると、ミニゴーレムへと変貌した。
 大きなゴーレムをよく見てみると石の隙間がキラリと光った。間違い無い、スーパープラチナゴーレムだ。
 情報は揃った。後はどうやってこいつをやっつけるかだ。


「とりあえず戻るか」


 来た時は不測の事態の為に慎重に来たが、ここまで来たら慎重に行く意味もないな。速攻で戻ろう。
 俺は動き辛い布と呼吸がしにくいガスマスクを取っ払う。瞬間、坑道内のミニゴーレムの視線が俺に向く。
 俺はミニゴーレムの攻撃を回避しつつ、隙間を縫って坑道を全力で戻る。スーパープラチナゴーレムはと言うと、俺の事は気にせずに食事を楽しんでいる。
 そんなスーパープラチナゴーレムを背に俺は坑道を駆ける。


「はぁはぁ、やっと出口か」


 走る事数分、出口の光が見えて来た。しかし、後ろには俺を追ってきているミニゴーレムの気配がある。このままだと坑道の外に出てしまうな。だったらいっその事……
 俺は速度を緩めずに出口から飛び出す。すると、坑道の外にある足場も飛び越え空中に踊り出た。
 ミニゴーレム達も俺に釣られて足場から空中に身を投げ出す。
 俺は空中で振り返って足場に向かってワイヤーを飛ばしブレーキを掛ける。ミニゴーレム達はと言うと、そのままの勢いのまま地面に激突してバラバラになっていた。


「よし」


 俺はワイヤーを徐々に伸ばして地面に着地する。すると、見張りのドワーフが血相を変えて飛んできた。


≪な、何が起こっただ!?≫
≪ちょっとゴーレムがバラバラになっただけだ。HPは0だから害はない≫
≪そういう問題ではないだよ!?≫
≪調査の段階で生じた致し方ない犠牲だ。いわゆるコラテラルダメージってやつだな≫
≪そういうもんだべか?≫


 ドワーフに最低限の説明だけ済ませて俺は村の中を駆ける。目的地はミエル達がいる宿……ではなく、鉱物を取り扱っている商店だ。
 俺は閑古鳥が鳴いている商店に入りレジに向かう。レジには暇そうに欠伸をしているドワーフの店主がいた。
 俺はレジの前に立つと、ドワーフの店主の前に金貨の詰まった革袋を叩きつける。ドワーフの店主は目を丸くして俺を見てくる。


≪い、いきなりなんだ!?≫
≪この店にあるスーパープラチナを全部売って欲しい。この金貨で足りないんだったら追加で出そう≫
≪は?≫


 俺の言葉に店主が首を傾げると、とりあえずと言った様子で革袋を開けた。瞬間、目玉が飛び出そうな程に目を大きく開けた。


≪こ、こんなに……?≫
≪悪いが急いでいる。売らないんだったら他に行かないといけないから、即決してくれ≫
≪わ、分かった。あんたに今あるスーパープラチナを売ろう。けど、何に使うんだ?≫
≪ゴーレム退治だ≫


 俺の言葉に店主は更に首を捻ったが、それ以上は質問してくる事は無く店の奥にスーパープラチナを取りに行った。
 俺はスーパープラチナを受け取ると、アイテムボックスに仕舞って店を出る。
 そして、今度こそ宿に向かう……事も無く、今度は鍛冶屋に向かった。
 鍛冶屋の扉を開けて、さっきと同じように職人の前に金貨が詰まった革袋を叩きつける。


≪な、なんだぁ!?≫


 俺はさっき買ったスーパープラチナをアイテムボックスから取り出す。


≪このスーパープラチナを取っ手状に加工して持ちやすくして欲しい。金ならいくらでも出す≫
≪それはまた珍妙だな?≫
≪明日の朝までに仕上げて欲しい。出来るか?≫
≪こっちはゴーレムが出て暇なんだ。喜んで引き受けよう≫
≪明日の8時に取りに来る≫
≪あいよ≫


 依頼をして鍛冶屋を出た俺はようやく宿に向かうのだった。
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