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第百五十七話 卑怯もラッキョウもあるものか!
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ノエルの受験の翌日、フランは私とロワとノエルをリビングに呼ばれた。
リビングに入ると、フランは今まで見たことが無い程に真剣な表情をして座っていた。
「どうした?」
「まずは座るんじゃ」
私たちは訳が分からず席に着く。何やらいつにも増して真剣な雰囲気だ。これはただ事ではない。
フランが真剣な表情のまま口を開いた。
「ホウリに勝ちたい」
予想外の言葉にしばらく言葉が出なくなる。
言葉を反芻して、ようやく理解した私は思った事を口にしてみる。
「突然どうした?」
「言葉通りの意味じゃ。ホウリに勝ってみたい」
「言葉の意味は分かっている。どうしたいかを聞きたいんだ」
「確かにそれだけでは何がしたいのか分からないですね」
私たちの言葉にフランは大きくため息を吐く。
「思い出してみい。今までホウリを負かした事はあるか?」
「……結構負けてませんか?」
「トランプとかで負けてるよね?」
ロワとノエルの言う通り、ホウリはいつも無敵という訳ではない。むしろ、トランプと言った遊びでは負けの方が多いくらいだ。
「それは皆で楽しめるように手加減しておるからじゃ。ホウリが本気を出せば、わしらが勝つことなど出来ん」
「それはそうだろう」
ホウリが本気を出したらイカサマと心理学で無双してくるだろう。
「勝てなさそうな条件でもルールの穴を突いて勝つでしょうしね」
「私と初めて戦った時のような感じか」
あの勝負だけは今だに納得していない。
「ともかく、本気のホウリに勝ってみたいんじゃよ。お主らは勝って見たくないのか?」
「僕だって勝って見てみたいですよ。けど、勝てるんですか?」
「勝ちたいんだったら、フランお姉ちゃんがホウリお兄ちゃんを襲ったら?」
「それはなんだか違うじゃろ。一方的な虐殺になる」
「勝ち確定の勝負をけしかけるのはダメなんですね。だったらどうするんですか?」
ロワがもっともな疑問をぶつける。ホウリを本気にさせた上で勝つなど出来る気がしない。
そう思っていると、フランがニヤリと笑った。
「わしに妙案がある」
「何だ?」
「例えば塩仕込んだ紅茶をホウリに飲ませられたら、ホウリは負けたと思うのではないか?」
「不意打ちで仕掛ける訳か」
「卑怯じゃないですか?」
「ホウリ自身が卑怯な手段を使いまくっておるのじゃ。自分に卑怯な手を使われて怒るような奴ではなかろう」
フランが悪の親玉のような悪い笑みを浮かべる。
だが、フランの言う事も一理ある。ホウリに勝つには勝負事を持ちかけてもダメだ。だったら不意打ちで仕掛けるというのは有効な手だろう。
「そこでじゃ、皆で『打倒ホウリ計画』を練ろうと思ってな」
「面白そうだな。私も乗ろう」
なにせ、初戦の恨みが晴れていない。この機会に恨みを晴らさせてもらおう。
「僕も乗ります。なんだか面白そうです」
「ノエルも~」
「決まりじゃな。ホウリがおらんから今の内に作戦を決めるぞ。誰か案はないか?」
「さっき言ったみたいに紅茶に塩をいれるとかどうですか?」
「食べ物に何かを仕込むのか。確かに気付かれにくそうだ」
ホウリに一泡吹かせるとなると、なるべく気付かれにくい方法を取るのがいい。食べ物に仕込むのは中々良い手だ。
「じゃが、ホウリを嵌めるのであれば策は1つでは足りない。もっと他にないか?」
「家に罠を仕掛けるのはどうだ?」
「罠か。種類によっては良いかもしれんな」
「じゃあさ、こういうのはどう?」
こうして思ったよりも会議は盛り上がったのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
諸々の準備を終えて、私たちはホウリが帰って来るのを待つ。
「ホウリさん、引っ掛かってくれるでしょうか?」
「いっぱい考えたんだし大丈夫だよ」
椅子に座っているロワが緊張したように体を震わせる。対するノエルはあまり緊張した様子は無い。
当の私はと言うと、そこまで緊張はしていない。こういう時は平常心を持たないと思わぬ失敗をしてしまう物だからだ。
そうこうしていると、玄関から扉を開ける音がした。
「ただいまー」
玄関からホウリの声が聞こえる。瞬間、リビングに緊張が走る。
「お、おかえりさなーい」
「おかえりじゃ」
不審に思われないように返事を返す。まずは玄関の仕掛けだが、上手くいくか……。
状況を把握するために耳を澄ませるが、何も聞こえてこない。これは失敗か?
そう思っていると、水風船を手に持ったホウリがリビングに入って来た。
「この水風船を仕込んだのは誰だ?」
「あ、ノエルが仕掛けた奴だ」
ノエルはワイヤーを踏み抜くと水風船が落ちてくるトラップを仕掛けていた。が、あっさり見破られたみたいだ。
「なんだ?いたずらか何かか?」
「ごめんなさい……」
「これぐらいなら可愛い物だ。ただ、やり過ぎるなよ?」
「うん」
ホウリが水風船を仕舞う。そんなホウリにフランが紅茶のポットを持ってきた。
「紅茶でも飲むか?」
「おう」
「ノエルも飲むー」
「僕もいただきます」
「私も飲もう」
「分かった」
フランが全員分の紅茶をカップに注ぐ。
「ほれ」
「わーい」
ノエルが嬉しそうに紅茶を飲む。ホウリもシュガーポットから角砂糖を取り出して紅茶に入れる。
その様子を見て私は心の中でほくそ笑む。次の作戦は紅茶の中に塩作戦だ。ここでのポイントは、普通に紅茶に塩を入れるのではなく砂糖を塩に変える事だ。
ノエルが普通に紅茶を飲めば、怪しまれる可能性は著しく減る。まさか砂糖が塩になっているとは思われないだろう。
ホウリが紅茶をかき混ぜている様子を見て勝ちを確信する。
塩を溶かし切ったホウリは紅茶を飲もうとするが、ふと何かを思い出すと紙を2枚取り出した。
「そう言えば、ロワとノエルの試験の件で渡しておくものがあった」
「なんですか?」
「合格の確認方法だな。読んでおいてくれ」
ロワとノエルは差し出された紙を受け取る。
そう言えば、合格の確認方法はまだ説明していなかったな。私の時は自宅に手紙が届いたが、今も同じだろうか。
そう考えながら、私は紅茶を口に含む。瞬間、
「ブー!」
強い塩味を感じて、思わず紅茶を吐き出す。まるで海水を飲んだかのようにしょっぱい。なんだこれは!
思わずホウリを見ると、悪戯っぽく笑いながら紅茶を飲んでいた。
「知ってるか?砂糖は甘い匂いがするが塩は違うんだぜ?」
「匂いで気が付いたという訳か」
「そう言う事だ。紙を差し出した時にカップをすり替えた」
「く……ぬかったか」
私が悔しそうにしているのをみてホウリが勝ち誇ったように紅茶を飲む。
「今日はどうした?俺に悪戯が成功したら勝ちのゲームでもしてるのか?」
「……バレてしまっては仕方ない」
私たちはリビングの隅に移動する。そして、フランが壁から伸びている紐を手に取った。
その様子をホウリは不思議そうに見ている。
「なんだそれ?そんな紐は無かっただろ?」
「これは対ホウリ専用の仕掛けじゃ」
「俺用の仕掛け?」
そこまで聞いて嫌な予感がしたのか、ホウリが椅子から立ち上がる。
「逃がすか!」
フランはすかさず紐を引っ張った。
すると、家じゅうから機械音が響きわたり壁が開いた。
「特性パイ砲、発射!」
フランの号令と共に穴から無数のパイがホウリに目掛けて発射される。
「なんだこれ!?」
ホウリは驚きつつも、無数のパイを避けていく。回避出来ないと思った物は結界や木刀で弾きながらパイを捌いている。
「なんだこの仕掛け!?今朝まではこんな仕掛け無かっただろ!?」
「とある発明家に依頼して家を改造して貰ったんじゃよ!パイが一つでも当たればわしらの勝ちじゃ!」
「意味わからない理論だな!?というか、ミントの奴の仕業か!」
「お主を倒すためだと言ったら快く引き受けてくれたわい」
「あの野郎、今度仕返ししてやる!」
ホウリから殺気が放たれる。
ちなみに、ミントへは一切支払いをしていない。ミント曰く、『ホウリの悔しそうな顔を見られるのであればお安い御用だ』だそうだ。私が言うのは何だが、皆ホウリの悔しい顔を見たいのだな。
「ほれほれ、まだまだパイはあるぞ。ちなみに、扉はロックされておるから出られると思うでないぞ?」
「お前らな……」
呆れた表情で私たちを見てくるホウリ。ちなみに、私たちはフランの結界の中にいるからパイが届く事は無い。
パイで汚れていく部屋でホウリは抵抗を続ける。
「ふっふっふ、もう降参したらどうですか?」
「お兄ちゃんの負けだー」
「ふざけんな、この程度で負けるほどヤワじゃないんだよ」
そう言うと、ホウリは壁に空いた穴に何かを弾いた。瞬間、壁から何かが爆ぜる音がして、パイの発射が完全に止まった。
「な、何をした!?」
慌てているフランにホウリが笑いながら答える。
「火薬の量を調整した爆弾を放り込んだ。突貫工事なだけあって、装置は攻撃はめっぽう弱いみたいだな?」
そう言って、ホウリはこちらに近付いてくる。
「さあ、観念してもらおうか?」
「どどどどうしましょう!」
「落ち着け!確か、奥の手があった筈じゃ!」
「奥の手?そんな物があるのか?」
「ミントが言っておった。確か、この紐を限界まで引っ張れば良いと言っておったわい」
「何が起こるんですか?」
「知るか!」
「ノエル、聞いてたよ。えっと、じ……じば?なんだっけ?」
「行くぞ!」
ノエルの話を聞かずにフランが紐を思いっきり引っ張る。すると、壁から先ほどよりも大きな機械音が響いてきた。
体の底から震えてくる程の大きな機械音を聞きながら、私の心に不安が湧いてくる。これ、本当に大丈夫か?
「うーんと……あ!思い出した!」
不安に思っていると、隣にで悩んでいたノエルが手を打って満面の笑みになる。
「『自爆』だ!」
「……へ?」
瞬間、目の前が真っ白になり轟音が響いた。思わず皆の前に出て盾を構える。
轟音が響いて数秒後、恐る恐る盾から周囲を覗いてみると、家だった建物が崩れ去って燃えていた。どうやら、フランの結界のお陰で私達は無傷みたいだ。
当たりの様子を見ながら呆然としていると、フランがぼそりと呟いた。
「……やりすぎたのう」
「そんな事言ってる場合ですか!?早くホウリさんを探さないと!」
「その必要は無い」
ホウリの声が近くの残骸から聞こえた。驚いて声がした方を見ると、服が焦げてアフロヘアになっているホウリの姿があった。
「なぜ生きておる?」
「爆破するって分かったから、その前に家を爆破して残骸で盾を作ったんだよ。いきなり過ぎたから防ぎきれなかったがな。そんな事より……」
ホウリが鋭い目をこちらに向けてくる。その目には強い怒りの色が見える。
「全員そこに直れ」
「「「「すみませんでした」」」」
その後、無茶苦茶説教された。
リビングに入ると、フランは今まで見たことが無い程に真剣な表情をして座っていた。
「どうした?」
「まずは座るんじゃ」
私たちは訳が分からず席に着く。何やらいつにも増して真剣な雰囲気だ。これはただ事ではない。
フランが真剣な表情のまま口を開いた。
「ホウリに勝ちたい」
予想外の言葉にしばらく言葉が出なくなる。
言葉を反芻して、ようやく理解した私は思った事を口にしてみる。
「突然どうした?」
「言葉通りの意味じゃ。ホウリに勝ってみたい」
「言葉の意味は分かっている。どうしたいかを聞きたいんだ」
「確かにそれだけでは何がしたいのか分からないですね」
私たちの言葉にフランは大きくため息を吐く。
「思い出してみい。今までホウリを負かした事はあるか?」
「……結構負けてませんか?」
「トランプとかで負けてるよね?」
ロワとノエルの言う通り、ホウリはいつも無敵という訳ではない。むしろ、トランプと言った遊びでは負けの方が多いくらいだ。
「それは皆で楽しめるように手加減しておるからじゃ。ホウリが本気を出せば、わしらが勝つことなど出来ん」
「それはそうだろう」
ホウリが本気を出したらイカサマと心理学で無双してくるだろう。
「勝てなさそうな条件でもルールの穴を突いて勝つでしょうしね」
「私と初めて戦った時のような感じか」
あの勝負だけは今だに納得していない。
「ともかく、本気のホウリに勝ってみたいんじゃよ。お主らは勝って見たくないのか?」
「僕だって勝って見てみたいですよ。けど、勝てるんですか?」
「勝ちたいんだったら、フランお姉ちゃんがホウリお兄ちゃんを襲ったら?」
「それはなんだか違うじゃろ。一方的な虐殺になる」
「勝ち確定の勝負をけしかけるのはダメなんですね。だったらどうするんですか?」
ロワがもっともな疑問をぶつける。ホウリを本気にさせた上で勝つなど出来る気がしない。
そう思っていると、フランがニヤリと笑った。
「わしに妙案がある」
「何だ?」
「例えば塩仕込んだ紅茶をホウリに飲ませられたら、ホウリは負けたと思うのではないか?」
「不意打ちで仕掛ける訳か」
「卑怯じゃないですか?」
「ホウリ自身が卑怯な手段を使いまくっておるのじゃ。自分に卑怯な手を使われて怒るような奴ではなかろう」
フランが悪の親玉のような悪い笑みを浮かべる。
だが、フランの言う事も一理ある。ホウリに勝つには勝負事を持ちかけてもダメだ。だったら不意打ちで仕掛けるというのは有効な手だろう。
「そこでじゃ、皆で『打倒ホウリ計画』を練ろうと思ってな」
「面白そうだな。私も乗ろう」
なにせ、初戦の恨みが晴れていない。この機会に恨みを晴らさせてもらおう。
「僕も乗ります。なんだか面白そうです」
「ノエルも~」
「決まりじゃな。ホウリがおらんから今の内に作戦を決めるぞ。誰か案はないか?」
「さっき言ったみたいに紅茶に塩をいれるとかどうですか?」
「食べ物に何かを仕込むのか。確かに気付かれにくそうだ」
ホウリに一泡吹かせるとなると、なるべく気付かれにくい方法を取るのがいい。食べ物に仕込むのは中々良い手だ。
「じゃが、ホウリを嵌めるのであれば策は1つでは足りない。もっと他にないか?」
「家に罠を仕掛けるのはどうだ?」
「罠か。種類によっては良いかもしれんな」
「じゃあさ、こういうのはどう?」
こうして思ったよりも会議は盛り上がったのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
諸々の準備を終えて、私たちはホウリが帰って来るのを待つ。
「ホウリさん、引っ掛かってくれるでしょうか?」
「いっぱい考えたんだし大丈夫だよ」
椅子に座っているロワが緊張したように体を震わせる。対するノエルはあまり緊張した様子は無い。
当の私はと言うと、そこまで緊張はしていない。こういう時は平常心を持たないと思わぬ失敗をしてしまう物だからだ。
そうこうしていると、玄関から扉を開ける音がした。
「ただいまー」
玄関からホウリの声が聞こえる。瞬間、リビングに緊張が走る。
「お、おかえりさなーい」
「おかえりじゃ」
不審に思われないように返事を返す。まずは玄関の仕掛けだが、上手くいくか……。
状況を把握するために耳を澄ませるが、何も聞こえてこない。これは失敗か?
そう思っていると、水風船を手に持ったホウリがリビングに入って来た。
「この水風船を仕込んだのは誰だ?」
「あ、ノエルが仕掛けた奴だ」
ノエルはワイヤーを踏み抜くと水風船が落ちてくるトラップを仕掛けていた。が、あっさり見破られたみたいだ。
「なんだ?いたずらか何かか?」
「ごめんなさい……」
「これぐらいなら可愛い物だ。ただ、やり過ぎるなよ?」
「うん」
ホウリが水風船を仕舞う。そんなホウリにフランが紅茶のポットを持ってきた。
「紅茶でも飲むか?」
「おう」
「ノエルも飲むー」
「僕もいただきます」
「私も飲もう」
「分かった」
フランが全員分の紅茶をカップに注ぐ。
「ほれ」
「わーい」
ノエルが嬉しそうに紅茶を飲む。ホウリもシュガーポットから角砂糖を取り出して紅茶に入れる。
その様子を見て私は心の中でほくそ笑む。次の作戦は紅茶の中に塩作戦だ。ここでのポイントは、普通に紅茶に塩を入れるのではなく砂糖を塩に変える事だ。
ノエルが普通に紅茶を飲めば、怪しまれる可能性は著しく減る。まさか砂糖が塩になっているとは思われないだろう。
ホウリが紅茶をかき混ぜている様子を見て勝ちを確信する。
塩を溶かし切ったホウリは紅茶を飲もうとするが、ふと何かを思い出すと紙を2枚取り出した。
「そう言えば、ロワとノエルの試験の件で渡しておくものがあった」
「なんですか?」
「合格の確認方法だな。読んでおいてくれ」
ロワとノエルは差し出された紙を受け取る。
そう言えば、合格の確認方法はまだ説明していなかったな。私の時は自宅に手紙が届いたが、今も同じだろうか。
そう考えながら、私は紅茶を口に含む。瞬間、
「ブー!」
強い塩味を感じて、思わず紅茶を吐き出す。まるで海水を飲んだかのようにしょっぱい。なんだこれは!
思わずホウリを見ると、悪戯っぽく笑いながら紅茶を飲んでいた。
「知ってるか?砂糖は甘い匂いがするが塩は違うんだぜ?」
「匂いで気が付いたという訳か」
「そう言う事だ。紙を差し出した時にカップをすり替えた」
「く……ぬかったか」
私が悔しそうにしているのをみてホウリが勝ち誇ったように紅茶を飲む。
「今日はどうした?俺に悪戯が成功したら勝ちのゲームでもしてるのか?」
「……バレてしまっては仕方ない」
私たちはリビングの隅に移動する。そして、フランが壁から伸びている紐を手に取った。
その様子をホウリは不思議そうに見ている。
「なんだそれ?そんな紐は無かっただろ?」
「これは対ホウリ専用の仕掛けじゃ」
「俺用の仕掛け?」
そこまで聞いて嫌な予感がしたのか、ホウリが椅子から立ち上がる。
「逃がすか!」
フランはすかさず紐を引っ張った。
すると、家じゅうから機械音が響きわたり壁が開いた。
「特性パイ砲、発射!」
フランの号令と共に穴から無数のパイがホウリに目掛けて発射される。
「なんだこれ!?」
ホウリは驚きつつも、無数のパイを避けていく。回避出来ないと思った物は結界や木刀で弾きながらパイを捌いている。
「なんだこの仕掛け!?今朝まではこんな仕掛け無かっただろ!?」
「とある発明家に依頼して家を改造して貰ったんじゃよ!パイが一つでも当たればわしらの勝ちじゃ!」
「意味わからない理論だな!?というか、ミントの奴の仕業か!」
「お主を倒すためだと言ったら快く引き受けてくれたわい」
「あの野郎、今度仕返ししてやる!」
ホウリから殺気が放たれる。
ちなみに、ミントへは一切支払いをしていない。ミント曰く、『ホウリの悔しそうな顔を見られるのであればお安い御用だ』だそうだ。私が言うのは何だが、皆ホウリの悔しい顔を見たいのだな。
「ほれほれ、まだまだパイはあるぞ。ちなみに、扉はロックされておるから出られると思うでないぞ?」
「お前らな……」
呆れた表情で私たちを見てくるホウリ。ちなみに、私たちはフランの結界の中にいるからパイが届く事は無い。
パイで汚れていく部屋でホウリは抵抗を続ける。
「ふっふっふ、もう降参したらどうですか?」
「お兄ちゃんの負けだー」
「ふざけんな、この程度で負けるほどヤワじゃないんだよ」
そう言うと、ホウリは壁に空いた穴に何かを弾いた。瞬間、壁から何かが爆ぜる音がして、パイの発射が完全に止まった。
「な、何をした!?」
慌てているフランにホウリが笑いながら答える。
「火薬の量を調整した爆弾を放り込んだ。突貫工事なだけあって、装置は攻撃はめっぽう弱いみたいだな?」
そう言って、ホウリはこちらに近付いてくる。
「さあ、観念してもらおうか?」
「どどどどうしましょう!」
「落ち着け!確か、奥の手があった筈じゃ!」
「奥の手?そんな物があるのか?」
「ミントが言っておった。確か、この紐を限界まで引っ張れば良いと言っておったわい」
「何が起こるんですか?」
「知るか!」
「ノエル、聞いてたよ。えっと、じ……じば?なんだっけ?」
「行くぞ!」
ノエルの話を聞かずにフランが紐を思いっきり引っ張る。すると、壁から先ほどよりも大きな機械音が響いてきた。
体の底から震えてくる程の大きな機械音を聞きながら、私の心に不安が湧いてくる。これ、本当に大丈夫か?
「うーんと……あ!思い出した!」
不安に思っていると、隣にで悩んでいたノエルが手を打って満面の笑みになる。
「『自爆』だ!」
「……へ?」
瞬間、目の前が真っ白になり轟音が響いた。思わず皆の前に出て盾を構える。
轟音が響いて数秒後、恐る恐る盾から周囲を覗いてみると、家だった建物が崩れ去って燃えていた。どうやら、フランの結界のお陰で私達は無傷みたいだ。
当たりの様子を見ながら呆然としていると、フランがぼそりと呟いた。
「……やりすぎたのう」
「そんな事言ってる場合ですか!?早くホウリさんを探さないと!」
「その必要は無い」
ホウリの声が近くの残骸から聞こえた。驚いて声がした方を見ると、服が焦げてアフロヘアになっているホウリの姿があった。
「なぜ生きておる?」
「爆破するって分かったから、その前に家を爆破して残骸で盾を作ったんだよ。いきなり過ぎたから防ぎきれなかったがな。そんな事より……」
ホウリが鋭い目をこちらに向けてくる。その目には強い怒りの色が見える。
「全員そこに直れ」
「「「「すみませんでした」」」」
その後、無茶苦茶説教された。
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